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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
52/229

こいつだけは

「やっぱりさ……神様なんていないんだな」


俺のその言葉で、アイルとシノは理解した。


ニーナが……すでに事切れている事を。


「こんな……事って………ッ!」


アイルは怒りを顕にし。


「あ……あぁ………」


シノは悲しみを溢れさせる。


「クソ………っ!」


そして俺は……流れ出そうになる涙を止めるため………アイラにもらったペンダントを握りしめる。


こうするのは……いつぶりだろう。


屋敷を飛び出した当初は、よくこうしてペンダントに力を貰っていた。


だが、アイルと仲良くなり、シノと出会ったことで、その必要も無くなっていたんだ。


そしてニーナと友達になった。……みんなで遊んで……本当に楽しかった。


この世界に来て良かったと……そう思えていた。


なのに………なのにッ!


『顔を上げて。前を向いて。男の子なんだからさ、泣いちゃだめだよ』


あの日の……お別れした日のアイラの言葉を思い出す。


そうだ、前を見なくちゃいけない。涙を流すのはいつだって出来る。


服の袖で涙を乱暴に拭い、ニーナから預かったシオンの花を大切にポケットにしまう。


忘れちゃいけない。この屋敷にはまだ……ニーナをこんな目に合わせたクソ野郎がいる。


潤んでいる両目をゴシゴシと拭い、あたりを観察する。


相変わらず……何もない。真っ白な部屋だ。


……真っ白?ちょっとまて、いくら何でも白すぎる。


……ニーナの体を見る。その体からは、赤い線が伸びていた。


俺達が入ってきたドアとは逆側に、ニーナの血痕が続いていたのだ。


その血痕の先を見ると……開け放たれた扉が、薄気味悪い闇を放っていた。


そして……その時だった。睨みつけていた扉の先から、男性の声が響いてきたのは。


「いやー!ほんっ………とに素敵なものを見せてもらったよ!」


………ムカつく程に、明るい声。出てきた男は……はっきり言って特徴が無かった。


どこにでもいるショートヘアー。着ている衣服も、スタークたちと同じ、戒める者(グレイプニル)のものだ。


……ひと目で分かった。こいつは同じ国の人間だと。


つまり……こいつが第三勇者(ドライ)。連続少女誘拐事件の犯人………。


「まるで映画のワンシーンみたいだね!こりゃ全米が泣きますわ」


誘拐事件の犯人は、とても楽しそうに笑った。


……一体何がそんなに楽しいんだ?


素敵なもの?………ニーナの苦しんでいる姿が?


映画のワンシーンみたい?……ニーナの『命』が尽きた瞬間が?


ふざけ………やがってッ!


「お前が第三勇者(ドライ)か……?」


ニーナに顔を埋めて泣いていたはずのシノが、怨嗟にまみれた声を出す。


「お前がニーナを……お前がボクの友達を……」


そして……未だかつて無いほどの怒りを顕にする。


 「………ボクの友達を殺したのかァァァァァァッ!!」


シノの絶叫を聞きながらも、アイルは油断なく第三勇者(ドライ)を観察していた。


唯一、戦う力のある彼女は、このあと第三勇者(ドライ)と戦わなくてはならない。


怒りも悲しみも憎しみも、弱みになるものを相手に見せてはならないのだ。


だが……心の中ではアイルだって同じ。腸が煮えくり返っている。


そしてそれは……当然俺も。


この空間の中で、落ち着いていられるやつなんていないはずだ。………()()()()()()()()


