表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第一章 小さな本物
13/229

ただ一人。君の為の物語。

「姉妹喧嘩と行きましょうか!」


アイラが、妹に向かって叫ぶ。


その手の中には確かな熱量を持った炎の球体。


ってあれ?炎がどんどん大きくなっていくよ?


隣に立っているだけで熱い。とてつもない熱量だ。


それをアイルに向けて投げつけたりするの?やばくない?怪我じゃすまないよ?


怖くなってアイラの方を見る。


その表情は……いたずらを思いついた子供のような、無邪気な笑顔だった。


………本当に、いろいろな顔を見せてくれる。


「いっくよー!アイル!!!」


アイラが手を後ろに回す。本当に投げつけるつもりだ。


「アイル!逃げ………え?」


叫ぼうとしたが、驚きの声が漏れてしまった。


アイルが、ただ突っ立っているだけだったからだ。


俺は別に、武術の心得があったりするわけではない。


だが…アイルの姿勢は明らかに、これから攻撃される人間のものではなかった。


普通なら、身構えたりするものじゃないのか?


だがアイルはいつも通り、手を前で組んで、ただ立っているだけだった。


そして、その表情も。いつものように無表情。


避けたり、受け止めたりする意思が感じられない。


この程度の攻撃では、怪我一つしないということだろうか。


「せい………ヤッ!」


アイラが身体を捻らせ、思いっきり魔法を投げつける。


炎の塊は……アイルに向かって真っ直ぐに……


いや、違う。


アイラはアイルを狙ってなんかいない。


アイラが狙ったのは……


屋敷の廊下と外を隔てる壁だ。


─アイルは、この姉が、自分を攻撃するわけがないと分かっていたのだ。


なんと美しい姉妹愛だろうか。


「って…っ!痛っ!」


炎の塊が壁に直撃する。


壁の破片が飛び散る。痛い、痛いです。


そして…破片が飛び散ったあとには、ちょうど人ひとりが通れるくらいの穴が空いていた。


「サクラ!行って!!!」 


アイラが叫ぶ。


「流石に…っ!」


アイルも叫び、そこでようやく、片足を引き俺を捉える準備に入る。


「させないよ!」


すかさずアイラが動いた。俺とアイルの間に入り、アイルを止める準備をする。


「行ってったら!早く!」


再度のアイラの声を聞いて……俺は駆け出した。


逃げるんじゃない。旅に出るんだ。


アイラに最後の別れを告げることも、顔を見る事もしなかった。


その声を聞けば。顔を見れば。


きっと……また別れたくないと思ってしまうから


俺は俯いたまま走った。


「サクラ!」


後ろから、アイラの声が聞こえる。


最後の言葉には似つかわしくない。場違いなほど明るい声。


あぁきっと今。アイラは…


「良い旅を!!!」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


振り向き、返事をしたかった。


だがそれは出来ない。


振り返れば、返事をすれば…きっとまた


泣いてしまうから。


そんなのはだめだ。彼女は笑顔で見送ってくれたのだから。


顔を上げ、前を向けよ。


男なんだから、泣いちゃ駄目だろ。


だから……俺は………


振り返る代わりに。


返事をする代わりに。


その右手を、高く高く。天へと突き上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