無力
〜アイルside〜
暗闇の先に、誰かがいる。……あれは、私の大切な人たちだ。
「………まって」
囁き、彼らの背中を追いかける。だけど、追いつけない。
「なんで……?どうして……?」
それどころか、だんだんと距離が離れていく。
ーーー駄目だ。駄目なんだ。あの時と同じだ。
私ではあの人達に追いつけない。私の必殺の加護ではあの人たちと並べない。
……私では、誰も救うことが出来ない。輝かしい太陽になんてなれない。
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「ここ………は?」
「ようやく目が覚めましたの?……ここは、騎士団の詰所、今は……避難所ですわね」
目が覚めると目の前にいた女性……メルクリアさんは辺りを見回した。
私も上体を起こし、彼女の真似をしようとするが……
「……痛っ……」
腹部に激しい痛みを覚え、それは叶わなかった。
その痛みにより、思い出す。私がなぜ気絶していたのか、私は誰と戦っていたのか。
……結局イエスタさんは、気を失っている私を殺さなかったのだろうか。
「安静にしていることをオススメしますわ。アイルさんまで治療の手が回っておりませんの」
首だけを動かして辺りを確認すると、私と同じように床に寝せられている人が大勢いた。
「全部、魔物に襲われた人たち……ですか?」
「……そう……ですわ」
メルクリアさんの顔が僅かに陰る。
……当然だ。こんな場所で笑顔を振りまける人なんているわけがない。
宿舎の中では今、ドタバタとした足跡や、苦痛なうめき声が絶えない。
……この場いるのは、軽い傷を負った者、腕の無い者………全身に毛布がかけられている者と、様々だ。
そんな彼らに治癒魔法をかけ、あるいはメモを取り……騎士団同士で怒号を掛け合っている。
「外はどうなってるんですか?」
「……酷い有様ですわ」
「…………」
この国で一番人口の多い王都に魔物が放たれたのだ。その被害は計り知れない。
「ですが、収まりつつあるのもまた事実ですわ」
「すでに結界が?」
「えぇ、新しい術者がすでに結界を張りましたわ」
どうやら私は、それなりに長い時間、気を失ってしまっていたらしい。
結界が張り直されたと言うことは、入り込んだ魔物を掃討すれば事件解決だ。
「それにしても驚きましたわ、町中にあなたが倒れているんですもの」
メルクリアさんは肩をすくめてみせる。
「メルクリアさんが私をここまで運んでくれたんですか?」
「えぇ、そうですわ。……貴方程の実力がありながら負けるなんて……そんなに強い魔物がおりましたの?」
メルクリアさんの問いかけに、思わず黙ってしまった。
私を倒した相手の。イエスタさんの、悲しそうな顔を思い出してしまったから。
……私では、駄目なんだ。世界を救うどころか、大切な人の隣に並ぶどころか、誰かに手を伸ばす事さえ出来はしない。
間違いを教えてあげる事も、一緒に理不尽と戦ってあげることも。
「……私は、何と戦えばいいんでしょうか。何と戦えるんでしょうか」
口をついて出たのは、そんな弱音だった。
「教えてください、メルクリアさん……。悪者は
、一体誰なんですか?」
胸の痛みを噛み潰し、上体を起こす。
「人を呪ってしまった世界ですか?不幸を誰かに押し付けてしまう人ですか?それを受け入れ、諦め、仕返ししようとする誰かですか?それとも……」
もう一度、胸に鋭い痛みがはしる。物理的ではない、痛みが。
「それとも悪者は……。何もできくて、弱くて、世間知らずな私……なんでしょうか……」
サクラくんはお姉様を救ってくれた。だけど、私は……。
「メルクリアさん、私。この事件の首謀者に会いました」
告げると、メルクリアさんの両目が見開いた。