「ニーナって、あの子だよね?」


そう言って第三勇者(ドライ)は、ニーナの亡骸を指差した。シノの怒りを一身に受けたくせに……先程までとまったく様子が変わっていない。


「うん、そうだよ。僕が殺した」


やつは平然と答えてみせた。


まるで、今晩のおかずを聞かれたときの母親のように。


まるで、1+1の答えを聞かれたときの子供のように。


……平然と、自然に。


このとき俺は、″怖い″と思った。


場所は異世界、同じ空間には少女の亡骸。そんな″異常″な状況で、第三勇者(ドライ)はあまりにも″普通″過ぎた。


それが……とても恐ろしかった。


「お前……お前ッ!」


シノは今にも飛びかかりそうな勢いだった。男性恐怖症であるはずの彼女が、だ。


「一つ……聞いていいか?」


そんなシノを落ち着かせるため。


そしてアイルに作戦をたてる時間を与えるために、俺は第三勇者(ドライ)に問いかけた。


「聞くだけならご自由に」


第三勇者(ドライ)の返事を聞いてから、ニーナの体を抱き上げ、部屋の隅まで移動させる。そして……着ている上着を脱ぎ、彼女に被せる。


「くぅ〜、かっこいいね」


やつはまた笑った。自分の罪を咎めに来た俺達に笑みを向けた。


その笑みは余裕からくるものなのか、それとも本当に今の状況を楽しんでいるのか。


「なんでニーナはここに居る」


「なんでって……僕が誘拐したからだよ?君たちもそれをわかってて来たんだろ?」


「んな事聞いてねーよ。……ニーナの傷に対して、この部屋は白すぎる」


そう。この部屋は″白すぎる″


……ニーナは片腕が無かった。全身におびただしい数の傷もあった。


なのに……ニーナの血で赤く汚れているのは、彼女が倒れていた場所。それと、奥へと続く扉から伸びている線だけだ。


つまり、ニーナが『理不尽』を受けたのはこの部屋じゃ無い。


「奥の扉から血痕が続いてる。ニーナはあそこからここまで這って移動したんだろう。なぁ、アンタも奥の扉から出てきたよな?……なんでニーナがここまで移動するのを黙って見てた?」


ニーナが傷付けられたのは奥の部屋だ。そしてそこには第三勇者(ドライ)もいた。


傷付いた彼女が、勇者から逃げ出せるわけがない。


第三勇者(ドライ)は見逃したのだ。地を這い、その場から逃げ出そうとするニーナを。


なんで……わざわざそんな事をした?


「なんでって………え?ほんとに分かんないの?……君さぁ、義務教育受けた?もしかして不登校?」


「……うるせぇよ、黙って答えろ」


弱みは見せたくない。だが……どうしてもこいつの態度にはイライラしてしまう。


「なんでってそんなの………()()()()()()()()()()()()()()()


「てめぇ………ッ!楽しいからだと!?こんな事件を起こしたの自体、楽しいからだっていうのかッ!」


正直……限界は近かった。今すぐにこいつをぶん殴ってやりたい。


「まってまって!そんなに怒んないでよ!ニーナちゃん……だっけ?あの子がこの部屋の出口までたどり着いたら、ちゃんと扉を開けてあげて、そのまま逃がすつもりだったんだよ?僕は優しいからね!」


ニーナと第三勇者(ドライ)は奥の扉から出てきた。そこから見た出口……つまりは俺達が入ってきた扉だ。


「扉を開けてあげるつもりだっただと……?」


扉を開けたその先の廊下には……


「その先には、『魔物』がいただろうがッ!」


魔物の中に、力のない少女が一人。どうなるかは想像するまでもない。


「あれぇ〜……そうだっけぇ?」


第三勇者(ドライ)は、『にやぁ……』っと、唇を歪めた。


「いやぁ、それにしてもすごいよねニーナちゃん。足の健も切られて、片腕ももがれたのにここまで移動してさ。這いずる彼女は可愛かったんだよぉ〜。まるで……」


そこで、第三勇者(ドライ)は一度大きく呼吸をした。


()()()()みたいでさァッ!」


やつは大仰に手を広げてみせた。


そして、俺の中で『何か』が切れた。


『ドクン』


体の奥から、真っ黒いものが溢れだそうとしている。


『ドクン』


……わかったよニーナ。こいつは……生きてちゃいけないやつなんだね。


『ドクン』


でも、人殺しはいけない。俺もやつと同じになってしまう。


『ドクン』


視界全てが真っ赤に染まっていく……。


『ドクン』


そして、俺の視界からアイルとシノさえも消えてしまう。


『ドクン』


真っ赤な視界に映るのは、第三勇者(クソ野郎)だけ。


『ドクン』


その第三勇者(ドライ)でさえも、もう人の形には見えない。……あれはただの″肉塊″だ。


『ドクン』


″肉塊″を壊したって……人殺しにはならないよな?


