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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
47/229

立ちふさがる一人。

「勇者が……誘拐事件の犯人……?」


誰に言うでもなく、俺はつぶやいた。


口に出すことでその真実を理解しようとしたが……いまだ信じられない。


世界を救うべく召喚された勇者が、こんな事件を起こしたっていうのか?


そもそも、動機は?どんな理由があってこんな事をしたんだ。


それに……この事件を起こした第三勇者(ドライ)は俺と同じ″日本人″だ。


この世界とは違う平和な世界で育った日本人が、なぜそんな残酷なことができる。


ドロドロとした考えが、体の中をかけめぐった。


「おかしいと思ったんだよ。どいつもこいつもこの事件を積極的に調べやがらねェ……。クソムカつくぜ、あの野郎、俺が知らないところで3番隊に圧力をかけやがったな」


スタークは、この場にいない誰かを睨みつけた。


「おい、お前。第三勇者(ドライ)の命令でやったって言葉、嘘じゃねェだろうなァ?」


「もっ……、もちろんです」


スタークに問われたガスパーさんはまさに、蛇に睨まれた蛙だ。


あの怯え、あの恐怖は本物だ。嘘なんかつけるわけがない


「つまんねェことしやがって……」


立ち上がるスターク。それを見てガスパーさんは安堵の息を漏らした。


スタークは俺達を見もせずに、森の出口に向かって歩き出す。おそらくは……事件の犯人のもとへ、第三勇者(ドライ)の屋敷のもとへと向かっている。


「待ってください」


そんなスタークをアイルが呼び止める。


「勇者に……勝てるんですか?」


それは、素朴な疑問だった。


俺が知っている勇者は第四勇者(フィーア)しかいないが……もし第三勇者(ドライ)第四勇者(フィーア)と同じ実力を持っているのであれば……


正直──″勝ち目はない″


スタークの実力はわからない。だが、戒める者(グレイプニル)に属していて、勇者では無い以上、その実力は良くてメルクリアと同じ。副隊長である彼女以上ということはないだろう。


「救いたいやつがいるんだろ?はッ、相手が勇者っていうんで……ぶるっちまったのかよ」


スタークは振り返り、煽るような視線を向ける。


「犯人が誰だろうと構わない。そこにニーナがいるのなら、ボクたちは友達を迎えにいく」


その視線に臆することなく発したシノの言葉に、アイルも続いた。


「勝てないのなら、作戦を立てる必要があるというだけの話です。ぶるってなんかいませんから」


そうだ、勝てないのなら、勝つための作戦を立てればいい。


相手が勇者と聞いて、ぶるっていたのは俺だけだ……


「……死ぬかもしんねェぞ。命が惜しくてここまで逃げて来たんだろ?」


スタークは最後の警告を……俺に対して行った。


なんだよ。甘いのは……女の子にだけじゃないじゃないか。


だから、その優しさに答えよう。


俺の″意思″ってやつを教えてやろう。


「言ったろ、俺は……()()()()()()()()()()()


「………好きにしやがれ」


スタークは吐き捨てるようにそういった。俺達の同行を認めたのだ。


「それで、勇者に勝てる算段はあるんですか?」


アイルがスタークに問いかける。そうだ、作戦をしっかり立てないといけない。だが……どうやったら勇者に勝てる?


戦闘経験のない俺には、奇策なんて思いつかない。思いつくのは、助っ人を呼ぶとか、庶民じみた作戦ばかりだ。


「……勇者ってのは、何も強さだけで選ばるわけじゃねェ。戦闘能力は低くても、特異な″加護″さえ持っていれば、勇者に選ばれることがある」


第三勇者(ドライ)はそのパターンと言うことですか?」


「そうだ。どんな加護を持ってるかまでは知らねェが、戦闘向きじゃないって話だ。やつが直接、戦闘に加入したって話は聞かねェ」


「つまり……一対一の状況さえ作ってしまえば……勝機はあると……?」


「あァ。少なくとも俺とお前でやれば……()()()()()()


そう言ってスタークは指の関節を鳴らした。


彼は……アイルの実力をある程度認めているようだ。


「ボクの結界を使えば、一対二の状況を作れるかも知れない」


そこで、シノが作戦会議に参加した。


魔力結晶をつかって結界を貼れば、中にシノがいる必要がない。つまり……スターク、アイル、第三勇者(ドライ)の三人だけになるように、結界を貼れば……。


「決まりだな。これ以上は時間を使いたくねェ」


……シノの結界を使い、アイルとスタークの二人で畳み掛ける。早急に出した結論としては、悪くないだろう。


そしてその作戦において……()()()()()()()()()()()  


