プロローグ
「つまんないよ~、つまんないよ~」
専業主婦のさち子(32)は、いい年こいて、ジタバタしていた。
その時、カン、と窓枠に小石がぶつかった。
「はっ、何やつ!?」
シュタ、と起き上がり、戦いの構えを取る。
「僕だよ!」
「……何だ、マモルか」
マモルとは、隣に住んでいる不登校の小学生で、さち子の遊び相手である。
「パソコン借りたいんだけど」
「残念でした~、私がこれから使うんです~」
「この性悪ババア!」
しかし、さち子は耳を塞いで聞こえないフリを決め込んだ。
「こんにゃろーっ」
マモルは一旦家に引き返し、脚立を持ってきた。
「知ってんだ、お前んちの二階、いつも鍵してないって!」
脚立を梯子にし、二階へとよじ登る。
「ちいっ」
さち子も同時に駆け出す。
マモルの侵入を許すのが先か、さち子が鍵をかけるのが先か。
(スタートを制したのは私! この神速のさち子を甘くみ)
ガン、と足の小指が扉にぶつかる。
「がああっ……」
身悶えしている内に、マモルが2階から降りてきた。
「……何してんの、さち子」
結局、戦いを制したマモルに、パソコンを使用する権利が発生した。
「どうせまたユーチューバーでしょ」
「いーじゃん」
マモルは、お気に入りのユーチューバーの動画をチェックするのが日課となっていたが、今日は動画は更新されていなかった。
マモルがパソコンを閉じようとした時、さち子が割って入った。
「待ってよ! この人、ちょっと面白そうじゃない?」
さち子が目をつけたのは、新着の一番上に上がっていた、「新宿に爆弾仕掛けてみた☆」という、何やら物騒なタイトルの動画だ。
「僕、注目されたいからってこういう過激なことする人嫌い」
「あんたが一番過激よ!」
タイトルをクリックすると、頭にマンボウのぬいぐるみを乗せた男が、画面に映し出された。
撮影場所は、狭い個室のようだ。
「ご機嫌よう! 今から僕が、プラスチック爆弾を新宿のどこかに仕掛けるよ! 最初は、西口にある漫画喫茶の個室だ。 停止操作のできるリモコンも入ってるから、頑張って! 制限時間は、2時間!」
そこでプツリと動画は途切れた。
「……警察呼んだ方がいいかしら?」
スマホを取り出して迷っていると、突然マモルが立ち上がった。
「何してんださち子! 爆弾を止めに行かなきゃ!」
「……えっ」