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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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神様

〜桜side〜


俺達の目の前には、大きな扉があった。


すべての魔物を撃退し、まっすぐに歩いた先には、この扉があったのだ。


……まあ、もちろん撃退したのはアイルだ。俺はシノの結界に守られていただけ。


「……開けるぞ」


二人の返事を聞いてから、扉に手をかける。


そして……一気に開け放った。


「うっ………」


最初に飛び込んできたのは……″光″


それまで薄暗い廊下を歩いていた俺達に、その光は眩しすぎて、思わず瞼を閉じ、腕で顔を覆った。


薄明かりではなく、蛍光灯のような鮮明な光。……しばらくするとその光にも慣れていき、ゆっくりと瞼を開ける事ができた。


その部屋は……やけに広く、真っ白だった。……まるで、何かの実験室みたいだな。


──部屋の中央に、『なにか』ある。


真っ白な部屋の中、その『なにか』だけ、嫌に赤かった。


ゆっくりと近付いていき……


「…………っ!」


全員が息を呑み、歩みを止めた。


それが『なにか』ではなく『だれか』であることに気がついたからだ。


何故、『なにか』だと思ったかって?


それは……人の形をしていなかったからだ。


この『だれか』には──右腕が無かった。


全身にアラートがなっているような錯覚を覚える。


駄目だ……これ以上あの『だれか』に近付いちゃいけない。その人物が誰かわかってしまったら……もしも、今考えている″最悪″が現実になってしまったら………。


だが……近付かないわけには行かない。すべてが夢であってほしいと願いながら、一歩を踏み出す。アイルとシノはまだ動けずにいた。


お願いだ。……神様はいるんだろ?──悪い夢なら覚めてくれ。


だが……近付くにつれて、それが現実だと実感させられる。


鮮明な赤、それが伴う生臭い臭い。……その全てが、俺に現実を突きつける。


そして……俺は、その『だれか』の名前を呼ぶ。


「ニー………ナ?」


大きなリボンをした『だれか』は、ニーナだった。


明日を約束した少女。神様を信じ、いい子であろうと願った少女。守ると誓った少女。そして……家族の幸せを願った少女が、そこに倒れていた。


俺には……生きているのかすら分からない。


「間に合わ無かった………?」


無意識のうちに、掠れた声を出す。


なんで……彼女がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。


運がなかったから?ベーゼだったから?………ふざけるな。


「サク………ラ……おにーちゃん……?」


うつ伏せに倒れていたニーナは、少しだけ顔を上げた。


「ニーナッ!!!」


まだ息がある!ならば救えるっ!


俺は急いでその体を抱き起こす。シノとアイルも走り寄ってきた。だが二人は、ニーナの顔を直視できない。


ニーナの瞼は閉じられていて……赤い涙が、頬で乾いてこびりついていた。


瞳を傷付けられたのか……。それ……とも……。


えぐ………られ………て………?


「ごめ……んね?約束した……のにね」


「いいんだッ!いいんだよ………」


右腕のないニーナを抱きしめる。


「えへへ、もう……遊べなくなっちゃった」


アイルとシノはただ立ち尽くしている。立ち尽くすことしか出来ずにいる。


「いいから、もう喋るな………。絶対……助けるから……ッ!」


ここは異世界だ、魔法だってある。きっと救える……!


「サクラおにーちゃん……これ。カイトおにーちゃんに………渡しておいて……くれる?」


ニーナは痛々しい傷がつけられた左腕を伸ばし、握っていたものを俺に見せた。……その左手の傷は、真新しいものもあれば、古いものも。……こんなことにさえ、俺は気が付かなかったのか。


「これ……は……」


ニーナが差し出してきたのは……真っ赤に染まった『シオンの花』だった。


「ずっと……持っていたのか……?」


震える声で尋ねる。


「うん……」


ニーナはゆっくりと、だが確かに頷いた。


ずっと……これを……?


