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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第六章 食事会
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気まぐれ

「わからない事ばかりじゃなくて、変な事もあるんだよ」


「……変なこと?」


私が尋ねると、アイラは神妙な顔で頷いた。


「『アビゲイル』の事が、伏せられてる」


「伏せられてるって……どういう事よ」


「んっとね……」


アイラは一度思案する。そして……


「そのままの意味。戒める者(グレイプニル)にまで、アビゲイルの情報が待ってないの」


「はぁ?冗談でしょ?」


アイラの神妙な表情に、私は嘲笑で返した。


だって彼女の言葉は、それほどまでに『あり得なかった』から。


「あり得ないよね。鼻で笑っちゃうくらいに。でも……本当のこと」


「……本当なの?」


アイラの横に控えているシャルドネに問いかけると、彼女はおずおずと頷いた。


「国王様……にも……騎士団長にも報告しました。モンスターパレードを引き起こしたのは『アビゲイル』です……と。さらに……は、第三勇者(ドライ)を脱獄させた可能性もあります……です……とも……」


「だったら尚更……」


そう、尚更ありえない。ちゃんと報告したのに、アビゲイルの存在そのものが隠されるなんて。


モンスターパレードの傷跡は、今もなお街のいたるところに残っている。王都全体を巻き込むような大事件だったのだ。


この国に喧嘩を売った謎の組織『アビゲイル』。規模やハッキリとした目的も分からない彼らは、魔女の次に危険な因子なはず。


「『楽園を目指し、魔女を狩る者たち』……ね。一体どこまで本気なのかしら」


ナナリーを操っていた女の言葉を思い出し、私は自嘲気味に呟いた。


敵の言葉を全て信じるほどお人好しじゃない。……が。未確認である魔女が本当に存在するのなら。そいつのせいで世界がおかしくなったのなら。


そいつを殺せば、この腐った世界は……っ!


「やっぱり変だよね、アビゲイルの事を隠しておくなんて。リープはどんな理由があるとおもう?」


「そうね……たとえば」


天井に向かって、人差し指をピンと立てる。


「1つ、騎士団の士気を保つ為とかね。私が会ったアビゲイルの赤い髪をした女は、5番目と6番目を一人で相手取って見せたわ」


この世界を救う為にアイラが異世界より召喚した6人の勇者。その力は絶対的で、騎士の中には心酔している者さえいる。


そんな者達に『今回の敵は勇者二人と戦って無事でした〜』なんて、お気楽な事が言えるだろうか。


強大すぎる相手。絶対に勝てないであろう敵を目の前にして。


立ち上がれる者が、拳を握れる者が一体どれほどいるのだろうか。


……私はそんな第六勇者(バカ)、生まれてこの方一人しか見たことがない。


「その理屈は分からなくもないけど……やっぱり変だよ」


「……そうね。私もそう思うわ」


アイラの言うとおり『変』だ。


いくら士気を保つ為、勇者の威厳を保つ為だとしても、一切の情報を開示しないのはおかしいではないか。


強大な相手だからこそ、調査は必要なはずだ。だがそれすらもしないとなると……。


「もう1つ、私が考えられる理由は……」


そう言いかけて……


「……いいえ。特に思い浮かば無いわね」


私は口を閉じた。


そんな私に、アイラが不思議そうな視線を向けてくる。それは彼女の隣に立っていたシャルドネも同じだ。


「ま、頭使うのはアンタたちに任せるわ。今の私の仕事は、勇者(ガキ)のおもりだから。そういう意味では今までと変わらないわね」


張り詰めた空気を嫌って、努めて明るい声を出す。すると、私の気持ちを察したのか、アイラの表情も和らいだ。


「あー酷いんだ。そんな事言って本当は私の事大好きなくせに〜!」


「は、冗談。んなワケないでしょ?」


「もう、リープさんったら照れちゃって……ってそうじゃなくてっ!私の事は良いんだよ、それよりサクラの事!」


サクラ……か。6人いる勇者の中で、彼女が名前で呼ぶのはたった一人だ。


「もう数日経つよね?サクラの事、そろそろ好きになって来た?」


「はぁー?それこそ冗談でしょ?あり得ないわよそんな事。アイルの胸がこれから成長するくらいあり得ない事だわ」


私は大仰に肩をすくめて見せる。


「良いところもあるとは思うし、悪人じゃ無いのも認めるわ。だけど…ねぇ?女の子に囲まれてデレデレしてるような男はダ……メ……?」


言葉を言いきってから、アイラの『なんとも言えない』表情に気が付く。


「……してるんだ、デレデレ。やっぱりみんなにデレデレしてるんだ。……仕方ないよね、サクラも男の子で、みんな可愛いんだし」


アイラは自分に言い聞かせるように呟く。納得する為に声を出す。……だが、全く意味を成していないように見えた。


あぁ。『なんとも言えない表情』などではない。明確な嫌悪だ。


失言だったかなと、一瞬そう思ったが私には関係ないやと思い直す。


……それに、なんか面白そうだし。第六勇者(ゼクス)が周りにどう思われようと関係ない。


「この前なんて、チビ助に『お兄ちゃん』なんて呼ばせて、楽しんでたらしいわよ。あーヤダヤダ、男なんてみんな一緒ね」


私は煽るように言葉を続けた。別にアイラが嫌いだからとか、怒らせたいからとかではない。友人同士ならではの、ちょっとしたイタズラ心。


……余談ではあるが。全く本件とは関係ないが。アイラの少しむくれた表情は可愛らしい。


しかし、彼女が次に作った表情は、私が思い描いたものでは無かった。


「ーーーそっか、サクラって『そういうの』が好きなんだ。だったら私も……」


どこか安堵した表情で自分の胸をペタペタと触りながら、アイラは呟く。アイルより少しだけ大きく、私よりも一回り小さな胸を。


「……姉妹で一緒は苦労するわよ」


「ん?何か言った?」


「いいえ、何でもないわ」


ヒラヒラと手を振り、部屋の出口へと向かって歩き出す。


「もう……お帰り………ですか……?」


「えぇ」


私は背後のシャルドネに短く返事をし、扉に手を掛けようとする。


そして。


「………」


ある事を思い出し、振り向いた。


「風邪薬って、もってる?」

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