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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第六章 食事会
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あそびましょ

「さーせんっ!プリュネさんいますかー!?!?!」


挨拶は明るく元気に気持ちよく。その常識な万国共通……のはずだ。


いや、万国共通では意味がない。なんたって俺は、違う国どころか違う世界にいるのだから。


「うる……っさいのだっ!!!」


聞いたもの全てを笑顔にする挨拶(自称)に、苦言の叫びを上げる少女が一人。


アストレア邸の門番……確か名前は、アンリエッタと呼ばれていた筈だ。


相変わらずその背中には、背格好と不釣り合いな戦斧の姿がある。


「なんなのだ!?朝っぱらから人の家の前でっ!!!」


人の家の前。このちんまいのが言うように、俺はプリュネの家の前に来ている。


……彼女が昨日『も』殺それた家の前に。


「なんなのだって……最初から言ってんだろ?プリュネさんを出せ、遊びに来たんだよバカタレが」


プンスカと怒るアンリエッタを無視しようとするが……やはりそこは門番。俺を通してくれる気は無さそうだ。


扉の前まで行こうとする俺を、小さな体で遮った。


「べーっ!お前こそバカタレなのだっ!」


「おいおいクソガキ。あんまり『バカタレー』とか、強い言葉を使うなよ。弱く見えるらしいぞ?」


「お前が先に言ったのだ!!!」


「うるせーな、あんまり過去の事を気にすんなよ。モテねーぞ?……それより、早く中に入れてくれ。タイムイズマネーって言葉知ってるか?」


アンリエッタは両手で大きくバツを作る。


「ダメなのだっ!『知らない人はお家に入れちゃいけません』って、アンは言われてるのだっ!!!」


「何言ってんだよアンリエッタ。……いや、アン」


彼女の両肩を掴み、力強い眼差しを送る。

 

「俺はこの前もここに来た。そして、こうしてお前の名前だって知ってるんだ。俺達の関係は『知らない人』だなんて……そんな安っぽい関係じゃないだろう!?」


「……む?むむぅ……?た、たしかにそうなのだ。アンはお前のことを知っているのだ」


チョロい。チョロいぞアンリエッタ。


体躯は小さいし、思考はチョロい。いかついのはその武器だけ。こんなのが門番で、本当に大丈夫なのだろうか。


「そうだ。俺達は知り合いだ。ソウルフレンドだ。……って事で失礼しますよい」


「だ、だめなのだだめなのだ!そーいうわけには行かないのだっ!」


アンリエッタの隣を通り抜けようとするが、さすがに静止される。ま、当たり前か。


「駄目なのはわーったよ。無理言ってすまなかった」


以前ここであばれまわったリープの知り合いである俺が、いきなり家に入れてください、お嬢さんに合わせてください?と言っても、土台無理な話だ。


家に入るためのもっともらしい理由や、作戦を考えずにここまで来てしまったのは、俺に焦りがあるからなんだろうな。


「なぁ、アンリエッタ。俺は家に入れなくてもいいんだ。ただ、プリュネに会いたい。……呼んで来てくれって訳にも行かないのか?」


今日の中で、一番切実な思いだった。真摯な言葉だった。


昨日あんな悲惨な目にあったプリュネが、どんな顔をしているのかが知りたい。どんな思いで今日を迎えたのかが知りたい。


救ってやりたいだなんて、そんな事が出来るだなんて思ってない。俺は、ただ……


「どうしてお前はお嬢様に会いたいのだ?会って何がしたいのだ?」


……その質問に答えるには、俺も1つの質問をしなければいけない。


「なぁ、お前は知ってるのか?プリュネが、昨日どんな目にあっていたのか」


溢れ出る感情を抑えるために、強く拳を握った。


「……っ!?ど、どうして知っているのだ……?」


この反応で理解する。アンリエッタは、プリュネの身に起きている事を知っていると。


彼女が、何度も殺されている事実を知っていると。


「お前も、知ってんだな」


知っている。ならば、プリュネのクソ兄貴と一緒だ。知っているのに何もしない、ただ見ているだけの傍観者。


門番であるアンリエッタが知っていると言うことは、この屋敷いるやつの殆どが知っていると言うことだろう。


……屋敷全体から、不気味なオーラが出ているように感じた。


「知ってて、何もしないんだな。アイツの兄貴と同じように。『なにかしよう』って思った事は一度もないのか?」


「アンなんかが口を出すのは、恐れ多い事なのだ」


どこか悲しそうに、アンはそう告げた。


傍観者が悪いとは言わない。


いじめを見て見ぬふりをしているやつも、いじめているやつと同罪だというのは、力があるやつの暴論だ。


だけど、だけどそれでも……ムカつく。


「そうか……。ま、そんなもんだよな」



強いものには従え。それは動物として当然の本能だ。門番であるアンリエッタや、この屋敷で生活しているであろうメイド達には、何も出来ない。何もする必要がないし、それを攻める権利は誰にもない。


「おまえは、『なにかしよう』っておもってるのか?」


「まあ、そうだな。そうなるかな」


助けてやりたいとか、なんとかしてやりたいとか……そんな、本物の『勇者』みたいなことは考えてない。


俺の行動を支配しているのは、もっとシンプルな感情だ。


「ーーーここで待ってるのだ。変なことはするんじゃないぞ?」


どんな心境の変化があったのか、アンリエッタは屋敷の中へと入っていく。……プリュネを呼んできてくれるのだろうか。


「なんか、嫌いになれなそうだな」


アンリエッタの背中を見ながら。


1人、そう呟いた。

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