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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
32/229

くそったれな2択

「次は僕の番かな?」


フィーアのその言葉に……


俺、アイル、シノの三人は思わず息を呑む。


フィーアの実力は……


アイルに、『絶対に勝てない』そう言わせるほどのものだ。


正直、どうする………こともできない。


こうなった以上、俺はおとなしく投降し、シノとアイルだけでも見逃してもらうのが最善か……


俺がそんなことを考えると、こちらの緊張など全く気にしていない様子のフィーアが口を開いた。


「1つ……賭けをしないか?」


「賭け……?」


「そう。単純に殴りあったんじゃ僕が勝つ。それじゃ面白くないだろう?」


……面白くないだって?


こっちは命がけなのに、ふざけた奴だ。


だが……殴りあいでこちらに勝ち目がないのはたしか。


だから……


「賭けってのは……なにをするんだ?」


賭けとやらにのってやろう。


「簡単だよ、これから僕が2択の問題をだす。その回答権はサクラにだけあるとして……それに正解できたら見逃してあげよう。……やるかい?」


正直……怪しさ満天だ。


ゲームやアニメなどで似たような状況を見たことがあるが………


大抵の場合、正解でも正解じゃなくても、ロクな事にならない。


フィーアがこちらを見逃すメリットも思い浮かばないし……


2択……つまり50%で正解できるというのも胡散臭い。


だが………


「………やるよ」


立場が劣る俺に、選択権なんてなかった。


「そう言うと思ったよ」


「他に選択肢がないんだよ」


「それもそうだね」


フィーアは、フッと笑う。


そして……両手を顔の高さまで上げた。


「僕は今から、サクラを攻撃しようと思う。そこで問題です。僕は………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「は?」


フィーアの問題は……問題と言えるものかすら怪しかった。


「約束通り2択だよ。さぁ、右手か左手か選んでくれ」


「……そんなの、どちらとも言えるだろ。俺がどちらかの手だと答えれば、お前は逆だと答えればいい。問題の体をなしていない。


「僕は勇者だ。そんな真似はしないよ。」


……理屈になってねぇ………


理不尽な問題だが、答えないと言うわけにはいかない。


「ヒントは?」


「僕は左利きだよ」


そう言ってフィーアは、左手を閉じたり開いたりする


というか、全くヒントになってないだろそれ……


「……お前嫌い。」


「僕は君が好きだよ」


そして、分かったことが一つ。


こいつと話していると疲れるということだ。


だから……黙って考えることにした。


目をつむって、今までの会話を思い出す。


もしかしたら何かヒントがあるかも知れない。


フィーアと初めて会ったときの会話まで思い出してみるが、結果は……


「全くわからん」


というか、やっぱり問題がおかしいだろ。


フィーアがどちらの手で攻撃するつもりなのか。そんなの本人にしかわからない。


国語のテストで、『この時の主人公の気持ちを答えなさい』という問題がよくあるが……俺はあれが嫌いだ。


人の気持ちなんかわかるわけがない。


「特別に、もう一つのヒントをあげよう」


答えあぐねている俺を見かねたのか、フィーアは口を開く。


「使うのは(ここ)じゃない………(ここ)だよ」


そう言って、フィーアは……自分の瞳を指差した


瞳………目を使う?


そう言われた俺は、フィーアを凝視する。


フィーアは先程までと同じように、両手を顔の高さまで上げていた。


「見えたかな?」


「見えたって、なに……………が………」


フィーアに言われたとおり、たしかに俺には……


()()()


