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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
48/229

激戦の行方

〜スタークside〜


勇者ドライの屋敷。そのパーティーホールで、スターク()はメルクリアと対峙していた。


剣と剣がぶつかり合う音が、部屋中に響き渡る。


二人の剣が重なるたびに、濃密な魔力があたりに霧散した。


片方が攻撃を行えば………もう片方がそれを避け、あるいは受け流す。


戦闘が始まってからすでにかなりの時間が経過していたのだが……どちらも相手からダメージを奪えずにいた。


つまりは、二人の実力は拮抗している。


だが、油断はできねぇ。油断すれば一瞬で……()()()()()()()


……王国騎士団″戒める者(グレイプニル)″で最強は誰か。そんな話題、酒の席で誰もが行った。そして、答えは単純だ。騎士団最強は、勇者のうちの誰か。


ならば……勇者を抜いたら?


魔法が得意な者、稀有な加護を持つ者、身体強化に長けている者……ざまざまな者が揃う騎士団で誰が最強かなんて、個人の価値観でしか決められない。戦闘における相性だってある。


だが……そんな最強議論になれば……


()()()()()()()()()()()()()()()


身体強化、魔力量、剣技……そのどれをとってもやつは一級品だ。


剣を交えながら、それを実感する。


それに奴も″加護″を……何かしらの特殊能力を持っているはずだ。


全く油断できねェ。


……一進一退の攻防が続いたあと、ふいにメルクリアは、後ろに大きく飛び退いた。


進展のない展開に、しびれを切らしたのだろう。


「そろそろ教えていただけませんか?何故あなたが咎人と行動を共にし、勇者の屋敷に潜入したのかを」


……咎人?


あァ、ゼクスの事か。


「その咎人が言ってたはずだぜ?」


第三勇者(ドライ)様が誘拐事件の犯人だという話ですの?」


「あァ、そうだ。俺達はそいつを確かめに来た」


「ふふっ。貴方にもジョークが言えたんですのね」


メルクリアは……笑った。


勇者が犯人だなんてありえない。そういいたげな表情で。


「素敵な笑顔をありがとよ。だがなァ、ジョークじゃねェんだよ。てめェもおかしいと思わなかったのか?この事件は第三勇者(あいつ)が来ると同時起こった」


確かあれは……二ヶ月ほど前だったか。


「それにここは栄光の街″グランツ″だ。王都の次にデカいこの街で、どうして未だに犯人は捕まってねェ?なんで街にいる騎士はこの事件について積極的に調べやがらねェ?──答えは簡単だァ。第三勇者(ドライ)が騎士に圧力をかけやがったんだよ、この街にいる騎士は俺含めて殆どが3番隊………やつの部下だ」


……ギルドの連中は犯人を探したのかも知れねェが、メルクリアと同じだ。勇者が犯人だなんて想像もしなかったろう。


「それは全部……可能性の話でしてよ?」


……確かにそうだ。いま提示した情報は憶測に過ぎない。


森で起こったことを説明しても信じそうにねェしなァ……。


「『可能性がある』……だから確かめるんだろうが」


「確かめる必要すらありませんわ。──だって、勇者が犯人だなんて……″ありえない″のですから」


メルクリアは、再び笑う。


『勇者が犯人だなんてありえない』。そう言った彼女の言葉には、確信めいた何かが……いや、これは″盲信″か?


「なぜそこまで言い切れる?勇者が犯人じゃねェっていう証拠があんのかァ?」


「証拠……ですか。彼が勇者だということが何よりの証拠ですわ」


「………はァ?」


一瞬、メルクリアが何を言っているのかわからなかった。


『勇者だから犯人じゃない』……そんな、理由になってない理由を、自信満々に言うものだから。


「それだけが理由だってのか?」


「えぇ、そうですわ。……だってそうでしょう?勇者は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この世界の住民に危害を加えるはずがありませんわ」


間違いない。こいつのそれは″盲信″だ。


「本気で言ってんのか?その″勇者″って役割も、俺達が都合よく当てはめただけだろうが。………結局は一人の人間だ、馬鹿なことするやつがいてもおかしかねェよ」


「勇者にそれぞれの思考があったとしても、誰かに危害を加えるはずがありませんわ。だって………」


次のメルクリアの言葉に、俺は″震えた″


「勇者は()()()()()()()


………はァ?


