女は顔
「まさか、アンタと二人で行動する事になるとはね」
「はは、そうだな……」
地下牢へと続く階段を、リープと二人で歩く。降り始めてしばらくたつが、階段の先はまだ見えてこない。
光も届かぬ底の底。犯罪者を閉じ込めるには最適……か。
そこにはナナリーと、第三勇者がいる。もし顔を合わせてしまったとき、俺は平常心でいられるのだろうか?
「本当にこの先で何か起こってるの?だとしたら静かすぎないかしら」
「さぁな、俺もわからない」
静か過ぎる。確かに俺もそう感じていた。リアやイエスタ達……『アビゲイル』の新の目的地がこの先だと言うには、物音一つ聞こえやしない。
だが、地下牢に向かおうとしたところをリアに邪魔されたのもまた事実。
モンスターパレードが勇者を……第五勇者をおびき寄せる為の餌だったというならば、一番あやしいのはここだ。
……杞憂ならそれでいい。無駄足だったと後で笑おう。
「……城の中と外でさ、なんか雰囲気違うよな」
不安を紛らわせる為に、俺は話し始めた。
「外はあんな騒ぎなのにさ。城にいる……貴族?の人たちは優雅な立ち居振る舞いでさ。俺達が勝手に入ってきても何も言わないで。のほほーんっていうか、バカっぽいっていうか」
今は門番や、城内を見張る騎士は居ない。その全てが街に溢れた魔物の処理に追われている。
んな不用心な……と思わなくもないが、敵国やテロリストなどがいると言う話しも聞かないので、そんなものなのかもしれない。
許可も取らず城内に侵入した俺とリープに、貴族様たちは関心すらもたなかった。……俺の服が汚れているせいか、はたまたリープがメイド服を着ていたからか、汚物を見るような視線を注がれはしたが。
「下々の人間がどうなろうが構いやしないのよ。それこそ、死んだってどうでもいい。自分たちの生活が脅かされない限りは……ね」
「……そんなもんかね」
「そんなものよ」
リープは冷たく言い放った。そこには期待も失望もない。
人が『誰か』の死を悲しめない事は、痛みを感じることが出来ないのは、凄く……寂しいと思う。
「……井の中の蛙は幸せでした。外の世界で何が起ころうと関係なかったから」
「なによそれ」
「俺が好きなノベルゲーで言ってたやつ」
「『のべるげー』って、何よ。始めて聞いたわ」
「あぁ、なんか、まぁ……ざっくり言うと本だな。なんかそんな感じのやつ」
ニュアンスとしては間違って無いだろう。どちらも基本は『読む』事だ。
「なら最初から本って言いなさいよね」
棘のある物言い。始めて出会った時とは大違いだ。
あのときはニャンニャンいってて、それはもうヒロインの匂いがぷんぷんと……
「アンタってさ、バカよね」
「え、なんで急に罵られてんの?」
いくら棘があると言っても限度がある。そんなんじゃモテないぞ。
……女は顔っていうし大丈夫か。
「他人を助けるために命をかけたり。……殺されかけた相手と仲良くするなんてバカよ」
リープの声音から、その感情を読み取ることは…。
付き合いの短い俺では、不可能だった。