「………右手だ」


俺の回答を聞いて、フィーアは……


「正解だ。おめでとう、サクラ」


パチパチと両手を叩く。


俺に視えたもの……それは……


フィーアの魔力だ。


フィーアの体をまとっている……靄のようなもの。


すなわち、フィーアの魔力。


その魔力は、フィーアの体全体を均等に………包んではいなかった。


よく見ると、右手だけが、他の場所よりも多くの魔力を纏っていたのだ。


だから……右手と答えた。


「見事正解したんだ。約束通り、君たちを見逃そう。」


そう言ってフィーアは拍手をやめる。


「本当に、俺達を見逃すのか?」


「約束したじゃないか」


「……破ると思ったよ」


「そんなことはしないよ。僕は……勇者だからね」


「またそれか……」


どうやらフィーアは、勇者である自分に誇りのようなものを持っているらしい。


………たくさんの屍の上に成り立った、その立場に。


「サクラ……それよりも」


「ん?」


フィーアは不意に、真面目な声を出した。


「サクラ………君の瞳のことは、あまり他人には話さないほうがいい。………魔力を()()ことができる、その瞳のことはね」


そんなフィーアの言葉に反応した人物が一人。


「魔力を………視る?」


それはアイルだ。


とても難しい顔をしている。


「アイル、どうかしたのか?」


「いえ、『魔力を視る』という言葉に、聞き覚えがないもので……」


「そんなに珍しいことなのか?」


「はい。………魔力とはそもそも、視るものでは無く、感じるものなんです」



「そう、そもそも魔力は視認できない。『なんとなく』だとか、『大体』だとか。あやふやな物差しで感じるものなんだよ」


アイルの言葉に、フィーアが続く。


「だが……君の瞳は、それを視ることができる。あやふやではなく、ハッキリと視認できる。正確に相手の魔力の量を図れるんだ。そして………魔力を視ることができる力の事を…………魔顕(まけん)と呼ぶ。」


