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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
31/229

何ひとつだって

「私は……怯えてなんていない!」


何をそんなに怯えているのか。


メルクリアが放ったその言葉を、アイルは強く否定した。


「敬語が消えていますわよ?」


メルクリアの指摘にアイルは、1つ大きな呼吸をしてから答える。


「メルクリアさんがおかしなことを言うので、驚いてしまっただけです」


「それは失礼しました。ですが、言ったことには自信がありましてよ?」


「私が何かに怯えている……その根拠があるんですか?」


「あの距離で貴方の攻撃を見て、そう感じましたの。………それに、(わたくし)の勘はよく当たりますの」


メルクリアの自信満々な態度にアイルは………


やれやれ。と両手を上げてみせた。


「女の勘……ですか、根拠になりませんね。それに、さっきから何かに怯えているって……その()()ってなんですか?」


俺には……いや、この場にいる全員には分かっただろう。


アイルは今………必死に……


平静を装っている。


おそらく、メルクリアの指す()()と言うものに自分でも覚えがあり、そしてそれが………


アイルにとってとても大切な物なのだろう。


「答えて………よろしいんですの?」


メルクリアは、俺と同じような考えをしたのだろう。


恨んでいる。はっきりとそういったくせに、アイルのことを気遣ってみせる。


「構いませんよ」


アイルは短く答える。


「わかりました」


そう言うとメルクリアは、一泊おいてから、口を開いた。


「貴方は……人を傷つけることに………いえ、()()()()に怯えていますね」


「ふふっ、何を言い出すかと思えば。私が………今更………そんな事なんかに……躊躇いを覚えるわけがないじゃないですか」


アイルはまだ、強がってみせる。


「言葉でなんと言おうと、貴方の拳には書いてありましたわ。『誰も殺したくない。誰も傷つけたくない』と。」


「そんなの……メルクリアさんが勝手にそう思っただけじゃないですか!」


平静を装うことすら難しくなったのか、アイルはだんだんと大きな声をだす。


「貴方は加護が無くてもとても強い。副隊長に選ばれたのも理解できましたわ。万が一、億が一にも相手を殺してしまわないようにと……手加減をした貴方でも、並大抵の相手なら組み伏せられるでしょう」


言葉を発するにつれて……メルクリアの顔が険しくなっていくのに気がつく。


「ですが……(わたくし)が相手となれば、その手加減は、致命的なものとなります。……つくづく、苛立ちますわ。そんな拳で、(わたくし)を倒せると思いましたの?」


「ちがっ………私は手加減なんて……」


アイルは、わかりやすく狼狽した。


「まあ、それが貴方の選択だと言うのなら、それでも構いませんわ」


今の一瞬のうちに、メルクリアの表情からは、怒りが消えていた。


なんというか、精神的にも強い人物だ。


「ですが、加減をしている余裕が貴方にありますの?ここで負ければ、貴方はすべてを失う。貴方自身の人生も。そして、そこにいる………………()()も」


そう言ってメルクリアは、俺の方を見た。


その動作で、考えるまでもなく。


メルクリアの、()()という言葉が、俺を指しているとわかる。


そして……そのメルクリアの言動に、当の本人の俺よりも、反応を示した人物が一人。


「咎人………?」


それは……アイルだ。


これまでの狼狽をどこにやったのか、アイルは鋭い視線でメルクリアを睨む。


「それって………サクラくんのことを言ってるんですか?」


アイルは、分かりきっている事をわざわざ問いかける。


「サクラ……というのが彼の本名なんですの?……(わたくし)が咎人と呼んだのは、ゼクスで間違いありませんわ」


メルクリアは飄々と答える。


「悪いね、サクラ。彼女は何も知らないんだ。彼女の中で君は、勇者の力を悪用するために城から脱走した……()()()()()()()()と言うことになっている」


それまでだまっていたフィーアが、俺とシノにだけ聞こえるような声を出した。


「別に俺は構わねーよ、命を狙われるのは同じなんだ。でも………騎士は全員真実を知っていると思ってた」


「彼女はとても優しくてね。この世界の罪を知ってしまえば、彼女は剣を握れなくなってしまう。そう判断した国が、彼女には………いや、戒める者(グレイプニル)にいる、所謂………()()()()には真実を隠しているんだ」


