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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第六章 食事会
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バカは風邪をひかない


「あー!いないと思ったらさっちんと一緒に寝てるぅ!……あー!うぉー!がぉー!うおりゃーーー!!!」


謎の奇声に叩き起こされ、重たい瞼をあげる。


「うっさいわね、何よ朝から。ふぁー……」


俺と同じように謎の奇声……ルミナの声によって目覚めたリープは、眠たそうに目を擦った。その肩には、昨日の毛布が掛けられている。


……日本のネコは早起きをして主人を起こすというが、彼女は違うようだ。


「酷い……。酷いわリープっ!僕を捨ててこんな男と寝るだなんてっ!」


ルミナはクネクネと動きながら、芝居がかった声を上げる。


その声がどこか遠くで聞こえる。それに、なんか頭がボーっとする。それに、それに……体が、熱い……?


「おはようございます」


「ん……おはよう」


ルミナに次いで、シノとアイルも部屋に入ってくる。シノの瞼が半分ほどしか空いていないのに対し、アイルからは寝起きという感じがしない。


「……リープ。サクラくんと一緒に寝たんですか?昨日。ここで。」


「なに怒ってるのよ。別にどーでも良いことでしょ?」


元同僚である故の距離感の近さというか、遠慮の無さをアイルとリープの間に感じる。


アイル特有の気遣いや、相手への思いやりを、リープと話している彼女からは感じられ無かった。


「えーそうですねそうですね。『どーでもいい』事です。それに、初めてじゃ無いですもんね。……あの日は同じ部屋どころか、同じ()()()でしたもんね」


ーーー『同じベッド』


アイルが発したその単語に、ルミナとシノがわかりやすく反応を示す。


「……ほほう?」


「……あ?」


そんな二人の様子にも気付かないで、リープは目を擦ったり伸びをしたりを繰り返す。


「ねーねーリープ!どーゆうこと?二人はそんな関係だったの?ルミナねーさんに教えてクレメンス」


「ほんとウルサイわねアンタは。もっと昔は……」


などと二人が言い合いしているのを意にも介さず、シノがこちらへと歩み寄ってくる。


彼女の体格、体重からはありえない事であるのだが、一歩踏み出すごとに、『ズン、ズン』という音が聞こえてくる。……様な気がした。


「サクラ、どういう事だ!………サクラ?」


シノが俺の顔を覗き込んで、固まる。きっとその理由は…。


「はぁ……はぁ……」


俺が、荒い呼吸を繰り返していたからだ。


「顔赤い……風邪?」


✦✦✦✦✦✦✦✦


「風邪のようですね。体も熱いです」


俺の額に、自らの額を当てていたアイルが呟いた。


そんな事をされては、さらに体温が上がってしまう。


体調が万全であれば、目の前にある美しい顔に照れてしまったり、いわゆる『女の子の匂い』にドキドキしていたのだろうが……今はそんな余裕はない。


「大丈夫なのか……?」


「んー、ただの風邪じゃないかな?なんかの魔法を使われた痕跡もないし」


隣に立っていたルミナに、不安そうな顔のシノが問いかける。


魔法の痕跡ってそんな大げさな……とは思うが。……先日あんな事件があったばかりなので一蹴する事はできないか。


「1日安静にしていればすぐ治るとは思いますが……それにしても突然ですね。なにか心当たりはありますか?」


「あー……」


アイルに問いかけられ、思案する。


心当たり……ある。それは、昨日の夜だ。昨日の夜、俺は毛布を使わずに寝てしまった。……というか、一つしかない毛布をリープにあげた。


夜ともなれば少し肌寒い。もしかしたらそれで風邪をひいてしまったのかも。


……というか、たった一晩で風邪だなんて、勇者が聞いて呆れる。


「無いかな、心当たりは特に……」


そう答えた俺を、リープが静かに見つめていた。そして、おもむろに立ち上がると。


「バカがカッコつけるからよ」


そう言って、俺の顔に昨日の毛布を投げつけた。


「ちょっと出かけてくるわ」


誰も返事も待たずに、リープが部屋を後にする。


「カッコつけるから……?どういう意味ですか?」


投げつけられた毛布を、キレイに掛け直してくれるアイル。


「さぁな……」


リープもこれくらい優しかったらなと、思わずため息がこぼれた。


「病人をいつまでもソファーに寝かせるのも良くないよね。よかったら僕のベッド使う?」


「いいよ別に。寝れればそれで……」


「ダメダメ。こっちが気にするんだから、ね?」


「そう……だな」


ルミナの提案を受け入れる。言い合いをして、これ以上頭を使いたくないと思ったのが理由の一端だ。


深刻……というわけでは無いが、やはり頭がボーっとする。早く寝てしまいたい。


そう思い、立ち上がろうとしたところで……。


「ダメだ。サクラは『びょーにん』なんだから、自分で動いちゃダメだ」


シノの鋭い視線と言葉に静止される。


「歩くくらい大丈夫だって。それに、うつしちゃうかもしれないから、運んで貰う訳にもいかないだろ?」


「大丈夫、ルミナならうつらない」


「……その心は?」


「バカだから」


シノはキメ顔でそう言った。


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