第9話 太陽の都―4
入国審査の際は怪しまれることはなく、むしろドラゴンの首を持っていったら宿まで手配してくれると言ってもらえた。(一人でドラゴンの首を運ぶことになったナギが終始不機嫌だったのは言うまでもない)
ランドの指定した宿屋に泊まれないと困るので、それはナギが断ってくれたけど。
ぼくらは太陽神スコルの生誕を祝う前夜祭で表彰されることとなり、ドラゴンの首はルクスパレスの兵士が回収し、代わりに招待状を一通貰うことが出来たのだった。
「で、間の悪いことに前夜祭の開催が明日ってわけだ。デンスとランドは間に合いそうにねぇな」
宿の近くの食堂にて、ぼくとナギは夕食を取っていた。
もちろんぼくは何も食べれないので、ナギが定食といちごミルクを飲み食いする様子を、ずっと眺めていたのだけれど。
「……っていうか、それ食い合わせ悪くないの?」
「ばっか、いちごミルクに合わない食事なんてモンは存在しないっつの。分かってないねぇ」
したり顔で語るナギ。
食通になればどんな時でもいちごミルクでいけるのだろうか?
「にしても、なんていうかこう……」
あらかたナギが食べ終わったのを見て、ぼくは小声で思っていたことを話し始める。
「意外と、王都って言っても治安の悪い場所はあるんだね。騎士さんが通るような大通りと違って、ここはどっちかっていうと……」
「スラム街って言いたいんだろ?」
「わーっ! 声が、声が大きいって」
さらっと言ってのけたナギに、ぼくは焦って大声を出した。
ん? と周囲の視線がこちらに突き刺さる。
どう見てもガラの悪そうな人たちの視線に、ぼくは極限まで縮こまった。
「そもそもここ食堂じゃなくてほぼ酒場じゃん。なんでランドさんはこんなとこ知ってたんだろう」
「まあ腐っても山賊だからな。日の当たる世界とは縁遠いのだろう。なむなむ」
哀れむように合掌をするナギ。
「それにお前も聞いただろ? ルクスパレスでは数年前に内乱が起こったってさ。それで復興が遅れてる地域が、治安が悪いんだと」
「だけどまさか、その地域の宿に泊まらなくちゃいけないなんて……ペトラルカたちに見つからないのはいいけど、別のトラブルに遭遇しちゃうそうだよ、これじゃあ」
山賊とはいえ、ルクスパレスの領地で暮らしていただけのことはあり、ランドはルクスパレスの歴史には精通しているようだった。
そのため入国前の注意事項を、ランドから先に聞いていたのである。
***
王都ルクスパレスでは数年前、暴君と恐れられていた前王の独裁政権を打ち破るため、反乱軍とスコル教の一部が手を組んでクーデターを起こしていた。
反乱軍は見事に前王の首を討ち取ることに成功したが、内乱がもたらした被害も大きかった。
都市の一部は大火に見舞われ、家財を失った者や前王派の一部がスラム街に集い、そこは未だに無法地帯と化しているらしい。
そのため太陽神スコルの聖誕祭は、復興が正常に行われていることのアピール、またスコル教との友好関係を築くためのイベントとして、国を挙げて行う一大行事なのである。
なおスコル教とは、ガルフロア大陸における三大宗教の内の一つであり、スコルは太陽を司る神のことらしい。
そしてスコル教自体が王家とは別の権力を持つ、国の中枢となる独立組織だそうだ。
つまりルクスパレスの政治は、王家とスコル教、二つの権力によってバランスが取られているのである。