「随分と素敵な国だな」


口を開いたのは、シノ。


「『裏で何をやっているかは秘密にするが、自分たちの為に剣を握れ』っていうことだろ?ふん、ボクはそういうの嫌いだ」


「返す言葉も無いよ」


「別に勇者であるお前が謝る事じゃない。お前も被害者だ」


「随分と優しいことを言うんだね」


「うるさい」


「あらら、嫌われちゃった」


フィーアは軽くおどけてみせる。


一方、こちらとは打って変わって……


アイルとメルクリアの間には、今だ険悪な空気が流れていた。


「サクラくんを咎人と呼んだということは……貴方は何も知らないんですね。サクラくんと、この世界……いいえ、私達のどちらが本当の咎人かということを。」


「何を……言っていますの?」


メルクリアはそこで初めて、困惑した。


フィーアが言っていた通り、何も知らないのだ。


「彼は……サクラくんは……捕まれば、殺されるんですよね?」


「えぇ、当然ですわ。貴方はなぜそこまで、その()()に肩入れしますの?」


メルクリアの返答に、アイルはわかりやすく苛立った。


「サクラくんは……()()なんかじゃないからです」


アイルが拳を強く握るのが見える。


「本当の咎人は私達です。彼からいろいろなものを奪ったんですから」


アイルは続ける。徐々に感情を昂ぶらせながら。


「幸せな時間も、暖かな家族も……いたかも知れない恋人だって……全部………全部全部、私達が奪ったんですよ………っ!」


メルクリアにそんなことを言ったって、何も知らない彼女には関係もないし、理解もされないだろう。


アイルだって、そんなことくらい分かっているだろうに……だが……彼女の言葉は止まらない。


「それなのに………その命まで奪おうって言うんですか………っ!?」


普段はポーカーフェイスのアイルだが……意外と激情家なのか


「ここから先は………()()()()()()()()()()()()()()


その時、アイルの………


()()()()()()()()()()()()()()()


いや、違う。


気がした。


なんて曖昧なものじゃない。


俺の目は、確かに………


()()


アイルを包む、オーラのようなものが大きく膨れ上がって行くのが視えた。


「何だ、あれ………?」


思わず、驚きの声を上げる。


俺の声を聞いた人間は二人。


そのうちの一人、シノはキョトンとしていた。



そして……もう一人。フィーアは


「アイルの魔力にあてられて………卵にヒビが入ったね」


………真顔でわけのわからないことを言っていた。


「サクラにも視えたんだろ?あれが……()()だ。」


「あれ……が?」


フィーア、シノ、メルクリアを順々に、目を凝らして見ていく。すると……今まで何も見えなかったはずなのに、全員からオーラが……魔力が出ているのが見えた。


アイルを包んでる魔力は、今だ大きく膨れ上がっている。


そして……アイルの魔力が、メルクリアの魔力の量を超えた瞬間。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


アイルは、メルクリアに向かって駆け出していた。


駆けた勢いのまま、アイルは右手を、メルクリアに向かって突き出した。


所謂、普通のパンチ。だがその攻撃をメルクリアは……


今までのような、必要最低限動きではなく。


「く……………っ!」


思わず、大きな動作で避けた。


そして……体制を崩したメルクリアに向かって、アイルは大きく右足を振り上げた。蹴りを繰り出すつもりだ。


狙いはおそらく………メルクリアの首。


あのアイルだ。殺すつもりは無いだろうが、確実に意識を奪うつもりだろう。


「殺しはしませんっ!ただ………っ!眠ってもらいます!」


驚くべきことに、アイルの強力な蹴りが炸裂した衝撃は、こちらにまで伝わってきた。  


衝撃が生み出した凄まじい突風をうけ、思わず目を閉じてしまう。


そして、その目を開けた瞬間……


「「は?」」


俺とシノが同時に、間抜けな声を出した。


それぐらい、()()()()()()()()()()()()()()


確かに、アイルの蹴りは炸裂した。


だがそれは……メルクリアにではなく。


メルクリアを庇うようにして、間に立った………


「確かに、これでメルルは死なないだろうけど……怪我されても困るんだよね」


()()()()


フィーアは、アイルの蹴りを、顔の高さにまで上げた左肘で、軽々と受け止めている。


汗一つ………かいちゃいない。


「……………!」


アイルが右足をさげて……


急いでフィーアから距離を取る。


「手は……出さないんじゃなかったんですか?」


「あら、ホントだ」


フィーアはわざとらしく、左手をヒラヒラさせた。


「助けなんか、頼んでいませんわ。今の攻撃くらい避けれましたもの」


強がってみせるメルクリアに、フィーアは……


デコピンをした。


「いだッ!」


メルクリアが全く上品じゃない声をだす。


「嘘はいけない。彼女に勝ちたいのなら……メルルこそ手加減をせずに、次は剣を使うといい」


「確かに……手を抜いて勝てる相手ではありませんでしたわ」


メルクリアが悔しそうな顔をする。


アイルに手加減をするなといった手前、フィーアに、手加減したと指摘されたのが応えているのだろう。


「さてと………」


フィーアがメルクリアに背後を向ける………つまり、俺達と向かい合う。


「メルルが負けちゃった以上、次は僕の番かな?」






            

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