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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第二章 正義の人
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オモイヲハセル

こんな加護(ちから)。欲しくは無かった。


私達の…いや、私の手は…汚れている。


誰かの血で、真っ赤に染まっている。


──なぜ?


自分たちの世界の為に関係ない人を巻き込んだから?


──なぜ?


こんなの間違っているとわかっていながら、見殺しにしたから?



──違う。


私の手が汚れたのは…この世界が破滅へと歩み始める前。


私の手は……いや、私の加護(ちから)は。


どうしようもなく……真っ赤に染まっている。


……誰かが言った。


道具は意思を持たない。加護(ちから)もまた同じだと。


良くも悪くも、使う人次第だと。


そんなのは……無理だ。


私の加護(ちから)は……どうやって正しく使えばいい?


人を傷つける事しか出来ないっていうのに。


……だから私は。


──こんな加護(ちから)……。欲しくなんて……なかった──



✦✦✦✦✦✦✦✦✦


アイルと二人で馬車に揺られること……どれくらいだろう。


夜明けを待たず、目的地についた。


御者にお礼をいって、アイルと二人っきりになる。


ここは………どこだろう。


そういえばアイルが、目的地を貧困街に変えてほしいと言っていた気がする。


「ここが、貧困街ってところなのか?」


「そうです。」


アイルは続ける。


「ここに、私とお姉様の友人が居ます。どこに行くにしても準備は必要です。何日か泊めてもらって、その間に準備をしましょう。」


アイルとアイラの友人か……どんな人物だろう。少し興味がある。


ふと、周りを見回して見る。


貧困街というだけあって、月明かりに照らされた建物はお世辞にも立派とは言えなかった。


あたりを見回す俺を見て、アイルが口を開く。


「ここに住んでいる人の多くは、魔法が使えません。」


この世界における魔法の才能は、運ゲー要素が強いらしい。詳しくはわからないが、努力では超えられない壁というものもあるのだろう。


俺が勇者になれなかったように。


「魔法が使えればそれなりの仕事に付けて、裕福な生活ができるからです。でも、ここの人たちはみんな懸命に生きていて………私はここが嫌いではありません」


自分が好きな場所に、悪い印象を持たれるのが嫌だったのだろうか、アイルが珍しく饒舌だ。


「これから会うアイル達の友人も、素敵な人なのか?」


「素敵……とは言えないかもしれません。」


ありゃ、友人なのに素敵ではないのか。


「それでは行きましょう。こちらです。」


そう言って、アイルは歩き始めた。


✦✦✦✦✦✦


しばらく歩いたあと、ある家の前でアイルは足を止めた。


「ここです。」


そう言うと、アイルは躊躇いなくドアをノックした。


正確にはわからないが、もう遅い時間だろう。アイル達の友人とやらはまだ起きているのだろうか。


「ふぁ〜い、どちら様〜?」


そんな俺の思考は杞憂に終わり、中から眠たげな女性が出てきた。


服はだらしなく着崩れていて、髪はボサボサだ。


寝ようとしていたことを加味しても、だらしない。


アイルとは正反対の性格のように見えた。


「お久しぶりです。ナナリー。」


アイルが友人にするとは思えないほど丁寧に挨拶をする。


すると、だらしなさそうな女……ナナリーはそれまで眠たそうにしていた瞼を、みるみるうちに開いていく。


「ちょっ……え!?アイル!?」


ナナリーは、「ひっさしぶりじゃーん!元気してた!?」とアイルの方をポンポンと叩く。


「ちょ…普通に痛いのでやめてください。」


アイルは迷惑そうにナナリーの手を払う。


そして…いきなり本題に入った。


「事情は聞かずに少しの間泊めて頂けませんか?」


直球だった。野球選手もびっくりなくらいのストレート。


事情を聞かずに泊めてほしいって、怪しさ満点すぎるだろ。


そんな都合よく泊めてくれるはずが……


「いいよ〜」


笑顔でナナリーは答えた。


いいのかよ……


それほどまでに仲がいいのか、それともナナリーがアホなだけなのか……


「それで、そっちの子は?彼氏?」


ナナリーがこちらを向いて訪ねてくる。


「違います。」


即答だった。ほんとに回答までが早かった。


普通なら、「ち、違いますっ!」とか、頬を染めながら言うものじゃないのか?


ラブコメなら怒られてるぞ?


