第8話 ダンジョン・イン・ザ・“ゆうしゃ”―5
「うあああああああああああああああああああああああっ!!」
わけも分からないまま、体だけが動き出していた。
何の力も持たない、何もすることが出来ないぬいぐるみの体。
だけど。
それでも。
ぼくはこの男を――天狗を許すことが出来ない。
「馬鹿め。何もしなければ、手を出すことはないと言っているだろうが……ッ!」
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ天狗へ向けて直進した。
この怒りを、苦しみを、少しでもぶつけてやりたくて。
だが、天狗の突き出した右手から、黒い靄が鋭い槍の形となって発射された。
「え――」
ダメだ、小さなこの体では、ついた慣性をすぐに止めることなど出来ない。
左右に揺れ、放たれた靄の槍を一本、二本と辛うじて避けたが、
「うわあっ!!」
三本目が体の右部を削り、鋭い痛みが全身を突き抜けた。
力が抜け、推進力を失った体が一気に失速していく。
高度も徐々に低下していく。
そん……な……。
この体じゃ、相手に一撃を食らわせることすら叶わないのか。
避けたはずの一本目が、まるで生き物のように宙でうねり、頭上から真っ直ぐにぼくを狙って下りてきた。
串刺しにされる自分を想像して身構える。
そうだ、いつもぼくは、考え無しに飛び出して、そして――
「オレの手ばっか煩わせやがって、ったく」
靄の槍を弾き飛ばす、薄緑色の剣閃。
……いつもこうして、助けられてばかりなんだ。
「ごめん……ナギ…………ッ!」
「バーカ。何謝ってんだよ、お前の面倒見るくらい、朝飯前だっつの」
頭上でニッと笑ったナギの姿は、いつもの三倍くらいカッコよく、頼もしく見えた。




