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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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流されて流されて

「前売り券……買ってくれたようだね」


闘技場の扉をあけると、やけに嬉しそうな顔の第四勇者(フィーア)が出迎えてくれた。


あまりにいつも通りの表情に、これから決闘を行うのだという事実が霞んでしまう。


「決闘の相手が出迎えますかね、普通……」


「サクラも見知った顔のほうが緊張せずに済むだろう?」


戯けて笑ったあと、俺の顔をまじまじと見つめる。


「桜の美しさは一瞬だ。打ち上げられた花火のように、咲き誇った花はその後に枯れてしまう。……だけどまた、キレイに咲けたようだね」


き……


キザってぇ……なんで真顔でこんな事が言えるのか。これも勇者に必要な技術だとでも言うのか。


「……めんどくせぇ会話は無しだ。どこに向かえばいい?」


「随分と落ち着いているんだね。怖くは無いのかい?」


「……怖いよ。あぁ、怖いさ。だけど、背中を押されちまったからな」


ルミナのやつ、思いっきり叩きやがって。絶対赤くなってる。


「君もまた、そうなのかもしれないね。………場所は彼女が案内してくれるよ」


第四勇者(フィーア)が目配せをした先には、一人の女性が立っていた。


その姿を見て、俺は『ギョ』っとする。


「お前……日本人?」


そこにいた女性は、明らかに日本人だった。


染めたと思われる人工的な金髪に、少々改造された学生服(スカートが短い)、そして腕にはアクセサリーがついている。……所謂ギャルだ。


第四勇者(フィーア)パイセ〜ン。この人が例の第六勇者(ゼクス)ッスか〜?」


「あぁ、そうだよ。……ちなみに君よりも年上だ」


「なっ!?ほんとッスか!?」


日本人の少女は、第四勇者(フィーア)の言葉に分かりやすく動揺し、落胆する。


「やっと『先輩』って呼ばれると思ってたのに〜……」


彼女の姿をもう一度観察する。


……日本人である事は間違いない。同じ国の人間なら、顔を見ただけで分かる。


そして、この異世界に存在する日本人と言うことは、アイラが召喚した勇者であると言うことだ。


つまりは、王国騎士団ーーー戒める者(グレイプニル)の隊長だ。


だがしかし、ルミナと同様騎士団の制服を着ていない。それどころか、武器さえも見当たら無かった。


「なぁ、この子は?」


問いかけると、第四勇者(フィーア)が答える前に、日本人の少女が背筋を伸ばす。


そして、『ビシィ』っと敬礼のようなポーズを取る。


「始めまして!私の名前は花弁(はなびら)(すずな)ッス!この世界では第五勇者(フュンフ)とも呼ばれておりますです!」


うっわ〜、キャラ濃ゆい……


「と言うことで、第六勇者(ゼクス)パイセン急ぐッス!もうみんな集まってるですます!」


そう言うと(すずな)は、俺の手を引き、どこかへ引っ張っていこうとする。


「みんなって誰、集まってるって何!?ちょっと説明足りなくないか!?」


菘は俺の言葉を無視し、ズカズカと進んでいく。


女性とは思えない力だ。


「ちょ、第四勇者(フィーア)!」


呼びかけるが、彼はニコニコと手を振るだけなのであった。


✦✦✦✦✦


「ここは……控室か?」


控室。俺が菘につれて来られたのはここだった。


あたりを見回す。簡易的なベッドが一つとそれから……


防具や武器がずらりと並んでいる。


「この扉をでて真っ直ぐ進むと、なんか……アソコに出るッス!」


菘は、俺達が入ってきたのとは逆の扉を指差した。


「アソコ??」


あまりに不明瞭な説明。俺の頭の中には、いくつもの『はてなマーク』が浮かんだ。


「なんて言うんスかね?こう……実際に闘う場所って言うか……」


そう言いながら、空中に円を書き始める。


「周りが観客席に囲まれてて……こう、砂を敷き詰めたようなぁ……」


「あぁ……」


その説明で理解する。


ゲームや漫画でよく見る、闘技場の内部のような場所だ。地面を掘ったような感じで、段々に観客席が囲んでて……なるほど。口で説明しようとすると確かに難しい。


「もう第四勇者(フィーア)パイセンは待ってると思うんスけど……準備とかは特にいらないスタイルの人ッスか?」


「準備ねぇ……」


部屋に並べられている防具や武器を見てみる。


もちろん、俺に武器の心得なんてない。重たいだけだ。そしてそれは防具も同じ。付け焼き刃で着飾るだけ邪魔になるだろう。ちんけな武装をしたところで、アイツに通用するわけないし。


