本物の輝き
「さぁ弱者、僕のという強者に『命乞い』をしろ」
第四勇者対第三勇者。この対戦カードは俺が手配したものだ。
だが……その結果は『火を見るよりも明らか』と言うやつだ。
第三勇者の魔力量では、どうしたって第四勇者には勝てない。
「第四勇者。たしかに君には勝てないさ。僕は君のような戦闘民族じゃ無いからね」
第三勇者本人、それを理解しているのだろう。苦々しい顔で第四勇者を睨みつける。
「だ・け・ど・さぁ〜………。こいつならどうかなぁ?」
第三勇者は、にやぁ……っと笑い、指を鳴らした。
『パチン』という音に合わせ……第三勇者の後ろにある扉の奥から『何か』の気配が発される。
「なんだよ………これ」
俺は無意識の内に呟いていた。
この気配は知っている。この部屋へと続く廊下で出会った魔物の気配に似ている。つまりは、扉の奥にいるのは魔物だ。
だが問題は……その『大きさ』だ。
先程出会った魔物たちの気配を感じたとき、俺は『嫌な感じ』だと表現した。
だが……今の気配はそんな優しいものじゃない。
『嫌な感じ』ではない。それは明確な『恐怖』。
僅かに人間に残された野生の本能が告げている。この気配を発する魔物は………危険だと。
「ふーん。一体どんなメインディッシュが出てくるのかな」
第四勇者だって、この気配の大きさは感じているだろうに、その表情に焦りはない。余裕すら伺える。
「こいつをみても………余裕でいられるかな?」
第三勇者の言葉を待っていたようなタイミングで、魔物が部屋に入ってくる。
だが……その魔物の体にたいして、扉はあまりにも小さすぎた。
その巨体が周りの壁を破壊し、あたりに砂埃が舞う。
…………………。
数瞬あと、砂埃が晴れ、魔物の全容を捉える。
それは……『化物』と呼ぶに相応しい姿をしていた。
獅子の頭に山羊の胴体。更には蛇の尻尾。
そう、その姿はまるで、ギリシャ神話に登場する…………
「こいつが本日のメインディッシュ───合成魔獣だッ!″調教の加護″で僕の支配下に置いた魔物を無理に交配させて作った最高傑作だよ!!!」
その姿もさることながら、目を引くのはその″大きさ″だ。
地面から頭のてっぺんまで………おそらく4、5mほどはある。その圧倒的な大きさが生み出すプレッシャーは絶大だった。
「ふっ……」
そんな巨体を目の当たりにしても、第四勇者の余裕は崩れない。
「グルル………」
キメラは唸りながらあたりを見回すと、一番近くにあったシノの結界へと視線を向け、近づいていく。
「ひっ………」
シノは怯えた声を出す。結界に守られているとはいえ、その巨体が与える恐怖に変わりはない。
キメラは結界の前までたどり着くと、その強靭な前足で蹴りを繰り出す。
結界は………破れない。だが、あたりには凄まじい轟音が広がった。
キメラは結界を鬱陶しがるように蹴りを続け、稀に頭突きをも繰り出した。
だがやはり、結界は崩れない。
蹴りでも頭突きでも……この結界は破れない。キメラもそれを理解したのだろう、新しい行動を取る。
その行動は………口を大きく開けることだ。
人間など丸呑みにしてしまいそうな程の大きさの口には、鋭い牙が爛々と輝いている。
そしてキメラは、大きく開け放たれた口からシノの結界に向かって………
『灼熱の火炎』を吐き出した。
「なっ………」
俺はまたしても、無意識の内に言葉を発する。
なんて………熱量だ。俺の位置にいても暑い。──いや、『熱い』。
あんなのを直接もらったら、一瞬のうちに炭になってしまいそうだ。
キメラはまだ……灼熱の吐息をやめない。結界が解けるその時まで続けるつもりなのだろうか。
「ちがーう。お前の敵はあっちだよん」
そんな中、第三勇者が第四勇者を指差した。
第三勇者の声を聞いた瞬間。キメラは結界への攻撃をピタリとやめる。
あの『化物』が、人間の命令を聞いた。その事実が頭から離れない。
キメラはゆっくりとした動作で第四勇者に目を向けると……耳を劈くような咆哮を行った。
そして次の瞬間──キメラは第四勇者目掛けて疾走した。あの巨体からは考えられないほどの速度。
キメラが選んだ攻撃手段は、先程見せた『灼熱の吐息』ではなく……ひどく単純な突進だった。
だが……人を殺すにはそれで十分だ。あれだけの巨体に跳ねられて、無事でいられる人間など存在しないはずなのだから。
巨体が段々と第四勇者に近付いていく。まだ彼は動かない。
迎撃するにしても、回避するにしても、予備動作を開始しなければ間に合わないほどの位置にまでキメラが迫ってから、彼は僅かに動いた。
本当に、僅かに。
第四勇者は右手で、腰にある剣を優しく握った。
そして………
次の瞬間には、キメラが真っ二つに切り裂かれていた。
………修行する前の俺なら、何が起こったのかすら理解でき無かったのかもしれない。だが、今ならハッキリと見えた。
文字通り、第四勇者はキメラを真っ二つに引き裂いたのだ。──一瞬のうちに。
剣に手をかけ、それを引き抜き、キメラに攻撃を与え、再び剣を腰に戻す。
この動作の全てが、おそらくは一秒未満で行われた。
「な…っ!」
第三勇者の顔が戦慄に染まる。おそらく、俺やシノも同じような反応を見せていただろう。
それほどまでに第四勇者は………″強かった″
「前菜だね。これでは……」
キメラは大した脅威にならないと、君のとっておきはそれで終わりかと、第四勇者の表情が告げる。
「は………?……………え?」
第三勇者はバカみたいに口を開ける。
自分の奥の手が簡単に封じられた事実を受け止められないでいた。
「………裁きの時間だ」
第三勇者に次の策が無いと判断した第四勇者は………
今度はゆっくりと剣を引き抜き、自らの頭上高く構えた。




