表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第五章 モンスターパレード
118/229

ねーさん

〜ルミナside〜


王都。偉大なる国王が住まうこの街にも、『影』は存在する。

大通りを外れ、細い路地を抜けると……街の喧騒は殆ど聞こえない。


貧困街……とまでは行かないが、どこか古めかしい建物。道行く人々も、険しい表情が多い。


そんな王都の影の中を、僕は歩いていた。


『とある人物』に会うために。


……こうして歩いていると、つくづく実感させられる。()()にはこっちのほうが似合っていると。


華やかな街並みは眩し過ぎるし、賑やかさはうるさ過ぎる。


「……ふぅ」


約束をしている酒場の前で、小さく呼吸をした。


扉に手をかけると、大した力を必要とせずにそれは開いた。


薄暗い店内を見回す。昼間と言う事もあり、テーブルの殆どが空いている。


……僅かに埋まっているテーブルは、『いわゆる』と言った感じの人達のすがた。体にお絵かきをするのが趣味の連中だ。


そんな中から、待ち合わせをしている人物を探し、店内をあるく。


……いた。カウンターや入り口からは死角になっている場所に、女の子が一人。


燃えるような赤色の髪をした、酒場には似つかわしくない少女。

彼女も、奇異の視線を向けられるのが嫌でこのテーブルを選んだのだろう。


話しかけることも無く、許可を取ることも無く、僕は少女の正面に腰掛けた。


「……あぁ」


彼女は僕の存在に気が付き、小さく声を漏らした。


「ルミナねーさんから呼び出しなんてめずらしーし。ねーさん、なんかあったの?」


抑揚の乏しく、めんどくさそうな声。その視線もどこか気怠げだ。


だが、別段彼女の機嫌が悪いわけではない。これが彼女のーーーリア・シャムロックのデフォルトなのだ。


「ご注文は決まってます?」


リアの問いかけに答える前に店員が現れる。


「あー、じゃあなんか適当にお酒。キモチ良くなれるやつ」


リアの注文を聞いた店員が、微妙な表情を作る。


「お客様……あの……」


リアの年齢は、見た感じ17か18くらい。幼い容姿と言うわけでは無いが、成人しているようにも見えない。


「あー、ジュースでいい。なんか適当に」


店員の心境を察したのか、リアは注文を改める。面倒くさがりな彼女らしい。


「かしこまりました。そちらは?」


「彼女と同じでいいです」


僕の注文を取ると、店員はすぐさま奥へと引っ込んで行く。


しばらくすると、カラフルな色の飲み物が運ばれてくる。口に入れると、とてもとても甘かった。


僕と同じように、飲み物を口に運んだリアは苦々しい表情を作る。


「甘じゃん、激甘じゃん。なにこれヤバたんかよ。まあ、べつにどーでもイイんだけどさ。……それで、なんでねーさんはウチを呼び出したりしたの。珍しいじゃん」


「どうしてサク……第六勇者(ゼクス)を襲ったりしたの?」


無駄話なんて必要ない。聞きたい事だけを聞く。


「知らねーし。ウチがやったみたいな言い方辞めてくんない?てか、ねーさん分かってるでしょ?誰がやったのか」


そう、彼女が言うとおりだ。僕には、誰がサクラを狙ったのかわかる。


……他人を操る力。そんな稀有な力を持っている人物に心当たりがあるのだ。


「気にくわなかったんじゃん?いつもニコニコしてる召喚士様が、さ。ヤバたんだとは思うけど、ウチもあいつ嫌いだし、ねーさんだってそうでしょ?」


「僕は別に……。でも、だからってどうして第六勇者(ゼクス)を……」


「ムカつくやつを痛めつけるには、そいつの大切なモノを痛めつける。は、あいつらしいじゃん。マジうけるし」


「そんな理由でサクラをっ……!」


リアにあたってもしょうが無いことはわかっている。だけど、怒鳴らずにはいられなかった。


「なに熱くなってんの?もしかして、6番目の勇者に恋でもしちゃたワケ?」


そんな僕の態度を見ても、リアは至極落着いた様子だった。


「好きっ!?……別に僕はそんなんじゃ……」


「だよねー、知ってる。ウチらは、他人にかまってやるほど人間出来てないし」


「………」


「話し済んだなら、帰ってもいい?」


「リアは……。ううん、なんでもない」


口ごもった僕を見て、リアはため息を一つ零す。


「……『モンスターパレード』」


リアは席を立ち上がり、聞き覚えのない単語を発した。


王都(ココ)で大きく動くつもりなんだとさ。ウチは細かく聞かされてないケド。ねーさんにもそのうち話しはいくから」


「モンスター…パレード?」


反芻するが、リアはそれ以上教えてくれなかった。


「あとさ。話しやすいからってホイホイ呼び出すのヤメてくんない?ウチだってひまたんじゃないからさ。……ま、ヤじゃないんだけど」


「うん、わかった。ごめんね」


僕の謝罪を聞くと、リアはバツが悪そうに舌打ちをし、そのままお店を出ていってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