「魔顕………か。随分と中二病なネーミングだな」


フィーアに向かって俺が言うと……


「名付け親は僕だよ」


「お前かよっ!」


ふざけるような場面では無いが、思わずツッコんでしまった。


「だって、仕方ないじゃないか。この力を持っているのは今の所………僕とサクラだけなんだから」


「二人だけ……か」


「そう、二人だけ。嬉しいかい?」


フィーアがニヤニヤしながらこちらを見る。


「お前と一緒だってことに、喜びは感じねーよ……」


「傷付くなぁ……」


「嘘つけ」


口では傷付くと言っているが、全くそんな様子は伺えない。


そしてフィーアは


『コホン』と咳払いをし、場の空気を直してから話し始めた。


「君はなんで……僕の問題に対して、右手と答えた?」


「右手にだけ……他より魔力が集まってた」


「その通りだ」


フィーアはニヤリと笑う。


「相手に攻撃をしようとしたとき、加護を使おうとしたとき、本人にも無意識のうちに、魔力に揺らぎのようなもの………()()が現れる」


「……予兆?」


「そうだ。さっき僕が、攻撃をしようとしていた手に、魔力を集めていたようにね」


そして……とフィーアは続ける。


「君や僕の魔顕の力は、その予兆を見て取れる。つまり……」


「その予兆から、相手の行動をある程度予測する事ができる………?」


フィーアが話し終わる前に、そう問いかける。


「そうだ。そしてそれは、戦闘において、絶対的なアドバンテージになる」


絶対的なアドバンテージ。


それはそうだ。


相手の行動を予測出来るんだから、実力が同程度の相手なら、すべての攻撃を避けることも可能だろう。


「サクラ、きみはその瞳を誇ってもいい。紛れもない、君の才能だよ」


「俺の……才能……」


そうつぶやいて、自分の両手を見つめる。


この世界において、無能の烙印を押された俺に目覚めた……唯一の才能。


「そう、君の才能だ。それに、魔力を認識した今なら、以前よりも上手く、身体強化もできるんじゃないかな?」


「身体強化……か、確かにいまなら……」


アイラは、身体強化はイメージが大切だと言っていた。魔力を全身に纏うイメージ。


そして俺には……それが少ししか出来なかった。


それも仕方ない。魔力がない世界で暮らしていた俺に、そもそも魔力のイメージなんて出来ないのだから。


しかし……フィーアの言ったとおり、今なら……


………俺がそんなことを考えているとき、声を上げた人物が一人。


「なぜ咎人に助言なんてしていますの?」


それはメルクリアだ。


「彼は国に仇なす者で、(わたくし)たちは、その咎人を捉えに来たはずでしてよ?」


メルクリアは不機嫌そうな顔を隠すつもりすらない。


「メルル……今はいいじゃないか」


フィーアが少しだけ困った様子を見せる。


「良くありませんわ!今までは黙っていましたけれど、勇者である貴方が……咎人を見逃すだなんて!」


メルクリアの言ってることは……正論だ。


メルクリアの情報で言えば、俺は咎人。勇者であるフィーアがそいつを見逃すってのがおかしい。


「だから……サクラくんは咎人なんかじゃ……」


再び、メルクリアの声に反応したアイルだったが……


「どうでも………いいじゃないか」



そんなアイルの声も……


「あぁ、そうだ。そんなことは………()()()()()()


今まで、聞いたこともないような……


「メルクリア。世界が……世界の住民が真に望んでいることはなんだい?」


フィーアの低い声に、遮られた。


「世界の住民が望んでいること………ですの?」


「それは、サクラを捉えることかい?……いや、違う。」


フィーアは大きく息を吸ってから、次の言葉をつむぐ。


「それは世界の平和。つまり………()()()()()だよ」


この時俺は……フィーアに対して……確かな恐怖を覚えていた。


今までにないくらい低くなった声もそうだ。


急に険しくなった顔も要因の一つだろう。


だが……それよりも……


俺が恐怖した一番の原因……それは………


フィーアの魔力だ。


今までは抑えていたのであろうフィーアの魔力が、いまはとめどなく溢れている。


メルクリアと戦っていたときの、アイルの比じゃない………

 

視ることはできなくても、その膨大な魔力を感じ取ったのだろう。メルクリアはすでに、何も言えなくなっていた。


()()()()()()()。皆がそれを望んでいるからね」


フィーアの第一印象は……


『いい子ちゃん』


だったと覚えている。


そんないい子ちゃんが………


()()と、強い言葉を使ったことに違和感を感じる。


「それさえ違わなければ、あとは()()()()()()ことなんだよ。違うかい?メルクリア」


フィーアは……俺の知る言葉では表現できないような顔をしていた。


覚悟?執着?固執?決意?


