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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第六章 食事会
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殺したいほどに

『最低』。よく聞く言葉だ。


最も低い。……とは言うけれど、一体地の底はどれほどに遠いのだろう。わたしはいつまで落ち続けるのだろう。


ーーー本当はもう、地の底に着いているのかもしれない。あの日、『わたし』が死んだあの日から。


だけどきっと、関係ないんよ。


今も落ち続けている最中だろうが。すでに地の底だろうが。


落ち続けるわたしを受け止めてくれる人はいないんよ。地の底に居るわたしに糸を垂らしてくれる人もいないんよ。


ここはきっと地獄だ。だけど抜け出す事なんてできない。外の世界に天国があるのか分からないし、そして何より……。わたしがここからいなくなれば、全部が壊れちゃうから。


だから、耐える。


降り注ぐ理不尽に。抗えぬ暴力に。


耐える耐える耐える。


たとえもう二度とあの人が……。


『おにぃ』が微笑みかけてくれなくても。



✦✦✦✦✦✦✦✦


私に『人殺し』を依頼した男の名前は、ルキウス・フォン・アストレア。


ーーーアストレア。有名な貴族の家だ。そのお屋敷は、メルクリアさんの実家とどちらが大きいのだろうか。


そのお屋敷に入るのは簡単だった。使用人の人たちに、ルキウスさんが私の事を『娼婦』だと説明したのは気に食わなかったが。


「………」


ふと、窓の外を見る。景色はあまりよく分からなかった。すでに日が落ち、月明かりだけが夜を照らしていたから。……今は、王都に住む殆どの人間が寝ている時間だろう。


きっと、サクラくんたちも。


私の隣を歩くルキウスさんの足取りは終始重く、私たちの間に会話はない。


……それはそうだ。軽快なステップでは進め無いだろう。楽しい会話に花を咲かせられないだろう。だって今から私達は、ルキウスさんが()()()()()()()()()()に会いに行くのだから。


無論、私に人殺しをするつもりはない。だけど、この先にいる人物を見ておかなくてはと、そう思ったのだ。


殺される程の罪を犯したのなら騎士団に渡さなければいけないし、ルキウスさんか些細ないさかいで『突発的な殺意』を抱いてしまったのなら、なだめなければ。


……と言っても、後者の可能性は低いだろう。彼との少ない会話の中で、私はそう感じていた。彼の目に、使()()()のようなものを見たから。


許せないほどの悪党を、裁けないほどの罪人を、屋敷の地下牢にでも閉じ込めているのでは無いかと、勝手に予想を立てる。


だが、地下牢へと向かうという私の予想とは裏腹に、いくつかの階段を登った。


ーーーそもそも、前提が間違っていたのだ。捉えている罪人を殺すのであれば、わざわざ私に頼む必要はない。触れただけで命を奪う『必殺の加護』を使う必要がないのだ。


ルキウスさんが見ず知らずの私に『人殺し』を頼んだということは……。この穢れた力を使わ無ければ殺せ無いと、彼がそう判断したと言う事だ。


「ついた。……この中にいる」


「ここにいるんですか?ここに貴方の……」


「あぁ、そうだ。ここに私の……『殺してあげたい人』がいる」


「………?」


ルキウスさんの言葉に多少の違和感を覚えつつ、促されるままに扉を開けた。


ゴクリとツバを飲みこんだ後、薄っすらと月明かりに照らされた部屋を見回す。


……罪人が寝ている部屋とは思えない。扉を見た時から思ったが、装飾品が豪華すぎる。罪人はおろか、使用人の部屋にしても豪勢だ。


……部屋の奥から、一人分の気配を感じ、規則正しい寝息が聞こえてくる。


あそこに、ルキウスさんが『殺したいほど憎い人物』が居るのだ。


恐る恐る、息を殺して近付いて行く。これまた豪華なベットで眠っている人物に向かって。


……どんな男がいるのだろう。どんな罪を重ねた男がいるのだろう。


誰かに死を望ませる程の醜悪な顔が……


「な……」


眠る人物の顔を覗き混んだ瞬間、私は息を呑んでいた。


理由は単純。何一つ、私の予想が当たっていなかったから。


そこで眠る人物は、醜悪な顔をしていなければ、男でもなかった。


「女の……子?」


私と同じくらいの女の子だった。無邪気で可愛らしい寝顔をした女の子。


……こんな悲しい世界だ。寝顔だけで人を『善人』だと決めつけていれば、何処かできっと痛い目をみる。そんな事は幼い子どもでも知っている。


だけど、それでも。私は……。


こんな顔で眠る女の子が、誰かに死を願われるような人物だとは思え無かった。

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