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片道切符  作者: すもも
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ここじゃないどこかへ

遠くへ行きたい、遠く、遠く、ここではない何処かへと。


あたしには自分の居場所が分からない。学校へ行けば友達もいるし、家にいれば家族だっている。だけれど部活に恋愛にきらきら輝いている友達を見ると違う場所に居るんだなと感じてしまう。家族のことだって好きだけれど、何かがやっぱり違う。そこが自分の居場所ではないような気がして、疎外感のようなものを覚えて。幸福のなかにいるはずなのに、何故だか何処かへ行きたい。遠く、遠くへ。


平日の登校時間。本来ならば学校へ向かうべきはずのその電車を、終電まで行くことにしたあたしは普段買うこともない片道切符を握りしめた。

がたん、ごとん、がたん、がたん、ごとん。

電車の振動が伝わって目を瞬いた、先ほど切符を握りしめたばかりだと思ったのに、何故だか電車に乗っている、電車がホームにやって来たことも、自分が乗ったことも覚えていなくて、首を傾げる。ふらふらと夢遊病者のように乗り込んだのかもしれない、どうにも最近考え事ばかりして、ぼんやりとしてしまっているから。

それに、とあたしは瞬きをひとつしてこの電車がおかしいことに気づく。誰も乗ってない。学生とサラリーマンと押し合っているはずのいつもの電車、なのに誰もいない。おかしい、のに。あたしはさほど気にかけることなく、静かなほうが丁度いいと目を閉じた、アナウンスが流れる。


「次は    駅、      駅、」


駅の名前がノイズで聞こえない、がたん、ごとん、がたん、電車が揺れる。しばらくすると電車がゆっくりと停車して扉が開いた音がした。目を開けて扉を見ると背の高いひとりの男の人が乗り込んできた。その人はこんなに座席が空いているに、ずまっすぐにあたしの前にやってきて、つり革に掴まって、じっとこちらを見つめてくる。居心地が悪くなりながらも視線を逸らすと、「あのさ」その人が声をかけてきた。驚きながらも知り合いだったのだろうかと視線を上げた、見覚えなどなかった。あたしはこの人を知らない。


「そこ、おれの席だからどいてくれないか」


...え?何を言っているの?自分の席?おかしなことを言っている。けれどもここで言い争っても疲れるだけ、この人はおかしな人なんだ。関わらないほうがいいに決まっている。あたしはお尻をずらして席をずらした、それなのに男の人はまだじっとこちらを見てくる。


「そこも駄目。別の人の席だから座らないで」


なんなの。あたしは不機嫌になりながらも関わり合いになりたくなくて無言で立ち上がり、座っていた席とは反対側の座席まで歩いて行き腰を下ろした。それなのに、その人はあたしが座ったのを見るなりこちらに歩いてきた。


「君の席はそこじゃない。君の席はこの車内の何処にもない」


腕を取って立ち上がらされる。なんなのこの人。駅員さんに言ってやろうかしら。あたしは駅員さんにこの常識のない男の人のことを伝えようと思ったのだけれど、運転席にいる駅員さんをこんなことで呼び出すのもよくないと思い直して、仕方なしにつり革に捕まることにした。


「あたし、終点まで行くんです。ずっと立ったままいられません」


このままではどこに座っても同じことの繰り返しになりそうで、あたしはついに文句を言ってやった。


「君にはまだ早い」


それなのに、またおかしなことを言う。


「話していれば気がまぎれるかもしれない」


見知らぬ人と?こんなおかしな人と?話すことなど何もない。あたしは男の人の近くのつり革を掴んで彼を見た。真新しいスーツ、綺麗に整えられた髪、これから面接にでも行く若者か、何処かの新入社員のようにも見えた。話していれば気がまぎれるかもしれない。なんてことを言ったのだから、何か気の利いた話でもしてくれるのかと思ったら、男の人はそのまま黙り込んでしまった。あたしは不機嫌な顔を隠しもしないままつり革に体重をかけた。やたらとノイズの走るアナウンスが流れて、少しすると電車が停止する。扉は開いたけれど、乗る人も降りる人もいなかった。扉が閉まり電車はまた出発する。がたん、ごとん、がたん。揺れる、揺れる。



読んでくれた方ありがとうございます。


前に書いたもので読みにくいと思いますし、初めから終わりまで静かな作品ですが、暇なときにでも付き合ってもらえたら幸いです。

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