君へのお願いは……
アイルと父親が再開を喜び合い、どれだけの時間がたった頃だろう。
父親の視線が、不意に俺へと向いた。
「君が第六勇者であってるのかな?」
「そうです」
目を逸らさずに答える。僅かな緊張感。
「いや………そのなりそこないか」
「…………っ!?」
父親の言葉に俺は驚愕した。だが、すぐに平静を装う。
アイルとその母親をチラリと見る。……大丈夫、二人とも気がついていない。
「あなたは……」
一度呼吸を整えてから、父親に問いかける。すると彼は……
「私の名前は"オスカー・コール"。この子の父親だよ」
アイルの頭にぽんっと手を載せる。
「……食えない人ですね」
吐き捨てるように呟いた。俺が聞いたのは名前なんかじゃない、それはアイルの父親………オスカーさん本人だってわかっているはずだ。
アイルは気が付いていない様子だが……先程彼は、俺のことを『なりそこない』と呼んだ。それはつまり……知っていると言うことだ。
それにあの一瞬。俺をなりそこないと呼んだ一瞬………彼の体から、『殺気と呼べるまでに鋭い魔力』が出ていた。
本当に一瞬。そして僅かな量だったが、俺の感覚と魔顕の瞳はそれをしっかりと捉えていた。
『だめなおっさん』。その第一印象は、僅かな時間で塗り潰された。
「アイリス。彼と二人で話しがしたいんだけど……いいかな?」
「えぇ、私もアイルと話したいことがあるわ」
アイルの母親……アイリスの顔は、未だに険しいままだ。
「それじゃあ行こうか」
オスカーさんは、俺を一瞥したあと奥の部屋へと続く扉を見る。………俺に拒否権はない。
「………お父さんっ!」
そんな彼を、アイルは焦って静止した。
「大丈夫だよアイル。騎士に売ろうだなんて考えてないから」
「でも………」
俺は椅子から立ち上がり、不安そうなアイルの方を見る。
「気にすんなって、お前は家族水入らずを楽しんでろ」
「……わかりました」
「よし」
先に扉をくぐったオスカーさんの後を追う。
そして、短い廊下のあと、一つの部屋へとたどり着く。
ここは……書斎だろうか。本や書類が乱雑に積み上げられている。
それ以外はといえば、テーブルと椅子が一つずつあるくらいだろうか。
「そのへんに座っていいよ………って、場所がないか」
当たりをキョロキョロと見回していた俺に、オスカーさんは声を掛けた。
彼の言うとおり、座る場所なんて見つからない。立っているのがやっとと言うくらいに、この部屋は物が多く、整頓されていない。
「俺は立ったままでも構いません」
「………そうだね。時間は取らせないし、立ち話といこうか」
「……俺に話って、なんですか?」
恐る恐る尋ねる。先程向けられた"殺気"の感覚がまだ抜けきっていない。
「要件だけ話そう。無駄は嫌いなんだ」
『ゴクリ』と息を呑み、次の言葉に備える。油断はするな、アイルの父親とはいえ、まだ信用できない。
「第六勇者……君にお願いがあるんだ」
「お願い……ですか?」
………初対面である俺に、なんのお願いがあるというのだろうか。
考えられるのは……勇者として魔女を倒してほしいとか?
いやいや、先程オスカーさん自身が、俺のことを『なりそこない』と呼んだ。勇者としての俺にお願いなんてするわけがない。
それならば一体……
「と……その前に君の名前を教えてくれるかな?勇者ではない。"君"の名前を」
「双葉桜です」
「サクラくん……か。私から君へのお願いはたった一つだけだ。」
『すー』っと大きく息を吸い込むと……
彼はお願いの内容を語り始める。そしてそれは……
「この世界のどこかにいる"魔女"を探し出し、そして…………守り抜いてほしい」
「……………は?」
魔女を倒すために存在する勇者。その全てを否定するものだった。




