第5話 ぼくらの世界(後編)―11
翌朝、ぼくらは里の入り口でヴーツェたちに見送られていた。
ヴーツェの隣には、困った顔をしたガブがいる。
ぼくらとの別れを、少しでも惜しんでくれているのだろうか。
「世話になったな。また会えることを祈ってるよ」
「おうよ。そっちこそ、聖騎士軍のやつらにやられるんじゃねーぞ」
「ハハ……分かってるさ。ヤツらが、近いうちにまたここに来るってことはな」
ヴーツェはそう言うと、ポンとガブの頭の上に手をやる。
ガブはびっくりした様子で上目遣いにヴーツェを見やったが、嫌がる素振りはないので、きっとうまくやっていけるだろう。
「それじゃあな……って、いいのか、お前はよ?」
大雑把に手を振り旅立とうとしたランドだが、気にかけているのは、ずっと無言でいるナギのことだった。
「……別に、今さらオレが言うことなんて、何も」
ナギはまだ敗北のショックを引きずっているのか、不機嫌な様子で、すぐに歩きだそうとする。
すると、それまで何も言わなかったガブが、突然走り出しナギの手を引いた。
「あ、あ……!」
「……なんだよ。お前にとっての故郷は、ここなんだ。オレについて来たって――」
ナギがガブの手を力任せに振り払おうとした瞬間。
ガブの鋭い犬歯が、ナギの右腕にしっかりと食らいついていた。
「っでええええええええええ!? 何すんだこのバカ!?」
ナギは間髪入れずにガブに拳骨を食らわせる。
頭を押さえたガブは、泣き出すことはなく……ケラケラと、怒ったナギの姿を見て笑っていた。
「あ、なるほど」
それを見たデンスが、ポンと手を打って納得したように声をあげる。
「ガブちゃんは別れを惜しんでいるのではなくて、きっとナギが元気がないのを気にしているのですわ」
「がっはっは! 違ェねぇな。別れの時は、笑顔でいろってことだ!」
恨めしそうにガブを睨むナギの背中を、ランドが勢いよくバシバシ叩く。
「あぁもう……! お前らには、人に対する遠慮ってものがねぇのか!?」
「え……それ、あなたが言えることですの?」
デンスの鋭いツッコミが入る。
ナギは完全に怒ってしまい、いかり肩でさっさと歩き出してしまった。
そうやって、周りにやり込められているナギを見るのは、なんだかとても珍しくて、おかしくて……ぼくはプッと吹き出してしまう。
「あぁゴラァ!? 何笑ってんだよシュー!?」
「ごめんごめん。でも、こういうのも悪くないかなって……そう思っただけ」
きっと、この異世界での出会いは、ぼくらの世界では有り得なかったようなことだらけで、もちろん、それはぼくらを変えるきっかけの一つになっていて。
こんな旅が続くのなら、もう少しこの異世界を見て回ってもいいのかなと。
昨晩からのナギの姿を思い返し、ぼくはそんなことを思うのだった。