俺の知る言葉では表せられない。


平和な日本で………どんな生活をしていたらあんな顔ができるんだろうか。


「そう……ですわね」


そして、かわいそうなメルクリア。


あんな言い方をされたのでは、そう答えるしかない。 


「っと……すまない。少し怖がらせてしまったようだね。あとは必要な話だけをしよう」


いつの間にか、いつもの表情に戻ったフィーアの視線の先には……


アイルの背に隠れているシノがいた。


男性恐怖症のシノに、先程のフィーアの様子はどう写ったのか……考えるまでもない。


「君たちがグランツを目指した理由は、あの街が騎士団ではなく……ギルドの影響下にある街だからだろう?」


ギルド……?初めて聞く単語だ。


「そうです」


わからない俺の代わりにアイルが答えてくれる


「実質的にグランツの政治はギルドが行っていて、騎士団の出入りも少ない。ですから、この街を選びました」


「正しい判断だ」


二人の会話を聞いていた俺は、シノに質問を投げかける。


「なぁ、シノ」


「なんだ?」


「ギルドってのはなんだ?」


俺の質問に、シノはちょっとだけ思考してから答える。


「簡単に言えば、自警団みたいなものだ。騎士団には頼らず、自分の身は自分で守るって考えの人たちだな」


「なんで、騎士団に頼らないんだ?頼れるもんは頼ったがいいだろ?」


「騎士団は国に付いている以上、どうしても生まれや身分を考慮しなくちゃいけない。そこが気に食わないんだろ」


「そっか……」


つまり、ギルドと騎士団は仲が悪いということだろう。


そして、この街はギルドの影響下にある。


つまり……騎士たちから追われている俺が見を隠すのにはうってつけと……


そこでフィーアが……


『しかし……』といって言葉を発した。


「ここ最近で、グランツの状況も変わってね」


「どういう……ふうにですか?」


聞き返したのはアイル。


「ギルドだけでは拡大する魔物の被害を抑えれないと判断したんだろう、ギルドのボスと国王の間で、ある協定がなされてね」


つまり、その協定というのが、クランツの状況を変えるものだったと。


いったい、どのような……


「その内容は、『騎士団は一切、ギルドのやり方に口を出さないが、有事の際の為に、グランツに在住する』と言うものだ」


「それじゃあ……」


「あぁ、グランツには今、騎士団がいる」


なんてことだ……それならグランツにいる意味が無くなってしまう。


俺は意識もせず暗い顔になってしまっていたのだろう。そんな俺の顔を見たフィーアが声をかけてくれる。


「なに、そんなに心配することはない。その数はさほど多くない。それに、僕の部下……4番隊の隊員には、君を見つけたら僕に報告するように言ってるあるから」


ただ……とフィーアは続ける。


「一人だけ、気をつけてほしい人物がいる」


フィーアそう言って、人差し指を立てた。


「……誰だ?」


俺が聞き返すと、フィーアは答える。


「3番目の勇者……第三勇者(ドライ)だ。彼は今、グランツに滞在している」


「勇者が……この街に……?」


驚きの声を上げたのはアイル。


「彼がこの街に来てから、確かに魔物による被害は減ったらしいが……どうも僕はあいつが苦手だ。何を考えているのかわからない男だよ」


「お前は……誰でも好きだって言うやつだと思ってたよ」


「僕はそんな聖人じゃないよ。あ、サクラのことは好きだよ」


「お前はいちいちふざけないと会話ができないのか……」


とぼけた様子のフィーアに、俺は頭を抱えた。


「お前は……」


そこで、口を開いたのはシノ


「お前は、一体何をしに来たんだ?サクラを捕まえるわけでもなく、助言なんてして」


シノは、当然の疑問をフィーアに投げつけた。


「サクラに会いたかった………ではダメかい?」


「ダメだ」


あっさりと切り捨てるシノ。


フィーアは一度、ふぅ……っと息を吐く。


「君たちがこのグランツに行くことをある人物……いや、隠す必要もないね。アイラに聞いたんだ」 


「お姉様が?」


「そうだよ」


アイラがフィーアにそのことを伝えたということは……アイラはフィーアを信用している。ということだ。   


「それを聞いて、グランツには今、勇者がいると言うことを警告しに来たというのが……1つめの理由だ」


「………2つめの理由は」


「サクラに……会いたかった」


…………は?


何言ってんだこいつ。


「本気でいってんのか?」


「あぁ、本気だよ。アイラが逃した君を、もう一度この目で見てみたかった。そして……見てみて、とても満足したよ」


フィーアは本当に、満足そうな顔をした。


「本当に……羨ましいなぁ。だって……()()()()()()()()()()()


「俺には俺がいる……?どういうことだ?」


「そろそろ、僕たちは帰らせて貰うよ。これ以上はメルルの機嫌が、戻せないところまで悪くなってしまう」


俺の質問に、フィーアは答えなかった。


そして呼び方が、メルルに戻っていた。


「最後に……」


フィーアがそう言ってから、紙を手渡してきた。


「その場所にある宿に、僕の名前で部屋を取ってある。ぜひ使ってくれ」


「随分とお優しい勇者様だな」


「うん、勇者だからね」


フィーアはそう言って笑った。


「僕はこの近くにある騎士の詰め所にいるから、何かあったら相談しなよ。それじゃあ行こうか、メルル」


フィーアの言葉に、メルクリアは返事をせずに従う。


「じゃあな、フィーア。………その、色々ありがとう」


まだ、フィーアを完全に信用できるわけではないが……今日でその印象は柔らいだきがする。


今は前ほど嫌いじゃない。


アイラが信用したという事実が大きい。


「ツンデレかな?」


「うっせーよ」  


訂正やっぱり嫌い。


………俺は、立ち去っていくフィーアの背中を見ながら………


あのとき、ほんの一瞬見せた……


フィーアの恐ろしいまでの魔力と、あのとき放っていた……威圧感を思い出していた。

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