たった一人の
「殺して欲しいと依頼された人物が、こんな可愛い顔をして眠るとは思っていなかったのかな?」
いつの間にか隣に立っていたルキウスさんが声をかけてくる。
「えぇ。誰かに死を願われる人物ですから、もっと醜悪な顔をしているとばかり……」
「そんなふうに考えられる君は優しいね。死神なんて物騒な呼び名、君には似合わないように思うよ」
「……ピッタリですよ。忌々しい加護を持って産まれてきた私には。許されない罪を背負ってきた私には……ね」
自嘲気味に笑う。私は『死神』と呼ばれるに相応しい人間だ。
「忌々しい加護に背負った罪……ね。君のように可憐な少女がそんな物を持っているとは到底思えないな」
「人は見かけによりませんよ。私には、この女の子が死神のお世話になる様な子には見えません」
健やかな寝息を立てる女の子を見る。バランスよく配置された顔のパーツ。艷やかな髪。眠っているので確認は出来ないが、その瞳も美しいのだろう。
「ルキウスさん。貴方は、私に『殺して欲しい人』がいると言いました。……それがこの子なんですか?」
隣に立つルキウスさんは、無言で頷いた。私は納得が出来ずに、さらに質問を重ねる。
「こんな可愛らしい女の子が、一体何をしたと言うんですか?貴方に殺したいと思わせるほどの何を……」
問いかけると、彼は自嘲気味に笑った。そして。
眠る女の子の頬を、優しく、愛おしそうに撫でた。
そんな。おかしい。だって。
人は、殺したいと思っている人物に、こんな顔を向けることは出来ない。出来るわけがない。
ルキウスさんの顔から、憎しみや憎悪を感じない。いや、それどころか『愛情』を感じてしまう。
何かがおかしい。何かが普通じゃない。
矛盾しているんだ。殺して欲しいという願いと、今彼が少女に向けている視線が。
ーーーあぁ、そうだ。ここに私の……『殺してあげたい人』がいる。……先程のルキウスさんの言葉を思い出す。
殺してあげたい人……か。
与えられたピースでは、パズルを完成させる事が出来ない。そこに何が描かれているかを知るには、さらなるピースが必要だ。
「この子はね、私の妹なんだ」
だが、ルキウスさんから渡されたピースは……。
「そしてこの妹は……。近い内にーーーまた殺されてしまう」
更に私を、困惑させるだけであったのだ。




