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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
78/229

誰かの為に

〜アイルside〜


「説明してもらえるのかしら?」


サクラくんとお父さんが別の部屋に向かったすぐ後、対面に座ったお母さんが、鋭い視線を向けてきた。


「………」


「なんであんなことをしたの?」


言葉に詰まっていると、お母さんは更に質問を重ねる。


「…………」


「アイル。黙っていても分からないわ」


そう言ったお母さんの顔は……最後にあった時よりもやつれていた。気苦労をかけたのだろう。


それもそうだ。世間からしてみれば、姉妹揃ってこの『世界』を裏切ったのだから。

 

期待を裏切ってしまっただろう。


辛い思いも、悲しい思いもさせたはずだ。


だけど、一つだけ。一つだけわかってほしい。


………()()()()()()()()()()()()()()()()()


「泣いている人が居た」


この世界の"罪"だとか。サクラくんがお城から逃げ出した理由なんて語らなくてもいい。


「関係ない世界の運命を背負わされて、それなのに『必要ない』って言われて」


ただまっすぐに。


「その人はぜんぜん凄い人じゃなくて。弱くて、怖がりで……。なのに、私達の前では笑って見せて」


私の想いだけを語ろう。


「『普通』だからこそ、誰かに優しくできる人」


知らず知らずのうちに、自分の言葉に力がこもる。


「いつもいつも"誰かの為に"って、自分の為になるかなんて考えもしないで……」


サクラくんはいつだってそうだった。


貧国街でナナリーに襲われたあと、私から距離を置こうとしたのも……


第三勇者(ドライ)との戦いの時だって。自分の命を失おうとも、私とシノを命がけで守ってくれたと、シノが言っていた。


「だから私は……」


そう。………『だから』


「自分でさえ、自分の為に生きられない彼の為に。私くらいは………()()()()()()()()()()()


「それが……アイルの想いなの?」


「はい」


お母さんを見据え、しっかりと頷く。


「アイルは、あの子の事が好きなのね」


そう言ったお母さんの顔からは、険しさが消えていた。


「えっと、その………。……………うん」


思わず俯いてしまう。もしかしたら、頬も染まっているかも知れない。


私がサクラくんを好きだと言うことは、すでにサクラくん本人も知っている。


だがしかし、それを実の母親に指摘されるのは、なんともむず痒い。


「アイル」


お母さんに名前を呼ばれ、俯いていた顔を上げる。


「大きく……なったわね」


お母さんは………微笑んでいた。


「怒って……無いの?」


恐る恐るお母さんに問いかける。


すると……少しだけキョトンとした顔で答えた。


「怒る?どうして?」


「きっと、私達のせいで迷惑をかけたから……それに期待を裏切ってしまって………」


「そんな事で怒ったりはしないわ」


「じゃあなんで、ずっと険しい顔を……」


『あぁ、それは……』そういって、お母さんはもう一度微笑む。………私が大好きな顔だ。


「ずっと連絡一つ寄越さなかった娘が、知らない男を連れてきて、髪の毛まで染めてるんですもの。険しい顔にもなります」


拗ねたような声音でお母さんはそう言った。


「うっ………その…………ごめんなさい」


「許しません」


イタズラっぽく微笑んだ顔は、お姉様によく似ている。


「"召喚の加護"………それは他の加護とは違い、コール家の長女に必ず生まれる能力(ちから)。……それはもはや、『加護』というよりも『呪い』」


お母さんは、何処か遠くを見つめるように語り始めた。


「アイラが産まれた時。"召喚の加護"は私からあの子に受け継がれた。たくさん苦労を掛けたわね、貴方たちには……」


「そんなことは……」


私の言葉を、お母さんは無言で首を振ることによって否定する。


「世界がこんな事になって、アイラが召喚士としての人生を歩むことになったとき思ったの。『あぁ、どうして私じゃないんだろう』って」

 

それは仕方のない事だ。いつ魔女が現れ、この世界を破滅へと導くかなんて、それこそ魔女にしか分からないのだから。


それでも……お母さんの『悲しみ』は消えない。


「世界を救う召喚士とその妹。それはきっと光栄なこと。でも………世界を救うのは、みんなの期待に答えるのは簡単な事じゃない。貴方たちには……『普通の女の子』として生きていてほしかった」


「お母さん……」


「ごめんね、アイル」


私は……テーブルに置かれていたお母さんの手をそっと握った。


「謝らないで。私と、きっとお姉ちゃんも幸せだったから」

 

普通の女の子にはなれなかった。


この両手は罪で汚れてしまった。


だけど……一番大切なものに出会えたのだから……


「…………そう言えば、まだ言ってなかったわね。ーーー()()()()()()、アイル」


「………ただいま、お母さんっ!」


私は、目一杯の笑顔で答えた。

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