始まりの悲鳴
「どういうことなんだよ!」
薄暗い部屋の中、青年の叫び声が聞こえる。
『青年』……か。あまりにも他人行儀な呼び方。だけどそれは仕方のないことだ。だって私は……彼の本当の名前さえ知らないのだから。
この部屋には、青年と私の他に、メイド服を着た女性がいた。
「だからぁ、審査の結果、第六勇者様の処分が決まったって、何回も言ってるのニャ」
メイド服を着た女性が、おどけた声を出す。先程の青年とは対象的だ。対象的すぎて、不気味にさえ思える。。
「なぁアイラ……。冗談だよな…?」
救いを求める青年が私の名前を呼ぶ。だけど……私はそれに答えることもできずに歯を食いしばった。
「アイラ様とのお別れも終わったならそろそろ行くのニャ。……恨むなら、自分の平凡を恨むんだなァ」
ーーー最後は底冷えするような声音だった。
「嫌だ、助けてくれ!話が違うッッッッ!」
青年は悲鳴をあげ、命乞いをする。だが……このメイドにそんなものは通用しない。
「それじゃあ………。世界の為に死んでくれ」
そう言うとメイドは、青年に向かって……勢い良く右手を突き立てた。
……メイドの鋭く尖った爪は、いともたやすく青年の胸を貫いてしまう。
「あ………、ぐはっ…………」
あたりに鮮血が舞い、青年は声にならない声を漏らす。
その光景があまりに……哀れで、あまりに痛々しくて、私は瞳を閉じた。
──哀れ?──痛々しい?
どの口が言っているんだ。
私は、いまさっき命を落とした彼に同情なんてできない。する資格が無い。
だって……彼を殺したのは。
ううん。彼だけじゃない。幾度と繰り返されたこの悲劇を生み出したのは。
他の誰でもない。
──私自身なのだから──