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主婦の暇つぶし  作者: oga
10/17

調教師

「これで、トドメよっ!」


 さち子がフライパンを振り上げた時、か細い声? が聞こえた気がした。


(……やっぱり、気のせいか)


 フライパンの柄を握りしめ、全力で振り下ろす。

縦に構えたフライパンが、ライオンの額に命中した。


「グ、ハァッ……」


 ズウン、と巨大が横たわる。

ふぅ~、と汗を拭うと、マモルが呟いた。


「さち子、横」


「……ん?」


 横を向くと、キックボードに跨がった女子が、こちらを睨み付けていた。

セーラー服を着ており、見た目のあどけなさから、高校生かと思われた。


「待ってって、言ったじゃん」


「……ご、ごめん。 てか、あなた、もしかして……」


 機動隊が、調教師が来るまで待て、と言っていた。

この目の前の少女が、その調教師なのだろうか?

少女は、ライオンに近づくと、こう言った。


「……何で逃げ出したの? もう少し我慢すれば、私たち、自由になれたんだよ」


(……複雑な事情がありそうね)


「どう思う? マモル」


「……さあ」


 マモルはスマホを手に持ち、何やら動画を編集している。


「……って、動画上げてたのあんただったんかい!」


「いいじゃん、人気になれたんだし」


 無断で動画を上げたマモルには、後で文句を言うとして、今はライオンと少女の方が気になった。


「ねぇ、失礼じゃなければ、事情を教えてくれない?」


 少女はこちらを一瞥すると、少し考える素振りを見せたが、いいわ、と答えた。


「……私たちは、サーカスの団員で、恋人同士だったのよ」


 少女の名前は鈴子。

親がサーカスの団長を務めており、幼い頃から団員として各地を転々としていた。

そんな中、新しく一人の男性が入団してきた。

イケメンだったこの男は、鈴子と恋仲になる。


「ここを抜け出して、2人で生きていこう」


 しかし、その会話を他の団員に聞かれ、告げ口される。

何やかんやあって、男の団員は呪いをかけられ、ライオンの姿になってしまったとの事だ。


(……美女と〇獣っすか)


「1年間、ライオンの姿で働けば、サーカスを抜けてもいいってパパに言われたの。 あと、ほんの1ヶ月だったのに……」


 少女は目に涙をためた。


「……鈴、子」


 その時、ライオンが最後の力を振り絞り、語りかけてきた。


「……団長の、言うことは、嘘だ。 俺は、それが分かっていたから、抜け出した。 ガハッ」


「もう喋らないで!」


「……俺は、ずっとお前のそばに、いる」


 そう言い残すと、突然、ライオンの体が光りに包まれた。


 


 



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