第10話 そして、勇者であるために―1
ルクスパレスを挙げての一大イベントである、太陽神スコルの聖誕祭。
その前夜祭で表彰を受けるため、ぼくらが招かれたのはルクスパレス城に併設された闘技場だった。
「ね、街はすごいお祭り騒ぎだったね」
控え室にて、ぼくは椅子に腰掛けたナギに話しかける。
しかしナギは緊張した面持ちで、ぼくの言葉など聞こえていない様子だった。
「いっぱい出店があってさ、おいしそうなものもたくさんあったし。色んな場所で音楽とダンスをやってたよね。こんな状況じゃなきゃ、楽しんでたんだろうけどな」
「分かったから、ちょっと黙ってろよ。……考え事をしてるんだ」
素っ気無い態度でナギは言った。
待ちに待った、ルクスパレス王と直接接触できるチャンス。
それも、こちらが望む褒美までもらえるという話なのである。
どんな展開で自分有利に話を進めるか、ナギは頭をフル回転させて考えているのだろう。
「つか、お前はリンのことが心配じゃないのか? よくそんな呑気なことを言ってられるな」
「呑気って……そんなわけないじゃん! ぼくだってリンのことは心配だし、どうにかして助けたいと思ってるよ! だけど、ナギがいつになく真剣な顔をしてるから……少し、緊張ほぐすことも必要だと思って」
「そりゃあ真剣にもなるだろ、千載一遇の機会だからな。そこまで分かってるなら静かにしてろよ」
「静かにしてろって……そんな言い方しなくたっていいじゃん。ぼくにだって、何か出来るかもしれないし。一人で抱え込まないで、相談してよ」
「はぁ? 空飛ぶブタのお前に何が出来るんだよ。今のオレには、強力になった“ゆうしゃパワー”だってあるんだ。頼むから、足手まといにはならないでくれよ」
「なッ……!」
今までのナギだったら言わなかったような、辛辣な言葉だった。
“ゆうしゃパワー”のことで、増長しているのだろうか?
もしくは、朝の“あの出来事”のことで、ピリピリしているのか。
「い、今までだって、ナギの手助け出来たことは何度もあったじゃないか!」
「この前、天狗にやられてた時は、完全にオレが助けてやったけどな。お前の面倒を見てる余裕は、今は無いんだって……分かってくれよ、頼むから」
そう言って、ナギは頭を抱えて黙り込む。
これ以上話すことは無いと、ぼくを拒絶するようだった。
「……そりゃ、ぼくだって、わけの分からないままこの世界に来て、気がついたらこんな体になってて。正直に言えば、こっちの世界に来てすぐの記憶って何も無いんだ。だからきっと今までも、散々ナギに迷惑をかけてきたかもしれないけどさ」
だけど……何故だろう。
今日のぼくは、そう言われても引っ込む気にはなれなかった。
リンを助けるチャンスというのが、知らずのうちにぼくの心を奮い立たせていたのかもしれない。
「ぼくにはぼくのやり方で、ナギの役に立つことが出来るんだ!」
「な、お前、どこ行くんだよ!?」
「偵察! 少しでも情報を集めてくるよ。今のぼくにとっては、この小さな体が武器なんだ」
それで、ナギの鼻を明かしてやろうと――この時のぼくには、そんな気持ちがあったんだ。
この控え室を出る、その直前までは――
「ぶへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ドアノブに近寄った瞬間、ドアの方が勝手に開き、ぼくは勢いよく吹き飛ばされた。
「何やってんだシュー!?」
壁にぶつかったぼくは反動で天井まで跳ね返り、さらに落下したテーブルの上にあった花瓶をぶっ飛ばす。
「のわぁ!? な、なんだこの惨状は!?」
「すまない、姉が不躾な真似をした」
まだ目が回って焦点が定まらないが……ぼくらの控え室に入ってきたのは一組の男女だった。
金髪碧眼、美男美女の二人組は、ほぼほぼ同じに見えるそっくりな顔をしていた。




