私が知ってる女の子
〜アイルside〜
「ベー……ゼ?」
「そう、ベーゼ。アイルちゃんたち人間が忌み嫌う悪魔の子。どう?思ったよりハンサムだったでしょー?いやー、困っちゃうな」
ヘラヘラした表情。ふざけた口調とは裏腹に、イエスタさんから感じる魔力は……『絶大』の一言だった。
サクラくんのように魔力が視えるわけじゃない。
お姉様やリープの様に鋭い感覚を持っているわけじゃない。
……それでも、直ぐに分かった。この人は、私よりも強いと。
「……『人間が忌み嫌う悪魔の子』……ですか。嫌な言い方をしますね。ベーゼの方々だって人間のはずです」
「もー、アイルちゃんは可愛い顔して連れないこというねぇ……。でもよ?でもでも、ベーゼと人間が『違う生き物』って決めたのは、人間っしょ?」
悪魔の子は忌むべき存在だと、悪魔の子は災厄を招く存在だと、いろんな大人に言い聞かされた。
ベーゼとしての生を受けるかは先天的なもの……病気と何ら変わらないというのに。
ベーゼの両親から、そうじゃない子供が生まれる事もあれば。
そうじゃない両親から、ベーゼが生まれる可能性だってあるし、姉妹の片方だけというパターンもある。
それなのに、それなのに。
愛しの我が子のはずであっても、ベーゼと分かった瞬間……ベーゼ専門の孤児院へと送られる。
それならばまだいい方だ。
虐待や、人身売買なんて、遠い国の話ではない。
血の繋がった子供だというのに。他の人とは違う魔法が使えるだけで。他の人より魔力が多いだけで。
他の人よりも……瞳が緋いだけで。
「ベーゼだって人間です。それをベーゼである貴方が否定するんですか?」
私があったベーゼは普通の『人間』だった。
痛いのが嫌で、遊ぶことが好きで。
ただ…ありふれた幸せを望んでいた。
家族みんなで仲良く食卓を囲みたいと……そう願っていた。
「俺っちが認める認めないなんて関係ないんですよーっと。だって……そーゆうもんでしょ?魔物と人が、動物と人が違うのと同じようにー、ベーゼと人も違うわけなんですよー、これ」
それを認めてしまうのは……とても悲しい事だと感じた。
どちらも人なのに。誰かを愛することが出来ると言うのに。
だからこそーーー私はムカついていた。
「だから……そうやってヘラヘラ笑っているんですか。……笑っていられるんですか」
相手との実力差を忘れて……固く、固く拳を握るほどに。
「そう決められてるからって全部諦めて、寄り添うこともしないで……っ!だからそうやってヘラヘラ笑えるんですか!?」
「……アイルちゃんに、俺っち達の何が分かるって言うのよ」
「なにもわかりませんよ。貴方が受けてきた苦しみも悲しみも……そして嬉しかった記憶も、それは貴方だけのものですから」
「なら……」
「ですがーーー理不尽には怒るのが『ヒト』です。ヘラヘラ笑って受け入れていいものじゃありません………!」
「それで、『ヒト』であるアイルちゃんは、一体どんな理不尽に怒っちゃってるの?」
「わかりませんか?王都に魔物を放ち、理不尽に誰かの命を奪ったことです」
許されることではない。どんな目的があろうと、人の命を奪うだなんて。
それはお姉様と、私自身が一番良く知っている。
「ベーゼと人間は違うと貴方が言うのなら。違うから、誰かの死を悲しめないと言うのなら……」
「言うのなら?俺っちをどうしようって?」
「ーーー私は貴方を倒します。サクラくんの元へ向かう為、邪魔する貴方を倒すのでは無く……貴方を倒すために貴方を倒します」
左足を軽く引き、構える。倒すべき相手だけを見つめて。
わかっている。イエスタさんが私よりも強いって事くらい。
だけど負けられない。負けるわけにはいかない。
「貴方を倒して。そして……『ヒト』として、誰かに迷惑をかけたことを謝って貰いますから………っ!」




