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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第六章 食事会
168/229

『あれ』

ーーー私は今でも覚えてる。


両手を切り刻まれようとも。両足をもがれようとも。お腹を切り裂かれようとも。眼球をえぐられようとも。


心がすり潰され、消えて無くなってしまいそうになっても。


優しかった頃のあの人を、決して忘れない。


寂しい時は優しく語りかけてくれた。眠れない夜は手を繋いでくれた。


……あの人はよく、私に絵本を読んでくれた。


キラキラした物語。ワクワクした物語。


どんな悲しい物語も、最後は幸せで終わる。みんな笑っている。


泣いている女の子がいれば、カッコイイ勇者が救ってくれる。


でも……もうわかってるんよ。本当はそんなんじゃ無いって事くらい。ーーーわかってるんよ。


悲しい物語は悲しいまま終わる。泣いてる女の子を助けてくれる勇者様なんて、何処にも居ないってことくらい。


✦✦✦✦✦✦✦✦


気持ちのいい朝。清々しい朝。……その筈だった。現に、少し前までは確かにそうだった。


朝。目が覚めると、昨日の熱は引いていて、身体も軽かった。きっとアイルがくれた薬が効いているのだ。


だというのに、今の気分は最悪だ。


喉も唇もカラカラに乾いて、息をするのさえ億劫に思える。それに、全身を嫌な汗が包んでいた。


それもこれも、全て『あれ』のせいだ。


今俺の右手に握られている『あれ』の。


朝の微睡みを犯す毒。美しい湖に落ちた血の一滴。それが『あれ』なのだ。


……奥歯を噛み締めながら『なぜ俺は、あれを拾い上げてしまったのだろうか』という後悔にかられる。


気が付かなければ良かった。仮に気が付いたとしても、拾い上げさえしなければよかったのだ。


知らないふりをして、何食わぬ顔で部屋の扉をくぐる。ただそれだけで、昨日と同じ今日を送る事ができたのに。


だが、もう全て後の祭りだ。どれだけ後悔しても、"もしも"を書き連ねても、現実は変わらない。『あれ』は依然として、俺の右手の中にあるのだから。


逸る鼓動を、震える足を、カチカチと音を立てる奥歯を必死で押さえつける。覚悟を決めるんだ。もう退けない所まで来ているんだ。


見て見ぬふりをしなかった過ちを認めろ。拾い上げてしまった罪を認めろ。……されど前に進め。


「ふぅ……」


深呼吸を1つ。もう、身体の震えは止まっていた。


「……よし」


覚悟を決める。右手で握りしめている『あれ』を眼前に持っていき、慎重に広げていく。


俺の穏やかな日常を壊した……いや、これから壊すであろうモノの姿を再確認する。


俺が握りしめていた『あれ』とは……


ーーー()()()()()()()()()

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