「ありゃ〜、アイルに春はまだ来ないかぁ………。まあまあ、とりあえず入ってよ」


ナナリーがドアを開け、俺とアイルを招き入れる。


その身なりとは逆に、家の中はスッキリとしていた。片付いているというよりは家具が少ない印象。


「来てそうそう悪いんだけどさ、あたしもう寝るわ。奥の部屋にベッドがあるから、二人で使って。」


そう言って、ナナリーは椅子に腰掛け、そのままテーブルに突っ伏した。


「いやいや、家主が椅子で寝るっていうのは……」


ナナリーに遠慮していると……


「ナナリーならどこでも寝れます。大丈夫です。」


アイルがそう言ってきた。


それを聞いて、突っ伏していたナナリーが顔を上げて


「アイルちゃんのいうとーり!よく言うでしょう?ほんとに優れた人は道具を選ばない。キリッ」


弘法筆を選ばず。と言うやつだ。


しかし……最後のキリッ!まで口で言っちゃている


なぜだろう。気を使うのも馬鹿らしくなってきた。


「そっか、そこまで言うならお言葉に甘えるよ、おやすみ。」


アイルも、「おやすみなさい。」とお辞儀をする。


二人で奥の部屋へと進む。


どうやらここが寝室のようで、大きなベッドが一つと、タンスやらクローゼットやらが置いてあった。


「って…あれ?」


ベッドは一つ。俺らは二人。


「あれれ?」


たしかナナリーはベッドは二人で使ってと言っていたような気がする。


彼女はここで独り暮らしているようだったし、ベッドが一つなのは当たり前。


「これ、二人で一緒に寝るの?」


アイルにそう問いかけると、アイルはコクリと首肯する。


何故、アイルが迷い無く頷いたのか分からないが…それは流石にまずいでしょう。内なる僕が目覚めてしまいかねない。


よし…ここは……


「おっけい、ナナリーと変わってくる。俺が椅子で寝るから、二人はベッドで寝てくれ。」


……これが正解だろう。やはり、ハレンチなのはいけませんっ!


そう言って、部屋から出ようとしたところで………アイルに腕を掴まれた。


「アイルさん……?」


なぜ止める。


アイルさんだって男と二人は嫌じゃないのか。


「ナナリーはとても、いびきがうるさいんです。…あれと寝るのはストレスです。」


アイルが心底嫌そうな顔をしながら言ってきた。家に泊めて貰うのになんてひどいことを言うんだ。


しかも、ナチュラルにナナリーを()()って言ってるし。


とっても仲がいいんですね。うん、そういうことにしましょう。


アイルは「それに……」と続ける。


「私ならサクラくんと寝てもなんの問題もありません。」


「……その心は」


「私は顔だけなら美少女です。お姉様と同じ顔なので。ですが、中身が私だと、サクラくんも変な事をしないでしょう?……更に、もし変なことしてきても、私のほうが強いですから。」


「あっ、はい。」


アイルの自信満々な声につられて、俺は頷いた。


✦✦✦✦✦✦✦✦


結局俺はアイルと、一つのベッドに二人で寝ることになった。


最後の抵抗として、床で寝ると言ったのだが、「怪我をしているから」と断られてしまった。


俺の体を心配してくれたアイルを無下にすることもできず……こうして今、同じベッドに入っている。


女の子と同じベッド。最初こそドキドキしていたが、案外すぐに落ち着くものだ。


当のアイルは、すでに規則正しい寝息を立てている。


──夜は人の心を弱くする──


俺が命を狙われる立場にあるとアイラに聞いてから、ここまで様々な事があった。


今までドタバタし過ぎていたせいで深くは考えていなかった。


しかし、こうして一人で考える時間があると、どうしても弱気になってしまう。


俺はこれからどうなってしまう?


いつまで人目につかない生活をする?


一体どれほどの人が俺の命を狙っている?


………体が震える。


アイルがすでに寝ていて良かった。こんな姿は見せられない。


……怖い。俺は今、先の見えない真っ暗なトンネルの中にいるんだ。


(香菜のやつ…どうしてるかな……)


思いを馳せるは、日本に残して来たクラスメイト。


世界で唯一、俺を好きだと言ってくれた少女。


彼女は今、悲しんでくれているのだろうか。


…この世界への恐怖と、元の世界への憧れで、最低なことを考えしまう。


()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()


いや、駄目だ。それだけは考えちゃ駄目なんだ。


その考えは、俺をここに呼んだ、アイラの否定にもなる。


彼女は本物だった。俺に向けられた彼女の優しさは、本物だったんだ。


だから……それだけは否定しちゃいけない。


アイラのペンダントを両手で包み込む。


夜の静けさが与えた心の弱さを。


ここから先、どうなってしまうのかという不安を。


それらをかき消すように、ペンダントを握りしめる。


だが………それでも…………。


体の震えは止まらなかった。


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