異世界の昔話
むかしむかし、とある島国にはとても強い者達がいた。
彼らは自らのことを「吸血鬼」と称していました。
彼らはとても強く、そして頭が良く、更には長命でした。唯一の弱点は太陽の光です。
彼らは人間を虐げ、人間の血を啜り、殺戮の限りを尽くしていました。
人間達は考え抜いた末に、幼い子供を神に捧げ、「吸血鬼を滅ぼしてほしい」と願いました。
神はこの願いを聞き届ける代わりに、吸血鬼に今後二度と関わらないことと、更に107人の子供を捧げるように命令しました。
そして吸血鬼には、いま生きる魔の国の者の最後の一人が死に絶え、完全に世代交代を終えるまで、「人間は食べ物という本能を忘れる」「力を人間並みにする」という呪いをかけることにしました。そして、人間と交わってはならない。と、命令しました。
それからというものは、吸血鬼と人間は同じ大地に住めど、全く交流がなく、お互いが国境沿いに兵士を並べていました。神様の裁定から数百年が経ち、互いに互いの存在を忘れかけ、国境の警備も手薄になった頃、吸血鬼の国と人間の国の間にある深い森の夜中に、家出をした一人の人間の男が紛れ込みました。
そしてたまたまその森に吸血鬼の国の女の子が、狩りに夢中になり入り込んでしまいました。
二人はそこで出会い、幾度かの逢瀬を重ねていきました。そして、愛し合いました。
彼女が人間の男を、吸血鬼の国に招き入れます。男は吸血鬼の国だとは知りませんでした。
時は真夜中の午後12時。吸血鬼の達にとっての真昼でした。
その時、吸血鬼の国でで最も長く生きていた吸血鬼が死にました。
呪いが解けました。
そう、「人間は食べ物」という本能が甦がえり、「吸血鬼」としての力を取り戻したのです。
あるものはその感覚に身を任せ暴れまわり、あるものは自身の得たいの知れない感覚に驚愕し、あるものは自身の感覚に吐き気を催しました。
そして、彼らのその興奮が収まる頃、自らの鼻孔をくすぐる、極上の馳走を目の前にしたときの臭いを感じとりました。
そう、人間の男です。
そして、尤もその匂いに当てられたのは、尤も近くにいた吸血鬼の少女でした。
ですが少女は自らのその本能を否定するために、その素晴らしき愛という感情を理性として、踏みとどまり、少女を食おうとする同族を次々と打ち倒し、未体験の空腹を紛らわせるために、同族の血を啜り、肉を食らい、骨をしゃぶりました。
同族を1人、また1人と倒す内に少女は同族の力を取り込み、ドンドン強くなりました。
1人、また1人と食していくうちに、空腹は満たされ、そして彼女はとうとう最後の吸血鬼になりました。
それを見ていた男は、既に死んでいました。とっくの昔に死んでいました。
彼女は同族を食らうことに夢中になり、最後の吸血鬼となるまで、数十年もの時が経っていました。
その間に男は逃げましたが、途中で吸血鬼に殺され、食われていました。
彼女は1人になりました。
彼女は人間の国に紛れ込みました。
姿を変え、性別を変えて、常に人間の国の中枢にいました。
彼女は今、神に召し上げられた最初の1人の子供の子孫と、救えなかった人間の男の生まれ変わりと共にいます。