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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第一章 小さな本物
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必要と言われる世界で

 「ねえ。おかあさん。」


幼い少女が二人。母親であろう女性に問いかける。


美しい金色の髪に紫の瞳をした少女。その二人の顔、髪型はうり二つである。


「どうしたの?」


お母さんと呼ばれた女性が優しく微笑む。


「なんでアタシとアイルはおなじかおをしているのー?」


少女の片方が質問をする。


「それは、貴方達が双子だからよ」


「ふたご?」


今度はもう片方の少女が首を傾げる。


「そう、双子よ。」


「なんでふたごなの?」


それはね…と一呼吸おいて…


「一人じゃ寂しいから双子に生まれたのよ。アイラも、アイルも。二人でいれば寂しくないでしょ?」


二人の少女……アイラとアイルは少しだけ顔を見合わせて


「「うん!」」


年相応に、可愛らしく頷く。


「でも、これだけは約束して。」


なにー?と二人が首を傾げる


「貴方達は鏡なの。どちらかが悲しい顔をしていたら、もう片方も悲しい顔をしてしまう。」


二人はまた、「んー?」と首を傾げる。


よく意味がわからなかったようだ。


「だから、約束。二人でいる時は──ずっと……笑顔でいてね」


─それならば簡単だ。なんせ、二人は仲良し。どこに行くにも一緒。


約束するまでもなく、二人でいれば自然と笑顔になれる、そんな姉妹。


だから元気よく答えるのだ。


──とびきりの笑顔で──


「「わかった!!約束!!」」


✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦

「ごめんね、私の治癒魔法じゃこれが限界。」


「全然大丈夫。血も止まったし、痛みも引いたよ。」


アイラはリープを気絶させたあと、俺の左肩に刺さった鎖を抜いて(めちゃんこ痛かった。)から魔法で傷を癒やしてくれた。


「よし。」と言ってアイラが立ち上がる。


「そろそろ行こうか。」


と、手を差し伸べてくる。


先ほど、ここから逃げると決めた時と同じ状況。


あの時は迷いもなく握った彼女の手を……いまは握れなかった。


「どうしたの?」


アイラが不思議そうにこちらをみる。


「なぁアイラ。俺って死んだほうがいいのかな」


口をついて出たのはそんな言葉。


死。日本では誰もが使ったことある言葉だろう。喧嘩したときに、あるいは冗談で友人に。


でも、今のはそんなのとは違う。本気で…そう思ってしまった。


「ちょっと…どうしたの急に。ここから逃げるんでしょ?」


そう。ここから逃げると決めた。アイラの願いだからと。アイラの為に生きようと決めた。


それほどまでにアイラは輝いていて…眩しくて………他の事が見えなかった。


アイラの願いと…天秤にかけられているのは世界なのだ。


「リープは言ってたよな、世界のためだって。アイラに聞いて理解はしていたつもりなんだ。命を狙われてるって。でも…」


アイラは真剣な顔で聞いてくれている。


「向けられた殺意は…思ってたよりも冷たくてさ…でもその殺意は、私怨とかじゃなくて、この世界のためっていう正義で。役に立たない俺なんかが死んで、他に優秀な勇者が呼ばれるってんならそれは……素晴らしいことなんじゃないのか?」


漫画や小説。ゲームなんかでもよくある話だ。


世界を救うためにはヒロインが死なねばならないとか…そんなのはよくある設定で、もはや古いとさえ思ってしまう。


そんな物語の主人公は言うのだ。


「君を含めて世界だろ!」


「一人を救えないやつに世界が救えるか!」


「君も世界もどっちも救ってみせる!」


と。


とてもかっこよくて男らしい。そして……


無責任だ。


力があればいろんな選択肢があるだろ。


なら、力がなければ?


世界と天秤にかけられたのが、救いたい大切な人だったらそう言う事も言えるだろう。


でも、それが自分だったら?


誰にも……家族にすら愛され無かった俺の命が世界の為になるというのなら。それはきっと……()()()()()


「死ぬのも、痛いのも嫌だ。でもそれが仕方の無いことなのなら、この世界のためになるのなら…………………アイラ?」


顔を上げると、アイラが涙を流していた。


死んだほうが世界のためになる。そんな俺なんかのために。涙を。


「君の……っ!サクラの世界じゃ無いじゃないっ!」


アイラの瞳に見つめられる。



「だって可笑しいよそんなのっ…!なんでそんな簡単に、死ぬ事が素晴らしいなんて言えるのっ!?死んじゃったら全部終わっちゃうんだよ!?」


「じゃあどうすればいいんだよ……っ!」


思わず叫んでしまう。


あまり大声を出せば人がやってくる。そもそもリープが起きてしまうかも知れない。


だが…そんな事を考えられないほどに、頭は熱くなっていた。


「リープは言った…っ!本物の時間なんて無かったって!俺が勇者になれなかったから!!」


この黒い感情を。どうしようもないやるせなさを。アイラにぶつける。


ぶつけてしまう。


「この世界には勇者が必要なんだろう!?俺は必要じゃないんだろ!?そんな俺が唯一必要とされること……それが死ぬことなら…もうそれで…いいじゃないか………っ」 


「…………っ!!」


バチン!!!!


長い長い廊下にそんな音が響く。

 

「え?」


一瞬の沈黙。何が起きたのかすぐに理解できなかったが、ジンジンと痛む頬によって理解する。


アイラにビンタされた。



アイラは変わらず涙を流しているが、どこか怒ったような……いや…?悲しい表情?


「必要じゃ無いなんて……そんなこと言わないで…」


頬をぶたれたせいか。いつの間にか熱くなっていた頭は冷静に……と言うよりも驚いていた。アイラが人をぶつだなんて。


「世界がサクラの死を必要としてるから。だから死ぬって言うのなら。」


アイラが口にする。


俺が。


双葉桜が。


何よりも。


聞きたかったであろうその言葉を


「 ─()()()()()()()()()()()()─」


コクン…と胸が高鳴る。


元の世界でも、この世界でも。


その言葉を、その言葉だけを望んでいたのかも知れない。


誰かに見られることを、必要とされることを。


「世界のために死ぬと言うのなら。私のために生きて。」


この言葉だけを聞けば、なんと強情な事を言っているのかと思われるだろう。


アイラ一人の願いと世界の意志が釣り合うわけがない。


馬鹿馬鹿しい。


実に馬鹿だ。


でも……嬉しい。


「私の為に生きて。そして、アタシにも誰かが救えるんだって、サクラが教えて欲しい。」


「俺が必要なのか…?」


喉から出た声は……震えていた。


瞳も潤んでいる。


ダサい、恥ずかしい。


女性の前で泣くなんて。


でも、涙は止まらない。止まってくれない。


「うん。私にはサクラが必要。」


「俺じゃなきゃだめなのか…?」


「うん。君じゃなきゃダメみたい」


やっぱりこの人は………光だ。


「サクラ。」


アイラが手を差し伸べてくる。


「もう一度言うね。」


「うん」


「そろそろ行こうか」


一度掴んだ手。


そして………次は握れなかった手。


この世界の悪意に触れ。


リープの、世界の為という意思に負けて掴めなかった手。


この世界にとって俺は間違いなく邪魔な存在だ。


どうやら死んだ方が世界のためになるらしい。


世界を敵に回す。その覚悟がやはりまだ出来ていなかった。


だからリープの正義に怯んだ。


でも…もう大丈夫。


アイラのいった通り。


俺の世界じゃない。


俺の世界は──アイラだ。


だからもう迷わない。迷いはしない。


また俺は……アイラの手を力強く握った。


今度はもう。離さない。

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