………それに、俺の目的は、ここに来た時点で完遂されているようなもの。


「こいつで十分かな」


俺は、アイルに貰ったナイフをヒラヒラと振った。


第六勇者(ゼクス)パイセンには……」


彼女が何か言いかけたところで、俺はその言葉を制した。


「あーっと、なんだ?その第六勇者(ゼクス)って呼ぶの辞めてくれないか?俺の本名は双葉(ふたば)(さくら)っていうんだ」


俺は頭をガシガシとかいた。


始めはカッコイイとさえ思っていた勇者としての名前も、今となっては……


「分かりましたですます!サクパイッスね!」


「うん、まあ……それでいいや」


色々と言いたいことはあるが、取り敢えずはそこで落ち着かせよう。第六勇者(ゼクス)パイセンよりはマシだ。


「それで、何か言いかけてたみたいだけど……」


俺が問いかける。すると『あ〜』っと、菘は手を叩いた。


「サクパイは何か()()を持ってるんス?私の"奇跡の加護"みたいなすんげーヤツ!!」


目のキラキラさせながら詰め寄ってくる。


加護。それは、この世界における特殊能力の名前だ。


先天的に、完全にランダムに天から与えられる能力。俺が知っているものだと……。


違う世界の住民をこの世界に呼び寄せる"召喚の加護"


魔物を意のままに操る"調教の加護"


触れた相手を必ず殺す"必殺の加護"


それと確か、第四勇者(フィーア)が初対面の時に、嘘がわかる加護を持っていると言っていたっけな……。


だが正直それこそが嘘なのだろう。あいつの性格を考えても、あの状況を考えても、本当にそんな加護を持っているのなら、あの場でわざわざ俺にバラす必要がない。


「俺はなんの加護も持ってねーよ」


と言うか先程、菘が言った"奇跡の加護"と言うのが気になる。ちょー強そうじゃん


「え!?何も持ってないんスか!?それで勇者って、大丈夫なんス!?」


「大丈夫じゃないからこうなっているわけで……」


「あー、完全に理解したッス……」


そうだよなぁ。勇者ならすごい加護を持ってないと駄目だよなぁ。


あぁ、第四勇者(フィーア)も持ってるよなぁ。


「って、そろそろ行かないと、パイセン怒るッスよ!?」


「あ、そう言えばそうだな。けど最後に、1つだけいいか?」


「なんスか?」


「なんで菘が、俺の案内役なんだ?こんなの、わざわざ勇者がする事じゃないだろ?」


「それはッスね〜……会って見たかったんスよ」


「会いたかった?俺に?」


俺が問うと、菘は首を縦にふる。


「だって、同じ国の人には会いたいじゃないッスか。………異世界(にほん)のこと、少しくらい思い出したいじゃないッスか」


そこで菘は、初めて見せる表情をした。


「菘はさ、この国がいままで何をやってきたか知ってるか?」


「それは………はい」


「じゃあなんで、勇者なんてやってる?」


初対面の相手に対して、少々踏み込みすぎただろうか。


菘は一瞬黙ってしまう。そして、意を決したように。


「"空気"ってあるんスよ」


ポツリポツリと、言葉を紡ぎ始める。


こいつだって俺と同じだ。いや、俺よりも年下の女の子だ。


それまでの人生を奪われ、急に勇者にされて。恐怖や不安は計り知れない。


「この世界にも、元の世界にも。"空気"は右から左へ〜左から右へ〜って、流れて行くッス。………そしてそれには、誰も逆らう事ができない」


菘だって、きっと辛い道を歩んできたんだ。……菘だけじゃない。現存するすべての勇者が、その運命を強引に捻じ曲げられてしまった。あの第三勇者(ドライ)だって……。


「皆が美味しいって言うものは美味しいって言わなくちゃいけなし、皆が可愛いって言うものにも、やっぱり可愛いって言わなきゃいけないんスよ。…そうしないと、ひとりぼっちになってしまうんス」


「だから"空気"に流されるままに勇者をやってるのか?」


菘は悲しそうに頷く。


「私、バカなんスよ。だから世界の為だとか、サクパイがこれから殺されちゃうーとか、そーいうのもよく分かりません」


それはきっと、誰だってそうだ。直接触れて、その冷たさを実感することでしか、人の『死』は理解できない。


理解できないからこそ菘は、これから死にゆく俺に、普通に接することが出来るのだ。


「だから、今は流されるッス!この世界で本当に自分がやりたい事が見つかるまでは、流されに流されまくってやります!」


「そっか……」


俺は思わず、菘の頭をなでた。


そして、我にかえり、急いで手を引っ込める。初対面の女性になんてことを…ここが日本なら、事案発生だ。


「レディーの頭を突然触るとか、失礼ッスよ!」


「わ、悪い。いい位置にあったからつい……」


「わー、いい位置とか!?チビであることを暗に揶揄している!?」


「いや、チビって言うほどでも…」


彼女の詳しい年齢は知らないが……年下の女性であるなら、至ってありふれた身長だろう。


「まあ、今回は許してあげるッス。そこまで嫌って訳でも無かったですし」


無かったで寿司お寿司。うん、このギャグは心の中で取っておこう。


「っとと、本当にそろそろ行かないとッスよ」


「だな」


扉を開けて一歩を踏み出そうとする俺を、菘が呼び止める。


「サクパーイ!また会えたら会いましょ!」


「会えたらな」


そして俺は、とてもとても長く感じられる道を、ゆっくりと歩き始めた。



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