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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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ZYPRESSEN その2

「力を貸してくれよ……アイルッ!」


アイルから貰ったナイフを、力強く握りしめ、視界の先にいる第四勇者()を睨みつける。


「ーーーッ!!!」


そして俺は、唯一持っている武器を第四勇者(フィーア)目掛けて思いっきり投げつけた。


まるであの時と……第三勇者(ドライ)の時と同じように。


第四勇者(フィーア)があんなクズ野郎と同じ手に引っかかるとは思えない。だから最初にこの手を使わなかった。


だけどやはり、正攻法では何も出来ない。


どんなに細い糸でも、千切れそうな糸でも……手繰り寄せ、繋ぎ合わせるしか無い。


いくら勇者と言えど、元は俺と同じ()()()()()()。今はその事にかけるしか無い。


俺の手を離れたナイフは第四勇者(フィーア)の顔あたりを目掛け、回転しながら一直線に進んでいく。


そして第四勇者(フィーア)がナイフに気を取られているスキに、俺自身も距離を詰める。


……先程ナイフでダメージ与えることは出来なかった。だが、いざ飛んでくるとなるとどうだ?


例えばスポーツなんかをしている時。目の前にボールが飛んできたとしたら、咄嗟に目を閉じてしまうだろう。……人間とはそんなものだ。だからきっと、こいつだって。


研ぎ澄まされた感覚によって世界がスローモーションになった。その世界の中を、真っ直ぐにナイフが進んでいく。


ナイフと第四勇者(フィーア)の距離は1メートルをきっている。


だがやつは……全くビビらない。目を閉じたりしないのだ。


いや、それどころか……


瞬き一つしないまま、飛んでくるナイフを軽々と掴みやがった。


「ちっ……」


予想外の反応に、思わず舌打ちをしてしまう。


ビビるだろ、普通。………くそ、化物が!


……いや、落ち着け。第四勇者(フィーア)が予想外の行動を取ったからといって、勢いに乗った俺の体は、急に止まることは出来ない。……このまま行くしかない!


ナイフを受け止めたと言っても、そっちに意識を集中させたはず。ならば、やつの魔力の流れに()が、身体強化の薄い部分があるはずだ!


俺は右拳を握りしめ、"魔顕"の瞳を持って、肉薄している第四勇者(フィーア)を視る。


そして、探す。魔力の薄い部分を。弱点を。ダメージを与えられる場所を。


探す。探す。探す探す探す。


だが……


そんな場所は『無かった』


「な……んで……?」


握りしめた拳が固まる。指の一つも動きやしないまま、悲痛な言葉が喉をついて出てくる。


魔力の薄い部分?弱点?ダメージを与えられる場所?ーーーそんなもの、第四勇者(ばけもの)には存在しない。


最初から分かっていたはずだ。俺が人より劣っていることも、こいつが人より勝っている事も。だけど、いざ眼前に突きつけられると……。


「どうした?なんの為に拳を握ったんだい?」


第四勇者(フィーア)はナイフを掴んでいない左手の拳を握る。


その所作から、言葉から、恐怖や焦りを感じることは出来なかった。


ナイフを……刃物を投げつけられたんだぞ…?たとえそれがダメージになら無いと分かっていても、それ自体が凶器である事は変わらない。俺達の世界にだって存在する、わかりやすい"死の象徴"だ。なのにこいつは……


「そろそろ、反撃と行こうか」


第四勇者(フィーア)は短く息を吸うと、握った拳を俺の腹に突き立てた。


その衝撃に耐えられず…俺は遥か後方へと吹き飛ばされてしまう。


"魔顕の瞳"で視る事のできた魔力の『ゆらぎ』により…第四勇者(フィーア)が『どの部位』で『どこを攻撃してくるか』が分かっていた。だからこそ、ヒットの瞬間に出来うる限りの魔力を腹部に集める事ができた。……その反応さえも遅れていたらこんなモノではすんでいない。きっと俺の腹部には風穴が空いていただろう。


「ぐ……っ、うぼっ…………」


口から液体が流れ出る。血なのか、唾液なのか、胃液なのか。俺にはそれすらも分からない。


ただ一つ分かるのは、俺はもう……立ち上がれないのだろうと言う事だけだ。

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