第2話 勇者の掟―1
勇者の掟。
ぼくはかつて、そうキャンパスノートの切れ端にシャーペンで殴り書きされたメモを、ナギから見せてもらったことがある。
『一つ。ゆうしゃパワーは一日に三回までしか使えない。
一つ。ゆうしゃパワーで起こせる奇跡は、魔力を用いて起こせるレベルのものである。
一つ。ゆうしゃパワーの回数制限がリセットされるためには、六時間の睡眠を取る、新たな朝日を迎える、二つの条件を満たす必要がある。
一つ。ゆうしゃパワーを持つ勇者として認められるためには、伝説の剣を携えていなければならない。』
それが突如してこの異世界“ラ・クリプス”に召喚された、ナギに与えられた勇者としての力なのだった。
いったいぜんたい、何故異世界に召喚されてしまったのか、そこまではまだ分かっていないのだが……。
一つ言えるのは、ナギは意外と異世界生活を楽しんでいるということ。
そしてついでに一つ忠告するとしたら、異世界はあくまでも実際の世界なので、RPGゲームの常識的なノリで動くのは心臓に悪いから止めてくれ、ということである。
「ありゃあな。どこまで出来るのか、そのボーダーラインを確かめてたんだよ」
――王都に向かう乗り合い馬車の中で。
ぼくの注意を耳にしたナギは、小指で耳をほじりながら何でもないことのように言うのだった。
「そりゃオレだって、いきなり人ン家に入ってきて壷を割り出すヤツが来たら頭狂ってンのかと思うさ。だけど、今のオレは勇者だぜ? どこまで許されるのか、やってみなきゃわからないだろ!?」
「その割には、ずいぶんノリノリで荒らしてたと思うけど」
「そうだっけ? そうかもなぁ? いやはや、お前がそう言うならそうなんだろうな」
ナギは顎に手を当てて、ニシシと悪戯っぽく笑ってみせた。
……ダメだ、この男、まるで反省していない。
「ま、いいじゃん。なんだかんだ山賊を退治して村に財宝も返してやって、ハッピーエンドってやつだろ」
そう言って、ナギはこの話はもう終わり、とでも言いたげにぼくの頭をポンポンと叩くのだった。
そんなナギの態度を見てると、すっかり注意をする気も失せてしまう。
……ぼくがちゃんと、ナギの暴走を止めてあげなきゃならないのに。
それなのに……こんなに楽しそうなナギを見るのは、ずいぶん久しぶりに感じるから。
だからぼくも甘いところがあるというか……結局ナギのペースに乗せられっぱなしなんだ。
「でも、これからどうするのさ? 何処に行くのかも決まってないし……まずは、その子をどうするかだと思うけど」
六人乗りの乗合馬車の中で、左側の長椅子の真ん中にナギは足を組んで座っていた。
そして“その子”は、ぼくから見てナギの奥、つまり御者側の壁にもたれかかるようにして眠っている。
安らかな寝顔は、少女の身の上の苦難などまるで感じさせない、天使のような可愛らしさだった。
ぼくは ここに いるよ