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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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私の勇者様

「本当のサクラくんはどうしたいんですか?」


アイルが俺に問うてくる。そして、その答えは決まっている。


俺だってアイラを救いたい。俺は彼女に救われたから、今度は俺が救いたい。


アイラの為ならなんだってやろうと思っていた。だけど……だけど……


「俺はアイラに救われたんだ。お城から逃してもらったからとかじゃない。『心』を救われたんだよ」


俺が自分のことを話すのは、アイルが初めてかもしれない。


「アイラは俺を必要だと言ってくれた。手を差し伸べてくれた。それが嬉しかった」


俺は右手で頭を抱える。そんな俺を、アイルは黙って見ていた。


「……だけど今度は、『必要ない』って、アイラがそう言ってんだ。ここで彼女の想いを裏切ってアイラに会いに行って、失望させるのがたまらなく怖い……本当に嫌われてしまうのが怖いんだ……」


目の端に薄っすらと涙が溜まっているのがわかる。


「そんな事で人の命をって思われるかもしれない。だけど俺には、とてもデカイ物なんだよ」


「サクラくん……」


「俺はここに来る前の世界で、誰にも必要とされなかったんだよ。仲のいい友達もいなくて、家族でさえも俺を愛してはくれなかった」

 

俺はただの子供だったのかもしれない。親にかまって欲しかっただけのガキだ。


「それはこの世界に来ても変わらなかった。勇者の才能が俺にはなくて、命まで狙われた。だけどアイラだけは、俺を必要だと言ってくれた、俺に生きていてほしいと言ってくれた。だから、俺はアイラの為だけに生きていこうと思ったんだ」


目を閉じるだけで、アイラとの日々を思い出せる。


「世界の為に死んでやるもんか、一人の為に生きてやるってさ。そんなアイラにまで嫌われたら、俺には……生きていく理由なんてないんだ……」


その時、ふわりと甘い匂いがした。そして、身体全体に暖かさを感じた。


……ふいにアイルが俺を抱きしめたのだ。


「え……?」


「サクラくん」


体中に伝わる優しい感触に、一瞬思考が止まる。


「私はサクラくんの過去を何も知りせん。だけど、これだけはわかってください」


そう言うと、アイルは両手で俺の頬を包み込む。


そして、少し背伸びをしながら……


俺の唇に、自らの唇を重ねて来た。


「ーーーーっ!?」


突然のアイルの行動に、声にならない声を上げる。


アイルの唇はとても柔らかくて、いい匂いがさらに広がってきて………


時間にすればたった数秒だっただろう。だけど、永遠のように長く感じられた。


『ちゅ』っという音と共に離れていくアイルの唇を、少し名残惜しいと思う。


キスの一つをしただけだ。ただそれだけなのに、俺の心は満たされていった。


体中の醜さを追い出して、アイルの優しさが体中をかけめぐる様な感覚。


「サクラくんが求めていたものでは無いかもしれませんし、私はサクラくんのご両親でもありません。だけどこれだけは覚えておいてください。私はサクラくんをーーー愛しています」


アイルが上目遣いで、真剣な眼差しでそう告げてくる。


以前に一度好きだと言われた。アイルが俺に好意を寄せているのは知っていた。だけど、知っているだけだった。


「私はサクラくんを愛しています。必要としています。だけどそんなの、サクラくんには関係ありません」


優しい少女は、優しく語りかけてくる。


お姉ちゃんであるアイラを見殺しにすると言った俺に、優しく。


「私やお姉様も、サクラくんのご両親も他の誰かも関係ないんです。だってそうでしょう?貴方には……貴方が必要なんですから」


「俺には…俺が?」


アイルはゆっくりと頷く。


「だから、生きていく理由がないとか、そんな悲しいことは言わないでください。他の誰かじゃなく、サクラくんはサクラくんの為に生きてください」


アイルの言葉によって、俺に絡みついていた絶望が、一つ一つ解かれていく。


「素敵でしょう?これからサクラくんは自分のために笑って、泣いて、怒るんです。そして……自分の行きたい道を、真っ直ぐに進んでください」


ーーーそうか、それだけで良かったんだ。


何も特別な事なんていらなかった。俺は俺の為に生きていけば良かったんだ。


楽しければ笑って悲しいことがあったら泣いて。


誰に必要とされなくてもいい。才能がなくたって関係ない。『俺』には『俺』が必要だったんだから。……俺はずっと、人間でいられたんだ。


気がつけば笑えてくる。こんな言葉一つで救われるほど、俺の抱えているものは小さかったと言うのだ。


いや……違うな。


()()()()()()()()()()()()()()、俺の中でアイルが大きな存在なんだ。


ありがとう、アイル。


「なぁ、アイル」


「どうしたんですか?」


彼女を引き剥がし、名前を呼ぶ。すると、アイルは可愛らしく首を傾げた。


「俺にどうしたいのかって、アイルは聞いたよな?……なら、アイルは俺にどうしてほしいんだ?」


「私は……」


アイルは言葉に詰まってしまう。


「サクラくんに危険を犯して欲しくありません。大好きなサクラくんに死んでほしくありません」


だけど、時間をかけ、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「ですが、私はお姉様のことも大好きなんです」


知っている。この姉妹は本当にお互いを『愛している』


だからこそ、二人を引き剥がしてしまったことに、罪悪感を覚えるのだ。


「こんな事を頼むのは卑怯だと思います。きっと今の想いを口にしてしまえば、優しいサクラくんは私の望みを叶えようと頑張るのでしょう………そうして、たくさんたくさん傷付いてしまうんでしょう」


「……構わない。アイルの想いを教えてくれ」


アイルは呼吸を整える。


「サクラくん。大好きなサクラくん。どうかーーー」


そして。


「私の……たった一人のお姉ちゃんを……助けて……あげて…………。そしてどうか、サクラくんも死なないで……っ!」


涙ながらにそう言った。


その顔を見て、声を聞いて。


「アイル」


俺は彼女を抱き寄せ。ただ一言こう言った。


「まかせろ」

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