救いたい人を救うのに、俺はなんの協力も出来ない。


………いいさ、今更だ。誰にも必要とされないのは。だから………どんな小さなことでも、思いつくことは何でもやろう。


スタークが森の出口に向かって歩き出す。


「ちょっとだけ待ってくれ」


だが俺はそれを静止した。


スタークは舌打ちを漏らし、アイルとシノは怪訝そうな顔でこちらを見た。


「ほんとにちょっとだけ」


俺はそう言うと……先程から地面に座り込んだままのガスパーさんのもとに向かった。


腰を下ろし、目線を合わせるようなことはしない。どんな理由があれ、こいつのせいでニーナは危険な目にあった。……きっと今も、一人で震えている。


「ガスパーさん」


「私が……許せないかい?」


彼は悲痛な目でこちらを見た。つきものが落ちたような……いや、すべてを諦めたような顔をしていた。


彼は言った。娘を人質に取られていると。だがきっと、その娘はもう……


そんなこと、彼自身気がついていたのだろう。


だが……か細い蜘蛛の糸だったとしても、すがるしかなかったのだ。


だから、こんな馬鹿な事を………


「許せるわけ無い。誰も見てなかったら、きっとあんたを殴ってる」


「……だろうね」


「でも……あんたに罪の意識があるのなら。あんたのせいで苦しんだ人たちの痛みを、少しでも感じる事ができるのなら、一つだけ頼みを聞いてほしい」


ガスパーさんに頼みごとを話したあと、俺は早足でみんなのもとへと向かった。


✦✦✦✦✦✦✦


「ここが勇者の屋敷ですか……?」


たいそうご立派な建造物を見たアイルが、誰に言うでもなく呟いた。


森を出て、グランツの街へと戻ってきた俺達は、スタークの案内に従って第三勇者(ドライ)がいる屋敷のもとまでやってきた。


ここに……ニーナがいる。


家族を()()()少女がここに。


誰にも必要とされず、愛を知らなかった俺にとって、どんな境遇であろうとも家族を愛したニーナはまさしく……″光″だった


その光を……失いたくない。絶対に消させるもんか。


胸の前で小さく拳を握り、決意を新たにする。


「この中に第三勇者(ドライ)が居るはずだ。……行くぞ」


スタークは、おもむろに屋敷の扉を………()()()()()


「って、真正面から!?そんな大胆なことしていいのかよ!?」


大胆不敵すぎるスタークの行動に、思わず大きな声でツッコんでしまう。


「サクラくん、静かに」


「サクラ、うるさい」


シノとアイルに半眼で睨まれました。なんで?


スタークがドアを蹴り破った音のほうがうるさかったよね?


そんな俺達の様子を無視して、スタークは穴の空いた扉から、なんの躊躇いもなく中に侵入していく。


俺達も慌ててそれに続いた。


屋敷の中は……広かった。うん、馬鹿みたいな感想。


明るい室内を見渡すと、美術1の俺では良さがわからないような置物や絵がたくさん飾られている。


そして……扉が多い。始めてここに訪れる者はきっと迷ってしまうだろう。


「おかしいですね」


「……そうだな」


俺と同じように室内を見渡したアイルとシノがつぶやく。


「外もそうでしたが、騎士が一人もいません。ここが勇者の屋敷であるというのなら、厳重な警備が敷かれているとおもったのですが……」


言われて俺も気がついた。あたりに人が全くいない。


俺達は正面玄関をぶち破って来た。その音は中にまで響いたはずなのに、誰も様子を見に来ないなんておかしくないのか?