「強き者が弱き者を救う………それは当たり前の事でしょう?間違っても傷付けるようなことがあってはいけませんわ」


メルクリアは語る。理由になってない理由を。本気で。


「……力ある勇者が、力の無いものを貶めるようなことはしないってのがお前の理屈か?」


俺の問に、メルクリアは首肯する。


「馬鹿かおめェは……。強いやつはみんなに優しいとでも思ってんのかよ」


強き者は無条件に弱者を守るもの……こいつはそういう教育を受けてきたのだろうか。


メルクリア・エーデル・ヴァイツェン。こいつの家は……俗に言う貴族。一般家庭とは違う教えを施されてきたのだろう。


………正直言って、狂っていやがる。


「違いまして?現に私は弱き民を救うために騎士団に入りましたもの」


弱き民を救うため………ね。


なるほど、自分は強者ってわけだ。


「やっぱり気に入らねェ。すべての他人を見下しやがってよォ。それに……弱いやつは誰かを救っちゃいけねェとでも思ってんのか?」


俺は……知っている。誰かを救う為に″力″のみを求め続けた男の末路を。


栄光の王なんて大層な名前で呼ばれているが……結局あいつは、何も守れやしなかった。


「誰かを救うのは力のあるやつじゃねェ。″意志″のあるやつだ。おめェは何も分かっちゃいねェんだよ」

 

「力が伴わない″意志″では、何も救えなくてよ」


「……結局俺達は理解しあえないようだな。──決着は、(こいつ)で決めんぞ」


そう言って俺は、再び剣を握り、身構える。


それは見たメルクリアは……身構えるような事はしなかった。


……どういうつもりだ?


「えぇ、そうですわね。もう手加減はいたしませんわ」


メルクリアの雰囲気が変わる。ザラザラとした気持ちの悪い感覚。


間違いない。やつの攻撃が……″加護″がくるッ!


「随分と自信満々なんだな。こっちにだって()()()ぐらいあるんだぜェ?」


口調では焦りを気付かれぬように、しかし内心は……油断なく相手を観察し、全神経を集中させる。


「貴方だって副隊長ですもの、その実力は折り紙付きなのでしょう。ですが、(わたくし)の──()()()()()


その瞬間、メルクリアの瞳が怪しい光を放った。


その光を見た瞬間……


「………ッッッ!」


()()()()()()()()()()()()


なんだよ、これ……。まるで全身に鉛を詰めたかのようだ。


「″魔眼の加護″。(わたくし)能力(ちから)の名前ですわ」


ひどく……落ち着いた声音だった。


相手が動けないのであれば、焦る必要など全くない。


「目を合わせた相手の動きを完全に封じる……強者である(わたくし)に相応しい能力だと思いませんか?」


メルクリアは、今だ動けずにいる俺に、ゆっくりと近付いてくる。


肩に、手に、指先に力を入れてみるが……やはりびくともしない。


喋ることも、そして……呼吸さえ出来ない。


目を合わせただけで相手の動きを封じる……?


馬鹿が、誰がそんな力に勝てる?


呼吸さえ奪うというのなら、それは……


『目を合わせただけで相手を殺せる』能力だ。


………俺の目の前までたどり着いたメルクリアは、俺の両手から剣を奪い取り、目を合わせたまま遥か後方へと投げ飛ばした。


「国王に授かった剣を奪われて悔しいですか?……って、そのままでは会話も出来ませんわね」


メルクリアは不敵に笑ったあと、自らの″加護″を解いた。瞳から、怪しい光が消える。


「ぷはっ……!」


急に体の自由を取り戻した俺は、床に崩折れ、両手をつく。


荒い呼吸を繰り返し、足りなくなった酸素を体中に行き渡らせた。


「だらしないですわね」


メルクリアが見下ろしてくる。……哀れみを込めた目だ。


「うるせェ……よ、だまれ」


正直、メルクリアの実力が……その″加護″がここまでの物とは思っていなかった。


一対一なら、最強の能力なのではないのか?……もしかしたら勇者にだって。


「同僚を殺すわけにもいきませんものね、貴方はそこでじっとしていてください。(わたくし)は咎人たちを追いかけます」


床に手をついた俺を残したまま、メルクリアは踵を返し、さっさと歩き始める。


剣を奪えば俺は無力だと思っているのか。それとも……何度やっても同じだと思っていやがるのか。


だが………()()()()()()()()()


「──待てよメルクリア。まさかおめェ……自分が勝ったとでも思ってんのか?」


立ち上がり、メルクリアの背中をこれでもかと睨みつける。


剣は、メルクリアの先に転がっている。彼女を無視して取りに行けるわけがない。だが……


「剣もなしに、(わたくし)を倒すおつもりで?」


メルクリアは振り返らない。剣のない騎士に何ができると言わんばかりの態度だ。


たしかにそうなのだろう。


……()()()()()()()()()()


「てめェをぶっ飛ばすのに、(そんなもの)は必要ねェよ」


「そんなもの……?」


『ピクッ』っと、メルクリアの肩が上下する。


「″そんなもの″とおっしゃいましたの?」


メルクリアは怒りのあまりに振り返る。彼女らしかぬ表情だ。


「あァ、″そんなもの″だ。人殺し以外になんの役にも立たねェガラクタだよ」


「ガラクタなどではありません。国王に授かり、誓いを立てた誇り高き刃ですわ」


「なァメルクリア、……てめェは一体何を誓ったんだ?」


「……弱き民を救うことを誓いました」


「ははッ!違うなァ、お前の誓いはッ!お前が()()()()()のはッ!………『国に都合の良いやつだけを守ります』って誓いだァ!!!」


そうだ。国はいつだって都合の良い奴の味方だ。


この国のルールの殆どは、ベーゼには通用されない。


本当に……ふざけているッ!


