第8話 ダンジョン・イン・ザ・“ゆうしゃ”―8
全身の意識を一点に集中させる。
呼吸が乱れていちゃダメだ。
教わった通り、平常心を保たねばいけない。
目をつむり、自分の真正面、ただ一点に、光が集まるイメージを思い描く。
あとはその完成されたイメージに、名前を付けて解き放つだけ。
そう、デンスはぼくに教えてくれたのだ。
練習では一度も成功しなかったけど……何も出来ないぼくが、パーティのみんなの役に立つため特訓した、この一撃……。
今、成功させなければ、何の意味があるっていうんだ……っ!!
「翔べ、疾駆する光条の矢よ……っ! ライトニング・ヴォルトッ!!」
見えた――靄を切り裂き真っ直ぐに飛ぶ、一条の光の矢がっ!
ぼくのイメージは形となり、迸る光が天狗の背中へと突き刺さっていった!
――ように、見えた、のだが…………。
「む?」
初めての魔法がそんなにうまく飛ぶはずがなく、狙いは微妙にそれて、天狗の右肩をかすっただけだった。
ちょっとだけ焦げた肩に驚いて、天狗はぼくの方を振り返る。
「まさか貴様も……“ゆうしゃ”の力を……?」
ピシィっ、と鳴り響く澄み切った音。
それは一瞬の出来事だった。
「あれあれぇ……? 相手の手の内まで完全に読んだのに、よそ見して逆転負けするバカ、おる?」
プスプスと、ナギの口の端から笑いが漏れている。
ナギに食らいついて放れなかった靄の蛇たちは、一瞬で氷漬けになっていて……それはそのまま、胴体部をつたって天狗の下半身を凍らせることに成功していた。
「な……まさか、こんなっ……!?」
「あーあー、今さら焦っちゃってさぁ、さいっこーにダサイやつだな、お前ってヤツは」
パキ、と靄の蛇を手でへし折るナギ。
どうやら凍らせてしまえば、物理法則の通じる相手のようである。
「よかった、ナギっ!」
「いやいや、内心オレもマジで焦ってたんだぜ? なにせ地下に降りる時に無駄に力を使っちまったからな。そいつの言い方を借りるなら、残弾数一発、って状態だったんだ」
だからナギは……ホントにホントのギリギリまで、確実にものに出来るチャンスが転がってくるまで、“ゆうしゃパワー”を使うのを控えていたのだろう。
「心配させないでよ、もうっ!」
「させるつもりもなかったけどな。オレは初めから信じてたから」
え、と思わず聞き返してしまう。
信じてたって、どういう意味――
「お前が、絶対にチャンスを作ってくれるってな。やっぱりお前は、最高のパートナーだよ」
それは、普段だったら絶対に言わないような。
協力して窮地を脱した今だからこそ、臆面もなく言えるような言葉で。
ナギはしれっとした顔で言ってたけど……そんなこと、今まで一度も言われたことなかったし、ぼくはいっつもナギの足ばっかり引っ張ってると思ったから……。
ぼくにとっては、涙が出るほど嬉しかったんだ。




