死は救い
〜アイルside〜
サクラくんと最後に会ってから、2日くらい立っただろうか。
ーーー結局私は、あの女の子を殺せなかった。
それでもまだ、なぜアストレア家のお屋敷にいるかと言うと、理由は簡単だ。
『秘密を知ったからには、出すわけにはいかない』……誰にでもわかる単純な理屈だと思った。
食事はルキウスさんが運んでくれるし、部屋もあてがわれている。自由に出られない以外、不便なことは無かった。
ただ一つ、心残りがあるとすれば、サクラくん達のことだ。
なんの連絡も出来ていない。もしかしたら心配しているかも知れない。
ーーーずっと一人でいると、色々な事を考えてしまう。
ルキウスさんの願いの事。また殺されてしまう少女の事。
そして、私の能力の事。
……死は救いなのだろうか。
あらゆる理不尽から、苦痛から、悲しみから開放されたその先は……?はたして、死ぬことで救われるのだろうか。
人は弱い生き物だ。理不尽には抗えない。苦痛には耐えられない。悲しみは乗り越えられない。……だから、簡単に何かを投げ捨ててしまえる。だから、逃げ道があったら我先にと逃げ出してしまうんだ。
その逃げ道の名前が『死』であったとしても。
死ぬ事で逃げられるのだろうか。死ぬ事で消せるのだろうか。
あの子が受けてきた理不尽を、あの子が与えられた苦痛を、あの子に刻まれた悲しみを。……死ぬ事で、そんな事で消せると言うのか。
……私にはわからない。わからないけどーーーそういう事もあるのかもしれない。
死で救われる事も……いや、死ぬ事でしか救われない事も、あるのかも知れない。
……だったら、私は……
ーーーサクラくんなら、どうするのだろうか。
私を救ってくれたサクラくんなら。
シノを救ってくれたサクラくんなら。
お姉ちゃんを救ってくれたサクラくんなら。
決して救われぬ少女を、どうやって救うのだろうか。




