第9話 太陽の都―7
「えーっと……つまりどういうこと?」
「だから、瞬間的にアイツらの背後に回って、首筋に手刀を入れてから元の位置に戻ったんだって」
「……ナギ、ぼくのことからかってる?」
「いやマジ。マジもマジ、大マジだ」
食堂から出て宿に戻る道の途中。
すっかり暗くなった街中で、ぼくとナギは押し問答をしていた。
「いやいや、さすがにそんなこと言われてもぼくも納得できないよ! そんなマンガの達人みたいな動きっ!」
「って言われてもなぁ。なんか最近、そんな感じなんだよなー」
ナギは困ったようにポリポリと頬を掻く。
意外と真面目なトーンである。
「あ、そういえば……」
ふと、ランドと別れる前の会話を思い出した。
確か、腕力で負けそうになったって、そんなことも言ってたような……。
「ナギ」
嫌な予感がした。
急に低い声を出したぼくに、ナギも少し驚いたようである。
「な、なんだよ」
「それってまさか……この前の、天狗との戦いからじゃないの」
あの時、ナギが見せた“ゆうしゃパワー”の暴走。
一日三回の制限を超えるとあんなことになるなんて、思ってもいなかったけど。
要するに、ナギの中にはあれだけの力が眠っているんだ。
普段は封じられている“ゆうしゃパワー”が、あの時以来、蛇口の壊れた水道のように漏れだしているのだとしたら。
急激なナギのパワーアップも、説明がつくかもしれない。
「確かにそうだけど、んな深刻な顔すんなって。今のは“ゆうしゃパワー”でもねーし、力を乱発する気はねーよ」
「だから心配なんだって! 無意識のうちに、あの恐ろしいくらいの力が使われてるのだとしたら――」
「いたぞラウラ、あっちだ!!」
ナギとの話の途中だったが、復活したペトラルカたちにもう見つかってしまったらしい。
響き渡った怒声を合図に、ナギは一目散に走り出す。
「ちょ、手刀で気絶させたんじゃないの!?」
「店の人間に起こされたんじゃねーの。さすがに寝っぱなしは不自然だろーし」
「何その適当な回答!? やるなら一週間は寝込むくらいやっといてよ!」
「お前って……追い詰められるとそういうとこあるよな……」
何故かナギは若干引いている。
別におかしなことは言ってないと思うが……。
「ああクソ、道に迷った。さすがに地の利は向こうにあるか」
「こっちは行き止まりだ、どうしよう!」
スラム街をわけも分からず走り回った結果、袋小路に入ってしまった。
ぼくは空を飛んで逃げられるけど……ナギにはここから逃げる術はない。
「戦うしか、ねーか」
ティルヴィングに手をかけるナギ。
ペトラルカとラウラの足音が近付いてくる。
戦いは避けられないと身構えた、その時だった。
「どっわぁ!?」
素っ頓狂なナギの悲鳴が響く。
振り返った瞬間、ナギの姿は足元に広がった闇の中に落ちていた。




