ヒーロー到着
動画が公開されてから、およそ2時間。
電車での移動を考え、到着は5時になってしまう。
「間に合わないかも……」
電車のつり革に掴まりながら、さち子が呟く。
マモルは、スマホでニュース速報を追っている。
「……機動隊は、市民の避難を優先させてるみたいだ。 まだ、僕らが介入するチャンスはあるかも」
(てか、そこまでしてライオン捕まえなくてもいいんじゃ……)
そんな風に思っていると、席に座っていたマモルが、コレ、とスマホを差し出してきた。
「さち子、到着までに、この動画見ときなよ」
画面を凝視すると、こんなタイトルの動画が目に付いた。
「……タライ壮の、ライオンの倒し方?」
新宿に到着すると、駅は騒然としていた。
警察の機動隊が慌ただしく駆け回っており、一般人を誘導している。
「申し訳ございません、現在、この先は立ち入り禁止です!」
駅に人が溢れかえっており、人身事故があった時のごとく、辺りは混沌としている。
「これじゃ、身動き取れな……」
その時、駅の乗客の一人が叫んだ。
「ユーチューバーの、SACHIKOだっ!」
その声に反応し、みんなが一斉にさち子に振り向く。
(な、なになに!?)
わーっ、と歓声が沸き起こる。
一人の、学生と思しき青年がさち子に近づいてきた。
「SACHIKOさん、俺、ファンなんです!」
握手を求められ、何となくそれに応えていると、警察がやって来た。
「……ここから先、一般人は立ち入り禁止だ」
周りの乗客がブーイングを飛ばす。
「SACHIKOさん、俺たちが警察にタックルして、道を空けるんで、その隙に走っちゃって下さい」
さっきの青年が、さち子にそう耳打ちした。
「え、えええ……」
「いくぞっ」
青年2人が、背後から警察官にタックルを見舞う。
「さち子、行くよっ!」
マモルが走り出し、状況の整理のつかない中で、さち子はライオンの元へと向かった。
「グルル……」
新宿の東口に向かい、立体交差から大通りを見渡すと、ライオンがいた。
機動隊が盾を持って、包囲を固めている。
立体交差を下り、近くにいた機動隊の一人に話しかけた。
「すいませーん」
「うわぁっ!? な、何で女性がこんな所に?」
さち子が、なぜ銃を使わないのか、と尋ねると、使用の許可が下りない、と答えが返った。
「持ち主のサーカス団から連絡が入って、調教師の到着まで待って欲しいって言われたんだ」
「……さち子、やっちゃおうよ」
マモルが背負っていたショットガンを構える。
「……行きますか!」