マモル
駅から歩き、自宅に到着したのは3時過ぎだった。
玄関に到着すると、手を後ろにやり、扉にもたれかかるマモルの姿を発見した。
「……あんた、何してんの?」
「お帰り、さち子」
マモルは、持っていたスマホを操作し、動画を見せてきた。
「……何よ、それ」
「狩猟祭さ。 マンボウの企画で、場所はまた新宿だよ」
写し出されたのは、かなり大きなトレーラーで、路肩に止まると、積荷の扉が開いた。
「……あっ!」
そこから現れたのは、金のたてがみを蓄えた、ライオン。
そのちょうど横を歩いていた男性が、聞いてないよ! と叫び腰を抜かす。
「さち子が遊んでる内に、もう始まっちゃったよ。 ライオンを仕留めたら、景品としてニンテン〇ースイッチが貰えるんだ」
「……」
命を張ってそれ? と、言いかけた瞬間、さち子の心臓は跳ね上がった。
「そして、獲物はもう1人いる。 お前だっ!」
マモルは、今度は左手に隠し持っていたショットガンをさち子に向けた。
「あ、あんた、勝手に人の家から……」
「さち子、マンボウは君に目を付けたらしいよ。 悪いけど、僕はどうしてもスイッチが欲しいんだ!」
今の話で合点がいった。
昨日、爆弾の爆発を阻止したさち子。
マンボウにとっては、面白くない結果だったらしい。
「……マモル、あなた、本当にスイッチなんて欲しいわけ?」
「ほ、欲しいに決まってんだろ!」
さち子は、マモルの目を見据え、話しかけた。
「……あなたは、本当はそんなもの欲しいとは思ってない。 じゃなきゃ、スマホがあるのに、わざわざうちにパソコンなんて使いに来ないハズ」
「くっ……」
銃口を向けるも、マモルは引き金を引けない。
「良く考えなさい。 私を撃ったら、もう構ってあげれないわよ」
「……ざぢごの、ぐぜにっ」
むせび泣き、マモルはその場にへたり込んだ。
(構ってもらいたい年頃なのよね……)
さち子は、マモルの腕から、ゆっくり銃を引き抜いた。
「……ごめんね、マモル」
学校に通っていないマモルには、友達がいなかった。
ある日、ケンカをしたからもう学校には通わない、と言ったらしい。
(マモルのお母さんは、キャバクラで働いている。 身を削って働く母親に、気を遣ったのよね……)
家のローン、生活費、そして学費。
マモルは、少しでも母親の負担を減らすために、自分なりに考えて学校に行くのを辞めた。
友達と遊びたい盛りのマモル。
その相手をしてくれるさち子は、マモルにとって貴重な存在だったのだ。
「今からでも間に合うわ。 新宿に向かいましょ!」