第8話 ダンジョン・イン・ザ・“ゆうしゃ”―9
「こ、この体でよかった……」
幸い(?)今なら涙も出ないし、表情でナギに悟られることもない。
へへーんと、堂々とした態度でナギに接してやろう、今までこき使われてきた借りを返してもらうのだ。
「んじゃ、このド変態ストーカーとの戦いももうおーしまいっ」
ズバッ、とティルヴィングで天狗の首を斬り飛ばすナギ。
バスケットボールみたいに、生首が数回床を跳ねて転がっていった。
「って、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!?」
「いや、えーってなんだよ。うるせぇな」
ナギは血を振り払うためティルヴィングをブンブン振るっている。
ちょ、逆に何でそんな平然としてるの、こわっ!?
「ひ、ひ、ひひひひひ、人殺しなんだよ!? いちおう、今のはっ!」
「んなの、わーってるって……。でもこうしなきゃ、コイツはずっとオレたちの後をつけてくるだろ? 自分で“ゆうしゃ”狩りが目的って言ってたし」
そうだけど……っ!
確かにそうなんだけど、それってぼくらがやっていいことなの……っ!?
「ランドのおっさんとか見てりゃ分かんだろうよ。命の取り合いなんて、こっちの世界じゃ珍しくもなんともないって」
「で、でもぼくは……ナギに、手を汚して欲しくない、っていうか……」
ぼくが食い下がると、ナギはポリポリと頬を掻く。
「あー、それなら、どのみちさ……。オレにとっては、ほら、初めてじゃないっつーか……」
あ――そうだ。
ぼくは……なんて酷いことを、ナギに言ってしまったのだろう。
「ご、ごめんナギ。……ぼくが悪かったよ」
「いや、いいよ。改めて謝られるとオレも困るし。まあ、心配すんなって。こういう汚い作業も含めて、お前のことはオレが守ってやるさ」
そうだ、そうなのだ。
既にナギは、ぼくのために、一度、その手を血に染めて――
「がっ」
その時、だった。
変な音がしたと思って、ナギの方を改めて見やる。
そこには、自分の口元を押さえるナギの姿があった。
「え……?」
ナギがゆっくりと手を離していくと、その手のひらは真っ赤に塗れている。
「なん……で……」
何故、自分が吐血しているのか。
それをまったく理解できないようで、こんな状況だというのにナギは呆けた顔をしている。
ナギの腹部からは――槍となった黒い靄が突き出ていた。
滴り落ちる鮮血と、力を失い、その場に崩れ落ちるナギ。
「ナギぃ!?」
「来る……な……っ!」
とっさに近付こうとしたが、ナギの制止にハッとする。
首を失った天狗の右手から何本もの黒い靄が放たれていて、それらは獲物を狙う蛇のように、鎌首をもたげ蠢いていた。




