次の目的地。
「サクラ、これ」
街に戻ると、桜色の髪をした少女……シノが何かを手渡してくる。
「これ………は」
それは………シオンの花
本来とは違う、ニーナの血によって赤い色をした花。
優しき少女が、優しき願いを込めた世界に一つだけの花だ。
「サクラが気絶したあと、失くしちゃいけないと思って取った」
そうだ。俺はこの花をポケットに入れたまま意識を失ったのだ。
それだというのに、花はキレイな状態を保っている。折れ曲がったりしていない。
……さすがは『枯れない花』と言ったところだろうか。
「……………」
シオンの花を胸に押し当てる。
そうするだけで……。ニーナの声が頭に響く。
『サクラおにーちゃん……。これ……カイトおにーちゃんに……渡しておいて……くれる?』
……そうだ。まだこの事件は終わっていない。
渡すんだ。この花を、ニーナのお兄ちゃんに。
伝えるんだ。彼女が最後まで『いい子』だった事を。
それが俺の。
彼女の最後を見届けた俺の仕事だ。
「シノ。それにアイル」
二人の名前を呼ぶ。大切な二人の名前を。
「俺はこれから王都に戻る。そしてこの花を、ニーナのお兄ちゃんに届ける」
「自分の立場がわかっているのかい?」
最初に口を出してきたのは……以外にも第四勇者だった。
「君は騎士団から………いや、この国から命を狙われているんだ。そんな中、王都に戻るのはまさしく……」
「『自殺行為だ』って言いたいんだろ?」
「………あぁ、そうさ」
王都にはここよりも騎士がいるはずだ。危険であることは間違いない。
「危険なことはわかってる。シノとアイルに無理に付いて来いだなんてこともいわない。………だけど、俺は行くよ」
この花をお兄ちゃんに。それがニーナの願いだから。
「……王都は騎士団の総本山だ。僕に出来ることは限界がある。それでも、いくのかい?」
第四勇者の鋭い視線が告げてくる。これが、最後の警告だと。
事実、王都には、4番隊……つまりは第四勇者の部下以外の騎士も沢山いるのだろう。そしてその騎士に見つかれば……
『確実な死』だ。
それに抗うすべはない。決定された事象。
………だけど。
それでも。
「行くさ。行かなくちゃいけないって、思うんだ」
もう一度シオンの花を胸に押し当てる。
「そういうところだよ。僕が君を好きなのは」
第四勇者はパチンと指を鳴らし、そのまま俺を指した。
「サクラの好きにするといい。………君には君がいる。だから、君に従うんだ」
「ありがとな、第四勇者」
俺と第四勇者は、我ながら奇妙な関係だと思う。
平凡な俺と非凡な第四勇者。
正反対の二人。異世界でなければ出会うことさえ無かったであろう二人。
俺はこいつの本名さえ知らない。……だけど、友人。
「お礼を言われるような事はしていないよ」
第四勇者はそう言って微笑んだ。
奥様方にモテそう。
「シノ、アイル」
彼との話が一段落した所で、もう一度二人に視線を戻す。
「殺されるつもりは無いけど、やっぱり危険だ。さっきも言ったとおり、無理に付き合わせるつもりは無い。二人はどうする?」
シノとアイルにとっては、この街に残っていた方が安全だろう。ニーナのお兄ちゃんに花を渡すだけなら、直接頼まれた俺だけでいい。
「約束」
アイルが俺の瞳を真っ直ぐに捉え、小指を突き出してきた。
「ずっと一緒にいるって、約束しましたから」
そう言って微笑んだアイルの顔はとてもかわいらしく、思わず頬が紅潮してしまう。
「シノも、同じ気持ちですよね?」
アイルに問いかけられ、シノは『ふん……』と、小さく鼻を鳴らす。
「サクラだけじゃ心配だからな。………それにニーナは、ボクの友達だ」
聞くまでも……無かったのかもしれない。
そうだよ。俺達三人は『仲間』だ。
「……ああ、一緒に行こう。ニーナのお兄ちゃんに、ニーナの思いを届けるんだ」
シノとアイルが大きく頷く。
「話しは纏まったみたいだね」
第四勇者が『パンッ』と両手を合わせる。
「馬車は僕が用意しよう。出発は明日でいいのかい?」
「あぁ、助かるよ」
「それじゃあ、そこで僕は一旦お別れだね」
「だな。………その、色々助かったよ」
「ツンデレかな?」
第四勇者がニヤニヤとこちらを見る。
「うるせぇ、お前嫌い」
「ボクも嫌いだ」
前日に散々おちょくられたシノも俺に加勢する。
「僕を好きなのはアイルだけかな?」
俺とシノに嫌い発言をされた第四勇者は、最後の砦であるアイルに縋る。
だが彼女は、キョトンとしたまま、爆弾発言をかました。
「いいえ、私が好きなのはサクラくんですよ?」
「「…………」」
アイルの発言にしばしの間時間が凍りつき……
「「え!?」」
それから、俺とシノの声がハモった。
「わーお、大胆だね」
第四勇者は案外落ち着いていた。
「………?そうですか?」
アイルは相変わらずキョトンとしている。自分がどれほどの発言をしたか理解していないご様子。
「………仲間としてだよね?」
アイルに確認を取ってみる。
「男性としてです」
即答でした。え?ある?こんなロマンチックの欠片もない告白ある?
「アイルっ!!!」
シノが声を荒らげる。
………少し裏返っている、もしかしたら俺よりも動揺しているのかもしれない。
「こんなやつの……こんなやつのどこが良いんだ!?」
シノは頬を真っ赤にさせながら、俺の頬をグリグリと指で押す。
痛い、痛いですよシノさん
「どこと言われましても……」
アイルは困った表情を浮かべる。
「おいシノ、こんなやつとはなんだ!元の世界ではチョーモテモテだったし!」
「サクラ……嘘はいけないよ」
第四勇者は哀れみの視線を向けてくる。
「それにしても……アイルもサクラが好きだとはね。君とは良い酒が飲めそうだ」
「……お前未成年だろ」
第四勇者の正確な年齢はわからないが、おそらくは俺と近いはずだ。
「ここに日本の法律はないよ」
「調子の良い奴……」
ちなみに僕はいい子なのでお酒もタバコもしたことありません。
お酒とタバコは二十歳から。
「サクラくんの好きなところ………好きなところ……」
アイルさんはまだ悩んでおられます。あれ?もしかして無いんですかね?俺の好きなところ。
「いっぱいありすぎて………」
アイルは考えるのをやめた。
「アイルとサクラじゃ釣り合わない……」
シノはシノで、何かブツブツ言っていた。
「てか、シノ。なんでそんな顔赤いんだよ」
シノに問いかける。自分が好きだと言われたわけではないのに、その頬は真っ赤だった。
「あ、あかくにゃい……」
シノはさらに頬を赤くして答える。………いや、ちゃんと答えられていない。
「よし、食事でも取りながら、サクラの素敵な所でも語り合おうじゃないか。美味しいお店を紹介しよう」
「それはきっと素敵です」
歩き出した第四勇者に、アイルが付いていく。
「シノ、俺達も行くか」
「うん……」
シノは赤くなった頬を隠すように、俯いたまま答えた。
───悲しみは消えない。失くした心は埋まらない。
だけど『仲間』がいれば、きっと乗り越えられるんだ。
少しはさ、変われたのかな、俺。
なぁ、ニーナ………




