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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第一章 小さな本物
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初動

暗闇から出てきたのは、日本人だった。


見間違えるわけがない。自分の国の人間の顔だ。一目見ればわかる。


しかも……この世界にいる日本人と言うことは…俺と同じく、アイラの力によって召喚されたのだろう。


しかし…同じなのはこの世界に来た経緯だけ。


こいつは俺みたいな平凡な人間とは違う、()()()()()の筈だ。


「君も日本の人だよね?もしかして、新しい勇者?」


当然のように向こうも気がついた。


「もう一度聞くけど…こんなところで何をしているの?」


……何というか、こいつ嫌いだ。


どこからか漂うオーラというか、なんというか。いい子ちゃんの匂いがする。


ここで何をしているのか。この質問に対する答えは慎重にならなければいけない。文字通り命が賭かっている。


嘘をつくときのポイント。前に何処かで聞いたことがある。


曰く、嘘の中に少しだけ真実を混ぜてやればいい。


「怪しい人影が外に出ていくのを見たんだ。だから…そいつを追って、今から城を出ようとしていた。城の兵士が眠らされているのは見たか?」


城の外へと向かっている。兵士が眠らされている。これはホント。


怪しい人影をみた。これだけがウソ。


嘘の中にホントを混ぜるどころか、ホントの中に嘘を混ぜてやった。これでどうだ


「あっ、因みに言い忘れてた。僕には……嘘を見破る()()が宿っている。」


「ち……っ!」


思わず舌打ちをして、身構える。


嘘を見破る加護。それをもし本当は持っていなかったとしても、今の反応で先の発言が嘘だとバレてしまっただろう。


……失敗したかもしれない。


どうにかして馬車まで向かわ無ければいけない。馬車に乗ってさえしまえば追いかけては来ないだろう。


しかし…城の出口は相手の向こう側………


できるのか?平凡だった俺に、非凡なるあいつをやり過ごす事が


できるのか?


……じゃない。やるんだ。


アイラが救ってくれたこの命。何をしてでも生き残る。


捕まれば確実な死。それだけは駄目なんだ。


なんでもいい。砂を投げて目を使えなくするとか、油断させて隙をつくとか。


ずるくても、卑怯でも。


誇れなくても、後ろめたさが残っても。


──生きるんだ──


「ごめんね、みんなが起きるまで、大人しくしててもらうよ。」


「………ッ!」


その時。驚くべき事が起きた。


()()()()()()()()()()()


先程まで目の前にいた青年が、今は後ろにいる。


たしかに、打開策を考えていたが、目を放した覚えはない。


身体強化を使い、超スピードで後ろに回った?


いくら何でも、見られている状態から気が付かれずにそんなことが出来るのか?


様々な疑問が頭に浮かぶ。


「くそっ!」


って、そんなこと考えている場合じゃない。


急いで振り向き、距離を取ろうとする。


が、遅い。


左腕をガッチリと掴まれてしまった。


振りほどこうとするが、外れない。なんつー力だ。


って、あれ?こいつ力入れてる?


