炎
〜アイルside〜
「………」
ルミナさんの家を出てから、ずっと視線を感じる。
気のせいかとも思ったが……違うようだ。どれだけ回り道をしても、どれだけ細い道を通っても、視線はピッタリと付いてきた。
誰かにつけられている。間違いない。
私はただ両親に会いに行っているだけだ。やましい事などしていないし、尾行される覚えはもちろんない。
「………よし」
素人の私にバレるくらいなのだから、相手もきっと素人なのだろう。さほど危険はない……筈だ。
意を決し、もう一度細い路地に入る。
そして、足を止めて振り向いた。
数秒後に現れた男が、驚いた視線を向けてくる。だが、それも一瞬の事だった。男はすぐに落ち着きを取り戻す。
「……私に何か用ですか?私達は初対面だと思うのですが」
「……すまない。慣れないもので、レディに声をかける勇気が出なかったんだ」
気品に溢れた声だった。その言動から、纏っている衣服から、育ちの良さが伺える。
「お茶のお誘いなら受けませんよ。私には心に決めた人がいますので」
「それは残念だ。それでは……もう一つのお願いをするとしよう」
男は一度大きく息を吸込み、左手を差し出した。
「私と一緒に来てくれないか?君に会わせたい人が……。いや、違うな」
そこで一度、自嘲気味に笑い首を振った。そして、咳払いを一つ。
「君に。死神と呼ばれたアイル・コールにーーー『殺して欲しい人』がいる」
男の瞳には決意の炎が揺れていた。……だが、僅かに異物が混じっている。
1滴。ほんの少しだけの躊躇いが………。




