嘘なんですけどね
「…………ん」
朝の日差しを受け、重たい瞼を開ける。
体の節々が痛い。あまり褒められた姿勢では寝ていないようだ。
ーーーというよりも、俺はテーブルに突っ伏して寝ていた。
昨日の夜、ソファーに戻らずに、そのまま寝てしまったのだろう。
「おはよう、さっちん」
声のした方を見る。するとそこにはルミナがいた。
「おう、おはよう」
テーブルの対面に座っていた彼女は、頬杖をつき、ニヤニヤとこちらを見ていた。
「子供みたいな顔して寝るんだね」
「アホ、俺はまだ子供だよ」
この世界での大人の基準は分からないが……日本では、20まではまだ子供だ。
「ルミナ、赤くなってんぞ」
そう言って、自分の額を指差す。
きっと自分もだろうが……ルミナの額には、押し付けていたであろう腕の跡が付いていた。
「え、ほんと?」
ルミナは反射的に自らの額を隠す。対して恥ずかしそうな様子は無い。
「あと、よだれの跡も」
テーブルから立ち上がり、洗面台へと向かいながらそう告げる。
「え!?ほんとっ!?」
ルミナの顔は見えなかったが、きっと恥ずかしがり、僅かに頬を染めている事だろう。
ーーーま、よだれの跡は嘘なんだけど。
✦✦✦✦✦✦
家の中に、ノックの音が広がった。
起きてきたシノ、アイルの二人を加え、四人で雑談をしていたときの事だ。
ノックの音を聞いた瞬間、ルミナはシノへのちょっかいを辞め、全身に緊張を走らせる。
………ルミナだけではない。俺を含めたこの場にいる全員もだ。
「アイるん、裏口の場所はわかるよね?」
ルミナの問いに、アイルは首肯する。
「何かあったらすぐに逃げてね」
そう言ってルミナは玄関へと向かった。
……ただの来客であってほしいと、そう思う。だが、希望的観測は出来ない。
『騎士がこの場所を突き止めたのではないか』……そういった不安が頭をかすめる。
「………」
チラリとアイルの横顔を見る。彼女は少しだけ気分が悪そうだった。
「アイル、大丈夫だ。騎士の追手が来たとは限らないし、もしそうだとしても昨日のことは関係ない」
俺達は昨日、アイルの両親に会いに行った。その時は何もなかったが、もしかすると………
『両親は騎士に監視されていて、昨日、私達も尾行されたのではないか』とアイルは考えているのかもしれない。
………たしかに、両親に会いに行ったのは浅はかだったのかも知れない。だけど、会いに行かねばならなかったのもまた事実だ。そうしなければ、ずっとアイルの胸に棘が刺さったままだったのだから。
「はーい、どちら様ですかー?」
扉の先にある廊下、さらにその奥の玄関から、ルミナの声が聞こえてる。
俺達に聞こえるように、わざと大きな声を出しているのだ。
そして…
『ガチャリ』
ルミナがドアを開ける音で、さらに緊張が走る。
来客は誰なのか、そして俺達は裏口から逃げる必要があるのか……
その答えを求め、俺達はルミナの次の言葉を待つ。異常をを感じたら、すぐにこの場から逃げ出せるように、自分の足に力を入れる。
「………?」
だが、ルミナの声は聞こえてこなかった。
そしてその代わりに……
二人分の足音が聞こえてきた。
そしてその足音は、まっすぐにこの部屋へと向かっている。
「………アイル」
呼びかけると、彼女は小さく頷き、全身に力を込める。
ルミナの声が聞こえない。………考えられる理由は2つ。
1つ、単純に話す必要がない。俺達にどんな来客が来たのか知らせる必要がない場合だ。
そして2つめ、話すことが出来ない場合。この家にやって来たのが騎士団で、何らかの方法でルミナを脅している可能性だってある。
………どちらにしたって、とっとと裏口から逃げてしまうのが安全策だろう。
だが、出来ない。
もしも後者だった場合。………俺達がここにいると
騎士団にバレていて、すでにルミナが無力化されていると言うのなら、彼女を置いて逃げるなんて出来ない。
ーーーそしてついに、足音が止まる。扉の目の前までたどり着いたのだ。
外側から回されるドアノブが、えらくスローモーションに見え、一筋の汗が頬を伝う。
そして、これまたゆっくりと開かられた扉から現れたのは……
「やぁ、元気にしていたかい?」
………第四勇者だった。