「侵入されたところで問題ないと考えたのか、見られて困ることでもしてるのか……」


「後者だな」


俺の呟きに、スタークは同意した。


「俺は何度かここに来たことがあるが……特に怪しい場所は無かった。…………地上にはな」


地上には?つまり……


「この屋敷には地下があるのか?」 


「あァ、隠れてコソコソなんかしてんなら、間違いなく下だ」


「場所はわかるんですか?」


アイルの問いかけに、スタークは無言で頷いてから、屋敷の中を歩き始めた。


スタークを先頭にして歩く俺達に会話はない。


いつ敵に遭遇するのかわからない状況だ。各々が神経を集中させている。


そして、いくつかの扉をくぐり………ある部屋にたどり着いたスタークはその足を止めた。


その部屋は他の部屋より明らかに広く、豪華な絨毯が床に敷かれていた。いわゆるパーティーホール……イベント場のような場所か。


「扉を壊して来たんですの?凄まじい音でしたわよ」


そして……その部屋にいた女性が声を出す。そう、この女性がいたからスタークは足を止めたのだ。


「ウゼェやつがいんなァ……」


スタークは心底めんどくさそうに息を吐いた。


女性は、そんなスタークの様子にすこし眉を釣り上げる。


だが、すぐに表情をもとに戻す。感情をコントロールできるタイプの人間だ。


「なんで貴方がここにいるんですか………()()()()()さん」


アイルは油断なく目の前にいる女性……メルクリアを睨みつける。


「教える()()(わたくし)にありまして?」


メルクリアは挑発的な視線をアイルに向ける。彼女とアイルは因縁浅からぬ関係だ。


彼女は4番隊の副隊長。つまりは第四勇者(フィーア)の部下だ。


それがなぜ第三勇者の屋敷(ここ)にいる?まさか……誘拐事件に関与している?いや、流石にそれは無いだろう。


それに、一番重要なのはそこではない。


彼女が今、俺達の前に立ちふさがっているという事だ。彼女は俺のことを、国に仇なす罪人だと思っている。ここを簡単に通すとは思えない。


同じ騎士団に所属するスタークが説得できればいいのだが……彼女たちの会話を見る限り、とても友好には思えない。


「どけよメルクリア。俺達はその先に用があんだ」


メルクリアの背後には、地下へと伸びる階段があった。俺達の目的地はあそこだ。


「その前に一つ聞かせてください。──なぜ、3番隊の副隊長である貴方が、そこの咎人たちと共に行動しているんですの?」


咎人。その言葉を聞いたアイルの肩がピクリと動く。


……3番隊の副隊長?スタークが?


それならば、アイルの攻撃を防いでみせたのも納得だ。


「教える()()が俺にあんのかァ?」


スタークは鋭い牙を輝かせながら、獰猛に笑ってみせる。


確定だ、こいつらは仲がわるい。混ぜるな危険。


まさに一触即発と言うにふさわしい状況だ。


「メルクリア、少女誘拐事件のことは知ってるな?ここにいる勇者がその犯人かもしれないんだ。俺達のことは信じられないかも知れないが……同僚であるスタークのことまで信じられないか?」


俺はメルクリアに問いかける。ここで彼女と戦闘になるのはまずい。勝っても負けても、時間を消耗するし、手傷もおう。


「そこにいる男は副隊長でありながら、命令違反の常習犯ですわ」


だが……メルクリアに俺の声は届かなかった。


「おいスターク、日頃の行いを見直せ」


「うるせェ、規則とか色々めんどくせェんだよ」


うわ、めんどくさいって言いましたよこの人。本当に騎士の、それも副隊長ですか?


「埒が明かない」


道を開けるつもりが無いメルクリアにしびれを切らしたのはシノだった。


「どうでもいいからどいてくれ、邪魔だ」


シノはメルクリアを睨みつける。


その表情で俺はわかってしまった。


シノは焦っている。それはそうだ、一分一秒だって無駄にできる状況じゃないんだから。


「そんなに通りたいのならば……力ずくでどうぞ?」


その時、メルクリアは腰にある剣を握った。


………()()()


前回その剣をフェイントに使うことはあっても、抜くことは無かった。


だが今度は……きっと彼女は躊躇わない。


それは、前回アイルに負かされたのが原因か、それともこちらに、同じく副隊長であるスタークがいるからなのか。


「馬鹿が………ガキ相手に武器なんか握るんじゃねェよ」


スタークはめんどくさそうに息を漏らしながら、一歩前へ出た。まるで……シノを庇うように。


「いけ。メルクリア(こいつ)は俺が抑える」


スタークの気配が……一瞬にして変わった。その体から魔力がほとばしる。


メルクリアもそれに気がついたのだろう。腰を落とし臨戦態勢に入った。


「スタークさん、私も一緒に……」


「ダメだ」


アイルの申し出を、スタークはバッサリと切り捨てた。


「二人掛かりでも、あいつの相手は時間がかかる」


それは、相手の実力を信用しているからこそ出る言葉だった。


「───救いたいやつがいるんだろ?気張れよ」


スタークは……最後に俺の方を向いた。


「……あぁ、分かった」


俺はアイルとシノの名前を呼んでから、メルクリアを避けるように迂回して、地下へと続く階段を目指す。


すると……当然メルクリアは俺達の正面に立ちふさがるように移動する


「行かせると思いまして?」


そして……彼女は剣を握る拳に力をいれ、引き抜こうとする。


その煌めく刃が僅かに見えたところで……剣を抜く動きが止まった。


理由は単純。いつの間にか彼女の目の前にまで移動していたスタークが、上から彼女の手を押さえつけたのだ。


俺達に意識を奪われていたせいで、スタークの接近に気が付かなかったのだろう。メルクリアはギョッとした。


そんなメルクリアの様子を見て、スタークは心底楽しそうに………″笑った″



「ハハッ!聞いてなかったのかよメルクリアァ!俺はお前を()()()って言ッたんだぜぇ!?………黙って抑えられてろォ」


スタークの強者の目に、メルクリアが一瞬怯む。……今だ。


俺達は一気に、階段へと向かって走った。


「スターク……感謝するぜ!」


アイルとシノを先に行かせたあと、俺は少しの時間だけ振り返りった。


「ちっ、黙ってさっさと行きやがれ。男に礼なんて言われても、きめェだけだ」


相変わらずのスタークの態度に、少しホッとする。


「サクラくん!早く!」


「サクラ!何してるんだ!」


前を走る二人に急かされ、俺は急いで後を追った。


スタークが背中を押してくれた。スタークが時間をくれた。絶対に……無駄になんてしない。


大切な光を……絶対に救ってみせる。

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