わかるんです
「ーーーもう一度だけ聞くわ。3秒以内に答えなさい。なんで第六勇者にあんな話をしたの?……いや、もっと前ね。なんで『鳥籠の姫』と、第六勇者を会わせたの?」
「……」
私は押し黙り、3秒という時間を無駄に浪費する。
リープの口ぶり。そして、『鳥籠の姫』という言葉。
彼女は知っているのだ。
プリュネさんの事も、彼女の家の事も、そして……彼女が殺され続けている理由も。
その上で、首を突っ込むのは危険だと判断したのだ。だからこそ、サクラくんをけしかけるような真似をした私が許せないんだ。
……許せない?……なんで?
彼女の中で、『フタバサクラ』とは一体どんな存在なのだろうか。
ただの隊長?それとも世界を救ってくれる勇者?
サクラくんをけしかけた事に対して怒っていてると言うのなら。リープに取ってサクラくんは大切な人だと言うことになるのではないか。
なら……なら、リープもまた……。
「時間切れよ」
リープは冷たく言い放つ。
私の体感では、3秒どころか一分くらいは待っていてくれたような気がする。
なんでプリュネさんとサクラくんを会わせたのか……結局その答えは出なかった。
プリュネさんの事を知れば……いや。
ーーー『可哀想な、泣いている女の子が居る』と知れば、サクラくんはきっと、その身が切り裂かれるとしても泣いている女の子に手を伸ばすだろう。
そんな事、わかっている。リープよりも、もっともっと知っている。
ずっと、近くで見ていたんだから。
「自分でも理由がわからないなんて……とんだおバカさんね。いいわ、馬鹿なアンタに教えてあげる。アンタがなんで、お姫様と勇者様を引きあわせたのか」
ーーーあぁ、『これ』なんだ。
リープが本当に怒っているときの表情は、仕草は、声は。
本当のリープは、これなんだ。
狂気的な笑いも、相手を威圧する怒声も、恐怖を与える大仰な動きも、本来の彼女には存在しない。
「……アンタはただ見たかったのよ。自分の愛した男の、カッコイイところがね」
そして、そんなリープの言葉は、私の胸を撃ち抜いた。
「最低な女よ。アンタは、アンタの理想を第六勇者に押し付けた。自分が好きになった勇者様は、誰かを救える人なんだってね。……絵本の世界みたいに、泣いてる女の子は救われるとでも思ってるんじゃないかしら?ーーーそんなワケないのにね、バカみたい」
自分自身でも気が付かなかった底の底を、リープはいとも容易く言い当てる。
私は理由を言語化なんてしていなかったんだ。
ただ、『そうするべきだ』となんとなく判断していただけ。
だからこそリープに、胸を抉るような衝撃を与えられた。
「そうですね……私は最低な女です」
私を救ってくれたように。シノを救ってくれたように。
サクラくんなら、プリュネさんを救ってくれると、そう思ったんだ。
無力な私では、プリュネさんを救えない。だからサクラくんをけしかけた。
「開き直ればいいってもんじゃないわ、わかるでしょう?……アンタの行動は、第六勇者を傷付けるだけだわ。ま、それは別にどーでもいいんですけど。アイツがどうなろうと、知ったこっちゃないしぃ?」
「リープは優しいんですね。『誰かの為に怒ってあげられる』……サクラくんと同じです」
「はっ、あんなのと一緒にして欲しくないわね」
「彼と『同じ』だと言われるのは嫌ですか?……リープは、サクラくんの事が嫌いですか?」
「いいえ?大好きよ。……この世界を救ってくれるならね」
私とリープとお姉様は、同じ"罪"を背負っている。
世界を救う勇者を求めて、たくさんの無関係な人を殺したという罪が。
私とお姉様は、召喚士とその妹だ。いい訳では無いが、その『罪』を……『運命』を"背負わされた"とも言える。
だけど、リープは違う。自らの強い意志で、その罪と運命を背負った。
彼女にはあるんだ。曖昧ではなく、明確に。
ーーー救ってほしい世界というものが。
「私はサクラくんの事が好きです。大好きです」
そう告げると、リープは私に『何言ってんのよ、わかってるわよそんな事』と返す。
「サクラくんがこの世界に来てから、ずっと側にいて、ずっと見てきたんです」
カッコイイところ。情けないところ。勇敢なところ。臆病なところ。
色んなサクラくんを見てきた。
そしてその全部を含めて……私は彼が大好きだ。
「ずっと側で見てきた私は、パッと出のリープなんかより、沢山の事がわかります」
プリュネさんの事を知ればサクラくんは無茶をするだろう……リープはそう言った。そしてそれは、きっと真実だ。私だってそう思う。
だけど私には、その『先』もわかるんだ。
「いったい、何がわかるって言うのよ」
苛立ったリープに対し、私は胸を張った。そして、笑顔で告げる。
「ーーーサクラくんなら、泣いている女の子を……絶対に救ってくれます」




