変態さん。
「……何してるんだ?」
「わー、変態さんだー」
……なんとでも言うがいいさ。俺は心の中でそう呟いた。
ルミナとシノが侮蔑の視線を向ける相手……即ち俺は、それに相応しい様子だった。
正座をした状態で、両手を背中で縛られ、首からさげられたパネルには『私は変態です』と書かれている。
更には、頭に無数に出来たタンコブ。惨めったらありゃしない。
「ふふふ、俺はただ男の夢を守ろうとしただけだ。ーーーそうだ、間違っているのはこの世界のっ………」
「なーにカッコつけてんの、よっ!」
言いかけた俺の頭を、リープがグーで殴る。
「いてぇ!?同じところ何回も叩くなよ!?」
「ふんっ!それだけの事をしたんだからしょうが無いじゃない!……変態!バカ!ゴミ!クズ!!!」
リープは思いつく限りの罵声を浴びせる。事実はどうであれ、彼女から見た俺は単なる下着泥棒だ。
なので、素直に謝っておく。
「すみませんでした」
「今のアンタの姿をアイルにも見せたかったわ。きっと百年の恋も冷めてたわね」
「……そういえば、アイルは何処に行ったんだ?」
リープの言葉に一瞬『ドキリ』とし、話題をそらす。……が、きっとその必要は無かっただろう。
シノだって、アイルが俺に想いを寄せてくれている事は知っているのだ。別に隠す事では無い。
「アイルは朝から出かけた。親に会いに行くっていってたぞ」
「さっちんのこと心配しながら出かけて行ったよー?『熱は冷めてるでしょうか……』『本当はもっと一緒に……』ってつぶやいてた。ルミナさんは赤くなったアイるんのほっぺを見逃さ無かったZE!」
視線を向けたリープの代わりにシノとルミナが答えてくれる。
そうか。もうコソコソしながら両親に会う事はないのだ。堂々と、理由が無くても会いに行ける。……きっとそれが、家族の正しい形だ。
「ほら二人とも、そんなヤツと話してたら変態が移るわよ。買い物にでも行きましょ?」
リープの言葉に、ルミナが元気な返事を送る。
「第六勇者はもちろん留守番だから。私達が帰ってくるまでその姿勢のままよ?」
「……うぃ」
元気なく返事をした俺に顔を近付けたシノが、心配そうな声をかけてくる。
「大丈夫なのか……?辛かったらやめていいんだぞ?」
シノの背中に白い羽が見えた。………ような気がした。
スイートマイエンジェル『シノ』。なんと慈悲深い心だろうか。惚れてもうてまんねん。
「へーきへーき。きっとさっちんには『ゴホウビ』だから」
ニヤニヤと笑うルミナが、俺の天使を連れて行ってしまう。
……やがて、何かを思い出した様にルミナ一人だけが戻ってくる。
そして、俺に小さな声で耳打ちをした。
「それで、どうだった?」
「……?なにが……?」
言葉の意味がわからない。
「だーかーらー。プレゼント置いてたでしょ?風邪のさっちんが『ゲンキ』になる様に」
「……プレゼントって、何を置いたんだ?何を渡すことで俺を『ゲンキ』にしようとしたんだ?」
恐る恐る、問いかける。
「なにって……キマってるじゃん。それは……」
ビッと。俺に指を突きつける。
「リープちゃんのパンツだゾ!!!」
「お前がやったんかいぃぃぃぃ!!!」
空気を震わせんばかりに、俺は叫んでいた。
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リープ達が出かけてから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
足も痺れて来たし、お腹も空いてきた。
……だが、姿勢を変えるわけには行かない。なぜなら俺は人間だから。人間は理性ある生き物だから。だから言いつけを守るのだ。
願わくば、両親に会いに行ったというアイルよりも先に、リープ達が帰ってきますように。アイルにまでこんな姿は見せられない。きっと幻滅されてしまう。
ーーー面倒くさいのは嫌いだ。だから結論から言おう。結局その日、先に帰ってきたのはリープ達だった。
いや、『先に帰ってきた』と言うのは少々語弊がある。
その日、アイルは帰ってこなかった。次の日も、また次の日も。




