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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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なりそこないの使命

「この世界のどこかにいる"魔女"を探し出し、そして…………()()()()()()()()


「………は?」


アイルの父親であるオスカー・コールからのお願いは、勇者の存在理由を根本から否定するものだった。


「ま……まってください」


平静であろうとすればするほど、俺の声は震えていく。


「魔女っていうのは倒すべき敵で、その為に異世界から勇者が呼ばれていて……」


そうだ。気温の低下、魔物の凶暴化。この世界が破滅へと進む全てが、魔女のせいだと言われている。


………そう。


ーーー()()()()()()ーーー


………なんて曖昧な言葉なのだろうか。


だが、駄目だ。


勇者は魔女を"倒す"ために呼ばれた。その根底が崩れてしまえば、アイラたちは一体なんの為に……


「そ、そもそも魔女は未だその存在を確認されてないって……それを守れだなんて…………。…………え?」


自分が発した言葉で、自分自身が驚愕する。


魔女は、その存在すら確認されていない。それは確かな情報なはずだ。


………先程、オスカーさんは何といった?



『この世界のどこかにいる"魔女"を探し出し、守り抜いて欲しい』


確かにそう言った。曖昧な言葉を使わず、『この世界のどこかにいる』……そう言い切って見せたのだ。


間違いない。この男は何かを知っている。


さほど暑くも無いはずなのに、頬を一筋の汗が伝った。それに……全身の毛が逆立つような感覚。


オスカーさんに『この世界に魔女は存在するのか』……そう聞くのは簡単だ。だが、そうするともう後戻りできないような気がした。


俺は勇者としてこの世界に呼ばれた。だが、勇者になれなかった。つまり……これまでは無関係でいられたのだ。


魔女を倒すだなんて使命も、世界を救うだなんて使命も関係ない。


そんなのは、本物の英雄(ヒーロー)がやることだ。


アイラが生きて欲しいと、そう願ってくれたこの命と、この世界で出会った「大切な人」だけを守っていければ俺はそれで良いんだ。


だが……俺は溢れ出る疑問を消すことは出来なかった。


もう後戻りは出来ないと、その答えを聞いてしまえば繋がりができるとわかった上で、俺はオスカーさんに問いかける。


「存在するんですか………?この世界に魔女が………」


()()を魔女と呼んでいいのかわからない。だが、この世界を殺そうとする者は存在する」


オスカーさんがなぜ歯切れの悪い言い方をしたのかは気になるが……


この世界を殺そうとする者。………それはまさしく魔女ではないか。


「『世界を殺そうとする者』を、守れだなんて………。いや、そもそも貴方は何を知っているんですか」


頭に浮かんだ疑問を、馬鹿みたいに一つ一つ問いかける。


魔女の情報は、勇者である第四勇者(フィーア)や、召喚士であるアイラですら持っていなかったものだ。


この男は……一体何を知っている?


「『魔女を見つけ、守ってほしい』。私が君に伝えるのはそれだけだ。それが世界を救うことに繋がるからね。………質問に答えるつもりはないよ。その先の真実は君自身で確かめてほしい」


「一昔前の、ゲームの攻略本みたいなことを言うんですね。………理由も明かされずに守れだなんて言われても、納得できません」


ゲームの攻略本。オスカーさんは、聞きなれないであろうとその言葉に、一瞬困惑したが……すぐに真面目な表情に戻る。


「納得できない……か。それはそうだろうね。………だが、ここで私が、私の知る全てを話したとして、それで君は納得するのかい?初対面である私の言葉を、君は信用できると?」


「それは………」


思わず言い淀んでしまう。


彼の言うことは正しい。きっと俺は、言葉のすべてを信用できないだろう。


「自分で知るから意味がある。目で見て、耳で聞いて、肌で感じた体験こそが、君に大きな意思と行動力を与える」


………ここで信用できるかもわからない情報を聞かされて、言われたから『守る』のと。


………自分の経験をもとに『守りたい』と思うのではどれほどの差が生まれるのだろうか。


「自分で知ったあと、俺が『魔女は守るべきではない』と判断したならどうするんですか?」


「きっとそうはならない。………私は君を()()しているよ」


「………俺と貴方は初対面です」


矛盾している。俺はオスカーさんを信じられないだろうと、オスカーさん本人が言ったのに、自分は俺を信用するだなんて。


「ふふふ、初対面だけど、君を信用するだけの理由があるんだよ」


オスカーさんは………笑った。


その笑顔は、どこにでもいる普通の父親のものだった。


「理由ってなんですか?」


先程までとのギャップに戸惑いつつも、俺は問いかける。


すると彼は、『ピッ』っと、俺の胸に光るペンダントを人差し指で指した。


「それは、アイラの物だろう?」


そう。俺の胸で赤く輝くこれは、アイラから授かったものだ。


「アイラがそのペンダントを君に渡し、アイルが君を連れてきた……」


俺の返事を待たずして、オスカーさんは続ける。


「それだけで十分じゃないか。…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」 


「えぇ、きっとそれだけで十分です」


いつの間にか、俺の頬も緩んでいた。


………素敵な家族。羨ましいとさえ思える。


だけどきっと、これが『あたりまえ』なんだ。


そんな『あたりまえ』を、みんな持っていれば良いのに………


「お父さん、サクラくん、話は終わりましたか?」


コン、コン、コン。


ノックのあとにアイルの声が聞こえてきた。心配になって見に来たのだろうか。


「あぁ。………………すまないね、思ったより長くなってしまった」


アイルに短く返事をしたあと、オスカーさんは申し訳無さそうにこちらを見た。


「いえ、大丈夫です」


「それは良かった。…………ほら、早く行きなさい、アイルが待っているよ」


そう言ったオスカーさんに軽く会釈をして、ドアに手をかける。


「……………」


だが、俺はドアノブを捻らずに、もう一度オスカーさんと向き合う。


「俺、この世界を見てこようと思います。なにが世界を救うことに繋がるとかは分からないし、俺にそんな事が出来るとは思えません。だけど……」


………『世界がもう少しだけ……優しかったらよかったのにね………』


頭の中に声が響く。これはニーナの最期の言葉だ。


「だけど、知ろうと思います。知って考えたいんです。どうやったらこの世界が優しくなるのかを」


「……応援しているよ。私と、きっと娘達も」


「ありがとうございます」


軽く会釈をして、俺は部屋を出た。

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