『ドクン』


さっきから鼓動の音がうるさい。あいもかわらず、体の奥から黒いものが溢れだそうとしている。


もう……いいや。この黒いものにすべてを任せてしまおう。


第三勇者(あいつ)を殺せば……ニーナも静かに寝られるだろ……?


俺が思考を停止し、溢れ出る『何か』に身を任せてしまおうとしたときだった。


「サクラくん、待って」


アイルが俺の肩を掴んでくる。


「怒りを沈めてください。相手の思うつぼです」


アイルの声を聞いて……視界に色が戻り。


溢れ出る『何か』も、体の奥へと戻っていった。


「人殺しの言葉に、いちいち怒っていてはいけません」


アイルは俺の体を後ろに引くと、第三勇者(ドライ)へと一歩近づいた。


「貴方の″加護″……魔物を操る力ですよね?」


アイルの言葉を聞いて、第三勇者(ドライ)の顔が僅かに引きつる。


「廊下にいた魔物……本来は単独行動を好むんですよ。集団で襲ってくるなんて、普通はありえません」


そう言ってアイルは、魔物に噛まれた左腕を振ってみせる。


「君みたいな美少女に噛みつけて、あいつらも幸せだったろうねぇ……」


「魔物を操れる加護……確かに珍しく、強力です。ですが、直接戦闘には向きませんね」


アイルは不敵に笑ってみせる。


確かに、そうだ。スタークが言っていた通り、本人が直接戦えるような″加護″では無い。


操った魔物に戦わせることも出来るのだろうが……この部屋にも、奥の扉にも、魔物の気配は無い。


ここで改めて、目を凝らして第三勇者(ドライ)()()


やつの魔力量……確かに多い。だが……


この量ならば、アイルの方が上だ。


「″調教の加護″。君が言った通り、魔物を操る力だよん。……一匹躾けるのにも、かなりの時間がかかるんだけどね」


ここまでバレていては、隠しても仕方ないと言う判断だろうか。『まいった』と言わんばかりに手を広げた。


「素晴らしい力だとは思わないかいッ!?そんな僕の()()()()になれたんだ、ニーナちゃんたちもきっと喜んでいるさ!」


駄目だ……、反応するな。あいつはわざと俺達を煽っているんだ。


「それにしても……本当に素晴らしい力だよ。この力があれば、何だってどうだって出来る……っ!」


そう言ってやつは、噛みしめるように拳を握っる。


「偶然手にした力で、神にでもなったつもりかよ……ッ!」


アイルのおかげで、多少の落ち着きを取り戻した俺は、第三勇者(ドライ)を睨みつける。


「ずっと聞きそびれてたけど……君って逃亡中のゼクスだろ?………この世界に来てしばらく経つよね?」


……俺だって初見でこいつを第三勇者(ドライ)だとわかった。それは相手だって同じだ。


他の勇者との面識もあるだろうから……初めて見る日本人=逃亡中のゼクスだと断定できる。

 

「この世界の人間はさ。み〜んな魔物に怯えてる。結界に守られた安全な街の中で生活し、外に出るときは傭兵を雇う。……言わば魔物は、″恐怖の象徴″なんだよね」


俺はまた……こいつを『怖い』と思った。


「この僕はッ!その″恐怖″を支配することができるんだッ!この力を神と呼ばずになんと呼ぶんだい!?……あははッ!」


……ずっと日本にいたのなら、こいつは普通のやつだったのかもしれない。


だけど……勇者になってしまったから、その身に余る力を持ってしまったから……


こいつは──狂ったんだ。


「……ふぅ。でもさ……こんな僕でも君には敵わないよね」


ひとしきり笑ったあと、第三勇者(ドライ)は先程までと一変、落ち着いた声を出した。


それもまた、不気味だった。


「″恐怖″どころじゃない。君の力は……″死″そのものなんだからさ」


やつの視線から、俺が外れる。


「″恐怖″を支配する僕。──″死″を支配する君……まさしくどちらも()だよ」


やつの視線の先にいるのは……


「ねぇ?″()()″さん?」


──アイルだった。

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