勇者とは
〜第四勇者side〜
「そろそろ出てきたらどうですか、かくれんぼという年でもないでしょう。ねぇ───栄光の王」
サクラたちが宿に戻ったあと、遠くの暗闇に向かって声を投げかける。
すると……予想通りの人物が出てくる。
「……魔力は完璧に消せていたと思ったのだがね」
武の極地、究極の一、人類最強、そして……栄光の王。
数々の呼び名を持つ人物………モハメド・ムンチャイだ。
「完璧に消せていましたよ。サクラでも気が付かないほどに」
「………なるほど。魔力ではなく、気配で気がついたと言うことか」
「そのとおりです」
サクラの感覚は相当に鋭いものだ。だが………それはあくまでも魔力への感覚。……それに頼っている以上、魔力を抑えている相手を探知するのは難しい。
「驚いたよ。こんなところに勇者がいるとは」
「それは僕も同じだ。貴方ほどのお人が……夜のお散歩と言うわけでは無いのでしょう?」
僕の質問に、栄光の王は小さく首肯する。
「サクラの様子を見に来た。彼が第三勇者に手傷を追わせたと聞いてね。………なるほど、この短い間によく成長している」
「彼にも才能があったと言うことです」
この口ぶり……栄光の王はサクラを知っていた……?
それにしても、何故この宿の場所まで知っている?
「わりと……平気そうな顔をされているんですね」
「どういう意味かね」
「貴方の統治するこの街で、あれだけの事件が起こったんだ。もっと悲しみに打ちひしがれ、泣いていると思っていました」
栄光の王に挑発的な視線を向け、肩をすくめてみせる。
「大人は知っているのだよ。泣いているだけでは、現状は変えられないと」
栄光の王は怒った様子を見せず、淡々と答えてみせる。
……すこし、揺さぶってみよう。
「僕が言うのもおかしな話ですが、さすがは勇者ですよね」
「…………」
「武の極地と呼ばれる貴方が治めるこの街で、二ヶ月も犯行に及んでみせたんだ」
栄光の王は………まだ反応を見せない。黙って話を聞いている。
「被害者の数は20を超え、その全てがこの街の住人。さらに連れ去った場所は………この街にある第三勇者の屋敷と来たものだ。───本当に良くやるよ、貴方がいるこの街で」
「………私が、犯人をわざと見逃したと?」
そこで初めて、栄光の王は口を開いた。
これだけ失礼なことを言っているのにもかかわらず、彼から不機嫌な様子は受け取れない。大人の余裕と言うやつだろう。
彼から敵意や殺意は感じられない。だが………油断はできない。全身に意識を集中させ、注意深く栄光の王を観察する。
彼ならば………敵意や殺意を抱いていない状態からでも、僕を殺すことができるかもしれない。
「どう受け取るかはご自由に」
「………若者は、少々夢を見すぎる」
「夢であって欲しいと願っていますよ。………魔女以外に、貴方の相手もするとなると、流石に骨が折れそうだ」
僕は自嘲気味に笑った。
本当に戦闘になった場合、骨が折れるで済めばいい方だということは、しっかりと理解している。
「君は魔女に……随分とご執心と聞く」
栄光の王は話題を変えてきた。自分と、この街の事件に関する話はここまでだという意思表示。
「えぇ、勇者ですから」
「……世界各地で起こっている魔物の凶暴化、気温の低下、世界が滅びへと向かう全てが……魔女の仕業だと言われている。存在も確かではない魔女のせいだとね」
栄光の王の瞳が……不意に鋭くなった。
「もし魔女が存在しなかったら、君はどうするのかね。向けるべき相手を無くした殺意は、人を狂気の海に沈める」
「一つ……勘違いをされているようなので訂正しておきます」
僕はピッと、人差し指を立てた。
「僕は魔女を殺したいんじゃあない。民の願いを叶えたいんですよ」
「知らない世界の、知らない民の願いを………か?」
「おかしいですか?」
「わからんな」
「日照りの続く国では雨を降らせた者が、戦争の終わらない国では戦争を止めた者が、民の願いを叶えた者が勇者と呼ばれるんです。───だから僕は魔女を殺します。民がそれを望むから」
そうだ、僕は魔女に私怨なんてない。いや、あるわけがない。
だってここは、僕の世界じゃないんだから。
だけど………殺す。それが勇者の存在理由になるのだから。
「民の願いを叶え、魔女を殺し、平和な世界を成したその先は」
栄光の王は問うてくる。この僕を見極めようとでもしているのか。
「わかりませんよ、そんな先の未来は」
「『平和な世界に勇者など不要だ』──そう民が願ったとき、君はどうするのかね?」
……あぁ、その答えならば簡単だ。
右の親指を首にあて………
それをピッと、スライドさせる。
「………喜んで、この首を切りましょう」
「正しいな、危険な程に」
「お褒めの言葉と受け取って起きますよ」
僕と栄光の王との間に、酷く冷たい風が吹いた。
「そういえば、自己紹介もまただった。私の名はモハメド・ムンチャイ。──君の名は?」
彼が聞いているのは………勇者ではなく、僕自身の、本来の名前だ。
だが僕はそれを理解した上で………
「僕の名は第四勇者。───世界を救う勇者です」
………勇者として栄光の王の質問に答えた。
───だって、仕方ないだろう?
僕には僕が………いないんだから