青年の腕と顔を見てみる。


その表情は……特に力を入れている様子はない。


服の上からであるし、周りも暗いため、自信はないが、その腕も、力を入れているようには見えない。


だが……びくともしない。


………これが、俺との差かよ………


「とりあえず、王のもとまで……………ん?」


そこで青年が何かに気がつく。


その目線の先には………アイラに貰ったペンダントがあった。


「勇者になれなかった者が……アイルとリープを退けて一人でここまで来るとは考えにくい………か」


なんだ、俺が勇者になれなかった出来損ないだって知っていたのか。


なら、最初の問答に意味なんてないではないか。


それにしても、リープとアイルの評価は高めらしい。ちょっと嬉しい。


そんなことを考えていると……青年が俺の腕をはなした。


「いいよ、今回は見逃してあげる」


青年の顔は……どこか嬉しそうだった。


「どういうつもりだ。」


この青年に、俺を見逃すメリットはないはず。


なぜそうするのか…わけがわからなかった。


「見てみたくなったんだ。君を逃した少女と…世界から無価値の烙印を押された君の……物語をね。」


「………そりゃどうも。」


やっぱり俺は……こいつが嫌いだ。理由なんか特にない。しかしてムカつく。


「さあ、行くなら早くしたほうがいい。」


そう言って、青年は微笑んでくる。


軽く会釈をして、その場から走り出そうとすると……


「そうだ、自己紹介もまだだったね。僕は四番目の勇者……フィーア。君は?」


こいつは俺のことを…『勇者になれなかった者』と呼んだ。


つまり…知っているんだ。この世界と…アイラの罪を。


それなのに、自分の名前を第四勇者(フィーア)と言った。いけ好かない。


だから俺は答える。


「俺は日本人………双葉桜だ」


そう言って、俺は再び走り出した。


✦✦✦✦✦✦✦

「アイラ……本当にこれで良かったんですか?」


後ろから声をかけられる。声をかけてきたのは……リープ・リッヒ。先程、私が眠らせた少女だ。


「リープ……。二人っきりだから、敬語はいらないよ。」


「それじゃあ遠慮無く。」


リープが砕けた口調になる。こっちのほうが仲のいい感じがして好きだ。


「これで良かったのかって………アイルを行かせたこと?」


リープはコクリと頷く。


「これで……いいんだよ。アイルが生活するにしては、この場所は……()()()()()()


優しいアイルにここでの生活は……とても苦しいだろう。


「罪……か。実際に殺したのは私なんだし、あの子が罪を感じる必要なんてないんだけどね……ってなんでニヤニヤしてるの。」


「あ…ごめんね。」


そういえばアイルにもなんで笑ってるの〜って言われたっけ。


「リープは優しいなぁ〜って思ってさ。」


あれ、このセリフも割とデジャヴ。


「はぁ?優しい?私が?」


リープは、何言ってんだこいつ。と言うような顔をしている。


「私……知ってるよ?さっき、実際に殺したのは私って言ってたけど、その役目……本当はアイルに言いつけられてたよね?」


「……誰から聞いたの」


「私、こう見えても偉いんだよ?いろいろなこと知ってるんだから。………それで、リープが変わってあげたんでしょ?あの子や私が恨まれ無いように……最後の瞬間は、わざと嫌われるような事を言ってたんでしょ?」


「違う。それは私を買いかぶりすぎ。変わったのだってあの子に人殺しなんて出来なさそうだったから、それだけ。」


ふふーん、素直じゃないなぁ、この子は。


「それこそ、あの子に殺せるのは…魔物か、アンタに好意のある男くらいのもんでしょ。」


「え?最後のどういうこと?」


「アイルは相当のシスコンだよ、アンタに彼氏なんかできた日には……血祭りに上げるでしょうね。……ってあれ、もしかしてゼクスのこと好きになっちゃったりした?」


「なっ!?なんで今サクラが出るの!?」


急にサクラの名前を出され、びっくりしてしまう。確かに…最後に大好きだと言われたりもしたが…


それと、私がサクラを好きかどうかはまったく関係ない。


それに、大好きと言ったサクラの真意も分からないし………


というか、本当に取り乱してしまった。思わずサクラの名前を知らないリープの前で、その名前を言ってしまうほどだ。


リープも、ゼクス=サクラだと言う事を理解したのか、特に突っ込んでくることは無かった。


「その反応……まさか本当に……?」


「ちがっ……違うから!!」


少し詰まってしまった。なにやってんだろ私。


「わかった、わかったから。」


リープは一応の納得をしてくれたようだが…


先程の私の反応……まるで本当に恋しているみたいじゃないか


「それよりも……」


気を取り直して、別の話をしよう。


実は……リープとしなければいけない話があったのだ。


「私……魔法が使えるんだよね。」


「は?それがどうしたの?」


「最初の勇者を召喚した時に、魔力の減り具合と、残りの魔力を考えて、私が生かせる勇者は6人が限界だと思った。」


異世界にほんの人間はここでは生きていくことは出来ない。しかし、私の魔力をつかい、この世界に適応させることで、生きていけるようになる。


「サクラでちょうど6人目だよね?本当なら、私の魔力は無くなっているはず……どうして魔法を使えるの?」


リープは黙って顎に手を当てた。私が言いたいことを理解したようだ。


「リープなら………ううん、リープだから分かるよね?最近、私達の()()()()()()()が何かの影響を受けて、力が上がってる。」


「それは……私も実感してた。」


「何かが…起こってるんだよ。それも多分…私達の近くで。」

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