リスタート
「貴方のことが好きです!返事はまた今度でいいので、また明日!!」
クラスの女の子、香菜ちゃんに告白された。
場所は高校の屋上、時間は放課後。あまり珍しくもない普通の光景だろう。告白されたのが俺─双葉桜でなければ。
香菜ちゃんは目立つタイプではないけれど、一部の男子には人気のあるとても可愛らしい女子だ。
そんな彼女が、勉強もスポーツも平均以下、ついでに顔面偏差も基準値の俺に告白してくれるとは。
まさに奇跡。棚からぼた餅どころではない。棚からフォアグラが出てきたような気分だ。
「あぁ、空はなぜこんなに青いんだろう。」
突然の告白に気をよくして自分でも気持ち悪い言葉を口走る。ちなみに今は夕暮れだ。全く青くありません。残念。
これで明日OKすれば、晴れて彼女いない歴=年齢の、現代日本が生み出した悲しきモンスターから抜け出せる。グッバイ非リア、ハローリア充。
17年間生きてきて、初めて向けられる好意に心が踊る。
──本当に初めてなんだ
ウキウキした心のままスキップで屋上から出る。もう誰も俺を止められはせんよ
「─あっ」
自分でも思う、間抜けな声がでた。
やらかした、階段を盛大に踏み外した。盛大に下まで転がり落ちて行く。
なぜか周りがスローに見える。これが走馬灯と言うものだろう。本当にあるんだなぁ。
俺の意識はそこで途絶えた。
✦✦✦✦✦✦
無償の愛などない。そんな事はみんな知っている。
好きな異性のタイプを聞かれたときに「自分を好きでいてくれる人かな」という返しはテンプレート。
好きな人には自分を好きでいて欲しいし、好きな人が自分以外を好きな時は心が痛む。
好きという感情は何かしらの対価を要求する。
異性との恋愛も、友達に対する友情の愛も例外ではないだろう。
だが、無償の愛に限りなく近いものがある。それは─家族愛。
親から子へ、子から親へ。その愛は限りなく無償に近く、自然に、ごく当たり前に、当然のように贈られる愛の形。
──そんな愛さえも受けることが出きなかった子供は、一体どのように成長するのだろうか
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「ここは…?」
目が覚めると、知らない天井。体は柔らかい感触に包まれている。どうやらベッドの上で寝ていたようだ。
「痛っ…」
体の節々が地味に痛い。あ、そうだ。俺階段から見事に転がり落ちたんだ。
女の子に告白されたのが嬉しすぎて階段から転倒…クラスのみんなに聞かれたはそれはそれはイジられまくるだろう。
「あー!やっと起きたぁ!」
凛とした声が響く。声のした方に顔を向けると、一人の女の子。年は自分と同じくらいだろうか。綺麗な金髪を、所謂ショートボブにしている。
首元には、紅い大きな宝石を使ってある、見るからに高そうなペンダントをぶら下げていた。
それよりも気になるのは身につけている服だ。あまり見かけないような…というよりも…よくファンタジーのゲームなんかで見かけるような服を着ている。
「召喚したと思ったらなぜか気絶してるし、怪我もしてるしで…ホントにあせっちゃったよぉ」
付けている高そうなペンダントや、服装に似合わず。喜怒哀楽の激しそうな女性だ…って、ん?召喚???
改めて部屋を見回して見ると、天蓋付きのベッドに、天井には大きなシャンデリアもある。日本でないことは確かで、自分がどれほど気を失っていたかわからないが、その時間で意識のない人間を海外まで運ぶのは無理があるだろう。となると……
「もしかしてここって、異世界?」
先程の召喚という言葉。目が冷めたら見慣れない服を着た女性。
これは、今流行りの異世界転移なのではなかろうか。
いや、間違いない。というかそうであってほしい。
「おぉ、話が早いね!君はこの世界を救う勇者として召喚されました!」
目の前の女性がパチパチと手を叩く。
きたァァァ!
心の中でガッツポーズをした。