知らない男に攫われて、一人でこんな場所につれて来られて。


すがるものもない場所で………全身を傷つけられて。


痛かっただろう。


怖かっただろう。


寂しかっただろう。


だけど、ニーナは、シオンの花をずっと握りしめていた。


願いが叶うと言うこの花に、家族の……()()()()()()()()


「だめだよ……。これはニーナが自分でお兄ちゃんに渡すんだ……」


「無理だよ……。だってニーナ……もう歩けないもん。……やっぱりね、ニーナ……いい子じゃ無かったみたい。悪い子だから……こんなことになっちゃった……」


どんな仕打ちを受けても、どんな言葉をかけられても、この少女は家族を愛し続けた。それはまさしく……″無償の愛″だ。


俺が手に入れられなかったもの。手に入れられないから、存在しないと決め付けていたもの。


やっぱりニーナは……俺の″光″だ。


「違うッ!ニーナは悪い子なんかじゃ……」


「ニーナ………ね。シオンの花にふたつも……お願いしちゃったの」


「2つ……?」


ニーナの言葉を、馬鹿みたいに反芻する。


「うん……。家族が仲良しになれますようにってお願いとね……こんな悲しい思いをするのは、ニーナで最後にしてくださいってお願いをしちゃったの。……やっぱり……ふたつはずるかったのかな……?」


ニーナの頬が……僅かに緩む。……その微笑みは、とても痛々しかった。


「ずるくなんてあるもんかッ!誰かの為のお願いが……ずるいだなんて……」


「サクラおにーちゃん……泣いてるの……?男の子は泣いちゃ駄目……なんだよ?」


震える声を聞いて、泣いていると思ったのだろう。ニーナが、花を持った左手を、再び俺に向かって伸ばす。涙を拭おうと言うのか。


だが……その左手は、俺の頬に触れる前に、重力に逆らえなくなってしまう。


「ニーナ……ッ!」


その手が地面へとぶつかってしまう前に、急いで握りしめる。


「もう……ちから……はいんないや……」


「嫌だ…………消えないでくれ……」


光が……俺の光が、段々と弱くなっている。


()()()が、段々と近付いてくる。


嫌だ……嫌だ……


そして……『ゴボッ』っと、ニーナは血の塊を吐き出した。


「ニーナ……!」


「ニーナちゃん……!」


それを見たシノとアイルが堪らずに声を上げた。


「アイルおねーちゃんと……シノも居たんだ……。それなら……寂しく……ないね……」


「また遊ぶんだろ……?ニーナはボクの友達だ。……友達との約束は……破っちゃ駄目なんだ……。」


シノが悲痛な声をあげる。その両目からは、涙がとめどなく溢れていた。


「……ッ!!!」


アイルは拳を握り、歯を食いしばり、憎しみの眼差しを向ける。


この世の理不尽に。抗えない現実に。……友を救えない自分に。


「ごめん……ね?………シノ。みんなと遊べて……ほんとーにほんとーに、楽しかったよ……あり……がとうね」


ニーナは荒い呼吸を繰り返しながら、それでも、俺達に感謝の言葉を伝えた。


……誰にでもわかる。ニーナはもう……長くない。


「嫌だ……嫌だよニーナ!消えないでくれ……ッ!」


ダメだ。ダメだダメだダメだ。


こんな子が死んでいいはずがない。


そうだろ?なぁ神様。


「嫌……だなぁ。ニーナ……死にたくないなぁ……。せっかく……お友達が出来たのになぁ……もっと、遊んでいたかったなぁ……」


ニーナの声は……泣いていた。だけど涙は流れない。


流すことは……できない。


「ねー、サクラおにーちゃん。世界がもう少しだけ……()()()()()()()()()()()()()


その言葉を最後に……。


ニーナは………


()()()()()()()()()


アイルとシノは、まだニーナが生きていると思っているのだろうか。彼女の名前を呼び続けている。


だが……俺は……俺の『魔顕の瞳(まけんのひとみ)』は。……その瞬間を捉えていた。


どれだけの時間を生きようと、これほどまで、自分の才能に苛立ちを覚えることはないだろう。


俺の瞳は……魔力を視ることができる。だから……わかってしまった。


ニーナの魔力が……ニーナの命が……。


()()()()()()


「なぁ……アイル」


いまだニーナの名前を呼び続けるアイルの名前を呼ぶ。


彼女はこちらを見た。その頬には涙が流れている。


「やっぱりさ……()()()()()()()()()()()

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