「一度……痛い目を見ていただく必要がありますわねッ!」


メルクリアの声が、更に怒気をはらみ、視線も鋭くなる。


……そして再び、メルクリアの雰囲気が変わった。


──″加護″を使うつもりだ。


「馬鹿が、同じ手を食うかよ」


俺は……メルクリアの″加護″が発動する前に……()()()()()


単純だ。目を合わせてしまうと、体の自由を奪われると言うのなら、目を瞑ってしまえばいい。


「うふふ、やっぱり貴方は面白いですわね。その状態で勝てるとでも思っていますの?」


目を瞑っているのでわからないが、メルクリアはきっと最高の笑顔をしている事だろう。


だが、その笑顔はごもっともだ。


俺はやつの″加護″を封じるために、視力を失った。


実力が拮抗していることは、最初の打ち合いでわかっている。この状況では、俺が明らかに不利だ。


しかし……


「ワリィなメルクリア。──()()()()()()()()()()()()!」


彼女もそうであったように、こちらにだって″加護″が……特殊能力がある。


俺の″加護″なら、やつを一撃で潰すことが出来る。


「剣を奪うだけで満足した自分の可愛らしさを恨むんだなァ!」


そして俺は、自らの″加護″を解放した。


『カチャ』っと、前方で剣を構える音が聞こえてくる。ただならぬ雰囲気を察したのだろう。


だが……もう遅い。


「俺の力は″集束の加護″。あたりに散らばっている魔力を、自らに集める能力だァ。それとひとつアドバイスをしてやる。──自分の能力を相手にベラベラ話すのは……()()()()()()()()()()()()だけにした方がいいぜェ!!!」


始めの打ち合いであたりに散った魔力を、右足に集める。


副隊長同士が打ち合ったんだ、あたりの魔力濃度は、申し分ない。


その全てが右足に集まる。そこから繰り出される攻撃は……()()()。生身の人間が耐えるのは、はっきり言って不可能。


膨大な魔力が一箇所に集まり、屋敷全体が震えているのではないかという感覚すら覚える。


「なんて……力ですの……」


メルクリアの声に、先程までの余裕は見当たらない。


馬鹿が、目を閉じていても位置がまるわかりだ。


声のした場所へ一気に走り込み……


「フン………ッ!」


思いっきり回し蹴りをお見舞いしてやる。


「くっ………!」


足が何か硬いものに触れる。おそらくはメルクリアが剣で防いでいるのだろう。だが……


「ハハッ!そんなもんで防げるかよッ!」


剣が攻撃を受けていられたのは、数秒だけだった。


『バキン』っと、こ気味いい音が響き渡り、剣が折れたことを理解する。


そして遮るものを失った俺の攻撃は、メルクリアに命中し、彼女の体をいとも容易く吹き飛ばした。


メルクリアと壁が衝突する音を聞いてから、ゆっくりと目を開ける。


壁には大きなな凹みが出来ており、その下にメルクリアが横たわっていた。


「なんて……馬鹿力ですの……」


彼女は苦悶の表情を隠すこともできないまま、恨めしい声を上げた。


あの様子では、加護を使うことも出来ないだろう。


「……相手が雑魚ならここまでの威力はでねェよ。てめェの頑張りすぎだ」


俺の力あくまで、周りに霧散した魔力を集める力だ。


発動には、魔力を霧散させる為に、わざわざ相手と打ち合わなければいけないし、そもそも相手の魔力量が少ないと、あまり威力は出せない。


「く……っ、無念……ですわ」


その言葉を最後に、メルクリアは意識を失った。


俺の勝利。それがこの戦闘の結果だ。だが……


「クソ、引き分けか」


攻撃を放った右足を引きずりながら壁のもとまで移動し、背中を預ける。


移動はともかく……もう戦闘は無理だろう。


「クソが、手間かけさせやがって……」


意識を失っているメルクリアに、恨めしげな視線を向ける。


……自分だけではなく、相手の魔力まで使用した絶対的な一撃。だがそれは……自分の身に余る魔力を使うという事だ。………体への反動は計り知れない。


「……情けねェな」


「ふぅ」と、短い息を一つはいてから、地下へと続く階段を見つめる。


先の見えないそれは、正直に言うと気味が悪かった。


「俺抜きで大丈夫かァ?」


地下へと向かった三人のことを思い出す。……三人だけで向かわせたのは失敗だっただろうか。


「………ま、大丈夫だろ」


階段から視線を離し、そっと目を閉じる。


「なんせ………()()もついてるからな」

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